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佐藤庫之介書論集『書の宙(そら)へ』

2021年09月08日 08時09分51秒 | つれづれ読書録
 絵画や現代アートの批評書は大量に出版されていますが、書道の評論の本は少なく、そのうちのかなりの部分が中国や日本の書の歴史にまつわるもので、現代の日本の書について論じた書物は大きな書店に行ってもごくわずかなのが実情です。
 佐藤庫之介さんは札幌在住で、この半世紀にわたり書道評論に健筆をふるってきました(肩書は「美術評論家」ですが、書道以外のジャンルの文章を拝見したことはありません)。書論集刊行委員会の作業によってまとめられたこの一冊は435ページにも及ぶもので、北海道以外の書道愛好家にとっても大いに参考になると思います。なにせ、類書が本当に少ないのです。
 ちなみに、題字は、日本を代表する書家の中野北溟氏(札幌在住)によるものです。

 ちょっとびっくりしたのは、掲載紙誌別に文章が並んでいること。
 執筆順ではなく、ジャンル別でもないのですが、これはこれで結果的に近い内容がまとまって載ることになり読みやすくなっています(文章自体はやや晦渋で、あまり読みやすくはありません)。

 次のサイトに書誌情報が載っています。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784891153953

 目次は次の通り。

書人論集成
・佐藤大朴作品集『管見・佐藤大朴素描―あるいは〈飛〉と〈骨〉のあいだ』
・小川東洲●書『近ごろの臨書―東洲書の一断面』
・定本 大澤雅休・大澤竹胎の書『青春回帰の構図=大澤雅休の芸術=』
・加納守拙遺作展記念出版「守拙遺蹤」『加納守拙という出来ごと』
・我妻緑巣の書業1991―2004『鑑賞と解説のあいだで』
・長恨歌への憧れ 山田太虚古稀記念書展作品集『「長恨歌」の遠近法―オムニバスふうに』
・古稀記念 小原道城作品集『「第十三回小原道城書作展」に寄せる』
・中野北溟の世界『方形の海、ふたたび』
・「交錯する眼差しの方へ」'08書展『五人の使徒たちに寄り添って』
・「交錯する眼差しの方へⅡ」'13書展『五人の使徒たちに寄り添ってⅡ』
・岡田大岬個展『「十年連続個展」第四回展に寄せる』『折り返した第六回展に寄せて』

女流書作家集団会報 紫陽花『書道史を学ぶ』
毎日新聞北海道版『書のひととき』
北海道書道連盟報
・第7号『第二回展によせて「思いつくままに」』
・第48号『管見・第二十回北海道書道展』
・第80号『佐藤庫之介氏札幌市民芸術賞受賞「回想的断章」』

第50回北海道書道展作品集『管見・北海道書道展―いのちあるものとして、あすへ―』
'91北海道の「書」20人の世界展『《北海道の「書」》論の契機のために』
北海道書道歴
・『解説/桑鳩の北海道―または、上田桑鳩論序説』
・『山口子羊論の一視点〈解説にかえて―〉』
美術ペン
札幌美術展
・平成十三年度「札幌の美術2002―20人の試み展」
・平成十四年度「札幌の美術2003 19+1の試み展」
・平成十五年度「札幌の美術2004」


 全体を振り返ると、メリハリがそれなりにきいた内容になっています。
 北海道の書壇を総花的にとらえるのではなく、戦前から戦後にかけての前衛書・墨象の動きに焦点を当てて、そこをめぐる動きに佐藤さんの視線が集まっているからです。そこに腰を据えて、さまざまな書家の営為に筆が及んでいるのです。
 その根底には「いかに書くか」という技法論にとどまらない、「なぜ書くのか」という、書家の生にあいわたる根源的な問題意識が横たわっているといえましょう。

 つまらない党派性や「偉い人」への忖度とは無縁の厳しい視線が、この書き手に信頼が寄せられてきた理由ではないかと感じました。
 そして、道立近代美術館を借りて開かれた「'91北海道の「書」20人の世界展」など、この何十年か、北海道の書をめぐる展覧会企画や文章は、佐藤庫之介さん抜きには考えられないことが、あらためて痛感させられます。

 編集の労苦は他としたいですが、誤字が散見されるのは残念です。 
 初出の明らかな誤字は刊行委員会の責任で直すべきではないでしょうか。


 中西出版(
https://nakanishi-shuppan.co.jp/)。本体3800円。
 2021年5月15日発行。


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