普段の年だと年末にかけて様々な口実で食事会の機会が増えるものだが、今年はとてもそういった雰囲気ではない。4人まで、と言われて、それでは、と少人数に限っての会食というのも、そのそもその制限人数に感染拡大防止の確固とした根拠があるわけではないから、何だかいじましい気がしていっそ今年はすっぱりと取り止め、ということにした。そういうことでここのところ、知り合いなどから声をかけられたときには、人数に関わらず今の時期に不要不急の食事会(すなわち忘年会、新年会の類)は遠慮している、と答えることにしている。
今年は断ってもどこへも行かないので何の問題もないのだが、かつて、知り合いに忘年会に誘われて、ちょっと都合が付かないので、と言って断って後、別の人と食事に行ったら、そのレストランで、誘ってきた人と鉢合わせになってしまったことがあった。そのレストランの名前はロンドン、ピムリコ通りにあった「L'incontro」。このイタリア料理店を選んだのは、長いこと会うことの無かった昔の友人がロンドンに旅行で来ていて電話をもらったから。どこにしようかと思案していたらその少し前にこのレストランに行って、味も雰囲気も良かった記憶があった。ワインの種類も豊富だった。そして何より、このレストランの名前の意味が「邂逅」というではないか。久しぶりにあう友人との会食にこれほどふさわしい名前はない。さらに言えば自分の職場から相当離れているのでどう考えても知り合いが来ることはないだろうということも。
ところが天網恢恢疎にして漏らさず、食事を始めて間もなく、その断った相手がこのレストランの入ってきた!。星の数ほどあるロンドンのイタリアレストランの中で、よりによって誘いを断った相手と鉢合わせするとは、別に悪いことをしたわけではないが、どうしようもなくばつの悪いものだ。幸い、予約していなかったのか、満席と断られて残念そうに店の中を見回したのち、姿を消していった。たまたま取った席が隅の方だったので、多分こちらに気づかなかったと思うのだが。まさに危機一髪。その後その人とは何故か疎遠になってしまった。ひょっとしたらその時に自分が他の人と食事をしていたのを見たのかもしれない、としばらく小骨がのどに刺さったような気がしたものだった。
このl'incontro, 今は同じ場所に別のイタリアレストランが開業していて、もうない。もういちど巡り合う、と言うわけにはいかないようだ。
ところで、去年までは12月いっぱいは毎年ロンドンで過ごす事にしていた。クリスマスの前日から当日にかけては、若い人はともかく、多くのイギリス人は家で静かに食事をしてその後教会のミサに足を運んでいたようだ。ヨーロッパ大陸、例えばドイツなどに比べ普段でもキリスト教の占める重さがイギリスは軽いように思う。ドイツでは真剣な宗教行事としてクリスマスを祝い、かつ楽しんでいるようだったがイギリスではもう少し気楽なところがあった。そういえば、街の飾り付け(ショーウインドウの人形なども含め)やクリスマス定番のデコレーションもドイツのほうがずっと凝っていたように思う。
そんなイギリスだが、それでもクリスマス前夜から当日にかけて教会には明々と灯りが灯される。いつもは暗くて奥の方が見えないような地元の教会もこの時ばかりは明るくて遠くからでも人の出入りが見える。そういうところは、クリスチャンでないと少し敷居が高く感じられる。雰囲気に少し気圧されるところもあってクリスマス当日は家の中でシャンパンなど買い込んで静かに過ごしていたものだ。
全く無関係な話だが、さっき近所を歩いていたら、少し大柄な野良猫が大きな家の塀の内側に聳える木の上の方を見ている。目が合ってこちらに気づくと、睨むようにしながらさっと塀を乗り越えてどこかに姿を消した。丁度その時知り合いのご婦人が出てきて、今朝から狐と猫とが何か争っているようですよ、と教えてくれた。ということは、さっきの猫の漂わせていたのは殺気だったのか?
さて、猫と狐、どちらが強いのだろう。そのあたりには全く知識がない(こういう知識は普通誰でも持っているのだろうか?)。ただ、ライオンが百獣の王と言われるので一番強そうなのは何となくわかる。それに一度南アフリカのサファリパークでランドローバーの中から至近距離で雄のライオンを見たことがあった。ほとんど胴体と同じ位太い首とそこからつながる頭の巨大さに驚嘆、こんなに逞しい口で噛まれたらどんな動物でもひとたまりもないだろう、と。