回顧と展望

思いついたことや趣味の写真などを備忘録風に

ツインタワー

2020年12月21日 15時06分18秒 | 日記

年の瀬も押し迫ってきて、本棚の整理をしていたら、2001年の同時多発テロで倒壊してしまったニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)を追悼する写真集、「World Trade Center Remembered」がでてきた。かつてWTCは、ほぼ同じ超高層ビルが2本、少し筋違いに並んで建っていた。そのデザインと建築地点は、さまざまな方向から見て一番美しくかつ威厳に満ちたものになるように選ばれたものだった。

WTC がアメリカ資本主義の象徴だとすれば、おなじような建物にはドイツ、フランクフルトのあるドイツ銀行本店ビルがある。この、総ガラス張りのビルは、高さこそWTCには及ばないもののいかにもドイツ金融(にして金融資本主義)の総本山と言うのにふさわしい、機能的で清潔、人を寄せ付けないような冷たさを放っている。一時はドイツ産業を支配する、世界最強の銀行と言われたドイツ銀行だが、最近では国際戦略・証券業務での失敗や、いくつかの不祥事にまみれ、さらにはドイツ産業の銀行離れによって公的な救済や経営危機さえうわさされているから、まさに祇園精舎の鐘の音、盛者必衰を地で行っているようだ。同じような建物には、マレーシアのペトロナスタワーが挙げられる。

こういった独立した二つの建物でなくても例えば教会建築ではパリのノートルダム寺院やロンドンのウエストミンスターアビー、ケルン大聖堂など、ふたつの塔を持つ教会建物には枚挙にいとまがない。東京都庁舎を設計した丹下健三も、あの、二つの塔状のタワーのデザインはノートルダム寺院を参考にして8角形のゴシック調のイメージを膨らませたことは良く知られている。

更に、ツインタワーではないが、同じものを同時に二つ作るというのは他にもあるようだ。たとえば、氷山に衝突して処女航海で沈没した「タイタニック号」は「オリンピック号」と同時に竣工されたし、三菱重工業が建造した大型客船「ダイヤモンド・プリンセス号」は、(名前が入れ替えになったという数奇な経緯をたどったが)「ダイヤモンド・サファイア号」と同じ船体。同じものを同時並行的に建造することによってより効率的になるからなのだろう。

効率とは違った理由で、同じものを二つ必要とするものがある。一時期ロンドンで骨董品に興味を持ち、家の近くの骨董品店に何度か足を運んだことがあった。ときどき顔を出しているうちにある時、陶磁器で気に入ったものが見つかった。ただ、かなり高い値段だったので、一つだけ買おうかとして店の主人に話しかけたところ、こういったものは必ず対で買わなければだめだ、一つだけでは全く意味がないよ、と諭された。

ヨーロッパでは、建物でも室内装飾でも何事にも左右対称の物が好まれるから、例えば装飾品などでは一つでは飾ることがむつかしいという事情がある。もちろん彼としては一つだけ売ったのでは後に残った品物を売るのに難儀するということや、高く売りたいという思惑もあったのかもしれないが確かにそう言われていれば、一つでは何か欠けているように思われてきた。結局、少し値引きしてくれたので無理をして対の物を買ったのだが今になってみればその骨董屋の主人の忠告は実に正鵠を得ていたのだということがわかる。一方、日本では厳格な左右対称にはこだわらず、むしろ、全体として流れていくようなところに雅を感じるという美意識があるようだから、こういうことは言われないのかもしれない。

ニューヨークのワールドトレードセンターのツインタワーが崩壊した跡地には今度は巨大な一つの「One World Trade Center」ビルが建設された。ひょっとしたら、あの、テロを想起させるツインタワーからの決別と言えるのかもしれない。一方、ドイツ銀行本店ビルは、まだツインタワーではあるけれども、ソーラーパネルを壁面に設置したということでかつての太陽の光を反射して輝いていた印象からは少し変わってきたようにも思われる。

それに比べれば教会の塔は健在だ。ノートルダム寺院は去年四月に火災にみまわれたが、二つの塔は火災の被害を免れた。やはり、どこかに神の加護があるのかもしれない。

今はなきWTC

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする