仕事の合間の休み、僕らはスキッパーズ・キャニオンに向かった。
ここではマウンテンバイクのダウンヒルができる。
殺伐とした真っ茶色のタソックの山々。その谷間に続く1本の細い道。景色はバツグン。
以前に僕もやったが、この辺りでは文句なし、一番のコースだろう。ただしここは料金後払い、下った後には長い登りが待っている。だが誰かがドライバーになってくれれば、ダウンヒルの美味しいところだけ味わえる。
リオの自転車は装備が多くダウンヒルには向かないのでエーちゃんのマウンテンバイクを借りる。サスペンションは前だけだが前後ともディスクブレーキ。景色を見ながらゆっくり下るにはこんなバイクが良い。
峠のてっぺんでリオを下ろすとヤツは嬉々としてコースに入っていった。リオの喜ぶ声が谷間に響く。
途中で車を停め、ヤツが下る様子を谷のはるか上から眺める。楽しそうである。よしよし。
僕はここに住むプロのガイドである。この場所をどうすれば楽しく遊べるか知っている。
そんな楽しみを人に分けてあげたい。遠くから来た人に楽しませてあげたい。その日の天気を読み、客人の技術、体力、経験、装備を知り、行き場所と行動を決める。今日、ここでのマウンテンバイク・ダウンヒル、これがアウトドア・ガイド流のもてなしだ。
人をもてなす心。これこそが茶の心であり、日本の文化の本質にあるものだ。
お互いに信頼し合い、幸せというものをシンプルに考え行動する。
『あんたハッピー、わたしハッピー』これが今の僕の目標である。
自分の幸せというものが誰かの不幸せの上にあるのではなく、そこに居合わす人が1人の例外もなく幸せになっていること、これが大切である。
ただしその幸せとは自分が決めるんだよ、という条件が付く。
今の僕らがまさにそうである。喜んでマウンテンバイクに乗るリオ。それを見ていてうれしいボク。あんたハッピーわたしハッピー、とてもよろしい。
下へ降りると間もなくリオも降りてきた。ヤツの目はランランと輝き、『充実してるぞ』オーラがあふれている。
「いやあ、楽しかった。もう最高!」
「そうだろう。まだまだ先はこれからだぞ」
バイクを車に積んで、スキッパーズロードを行く。切り立った崖に車一台分の道が続く。真下にショットオーバー川が流れているのが見える。
「いやあ、ここはすごいですねえ」
助手席のリオがため息混じりにつぶやく。
「ここは昔、金鉱掘りの人が作った道なんだ。当時は馬車でここを通っていたんだよ」
車の運転をしていたら、景色もゆっくり見られないが、ドライバーがいれば別の話だ。
川へ降りて石を投げ水切りをしたり、スキッパーズのキャンプ場でフリスビーをしたり、ボク流のもてなしをリオは喜んでくれた。
帰るときに道ばたの草むらで赤いツブツブを発見。「ん?」ボクは車をバックさせると、そこにはたわわに実をつけたラズベリーの群生。
「オイ、リオ、車から降りろ」
「これって・・・」
「ラズベリーだよ、ウマイぞ」
ボクは車から飛び降りると、手当たり次第に取ってムシャムシャ食い始めた。リオも大喜びで食いまくる。
ボクは車の中を探したが、こんな時に限って入れ物が何もない。ビニール袋でもあれば持って帰ってジャムでも作るのに。
「リオ、入れ物がないから食いたいだけ食えよ」
僕らはしばし無言で、取っては食い食っては取り続けた。
こんな予想外の展開、うれしい発見。知ったつもりになってはいけないニュージーランド。この国の奥はとことん深い。リオもそれはしきりに感じているようだ。
「このスキッパーズは、トーマスとミホコと一緒に来たんだけど、ヤツはここでこの国にやっつけられちゃったんだよ」
「そうですか、なんか分かるような気がするなあ」
帰り道では下りの長い区間を選び、再びマウンテンバイクでリオは行く。ボクはゆっくり車を走らせる。同じ道を通るのでも車で移動するのと、自分で風をきっていくのでは明らかに違うはずだ。
自分がやったら楽しそうだな、ということをやらしてあげる。もてなしもてなし。
続
ここではマウンテンバイクのダウンヒルができる。
殺伐とした真っ茶色のタソックの山々。その谷間に続く1本の細い道。景色はバツグン。
以前に僕もやったが、この辺りでは文句なし、一番のコースだろう。ただしここは料金後払い、下った後には長い登りが待っている。だが誰かがドライバーになってくれれば、ダウンヒルの美味しいところだけ味わえる。
リオの自転車は装備が多くダウンヒルには向かないのでエーちゃんのマウンテンバイクを借りる。サスペンションは前だけだが前後ともディスクブレーキ。景色を見ながらゆっくり下るにはこんなバイクが良い。
峠のてっぺんでリオを下ろすとヤツは嬉々としてコースに入っていった。リオの喜ぶ声が谷間に響く。
途中で車を停め、ヤツが下る様子を谷のはるか上から眺める。楽しそうである。よしよし。
僕はここに住むプロのガイドである。この場所をどうすれば楽しく遊べるか知っている。
そんな楽しみを人に分けてあげたい。遠くから来た人に楽しませてあげたい。その日の天気を読み、客人の技術、体力、経験、装備を知り、行き場所と行動を決める。今日、ここでのマウンテンバイク・ダウンヒル、これがアウトドア・ガイド流のもてなしだ。
人をもてなす心。これこそが茶の心であり、日本の文化の本質にあるものだ。
お互いに信頼し合い、幸せというものをシンプルに考え行動する。
『あんたハッピー、わたしハッピー』これが今の僕の目標である。
自分の幸せというものが誰かの不幸せの上にあるのではなく、そこに居合わす人が1人の例外もなく幸せになっていること、これが大切である。
ただしその幸せとは自分が決めるんだよ、という条件が付く。
今の僕らがまさにそうである。喜んでマウンテンバイクに乗るリオ。それを見ていてうれしいボク。あんたハッピーわたしハッピー、とてもよろしい。
下へ降りると間もなくリオも降りてきた。ヤツの目はランランと輝き、『充実してるぞ』オーラがあふれている。
「いやあ、楽しかった。もう最高!」
「そうだろう。まだまだ先はこれからだぞ」
バイクを車に積んで、スキッパーズロードを行く。切り立った崖に車一台分の道が続く。真下にショットオーバー川が流れているのが見える。
「いやあ、ここはすごいですねえ」
助手席のリオがため息混じりにつぶやく。
「ここは昔、金鉱掘りの人が作った道なんだ。当時は馬車でここを通っていたんだよ」
車の運転をしていたら、景色もゆっくり見られないが、ドライバーがいれば別の話だ。
川へ降りて石を投げ水切りをしたり、スキッパーズのキャンプ場でフリスビーをしたり、ボク流のもてなしをリオは喜んでくれた。
帰るときに道ばたの草むらで赤いツブツブを発見。「ん?」ボクは車をバックさせると、そこにはたわわに実をつけたラズベリーの群生。
「オイ、リオ、車から降りろ」
「これって・・・」
「ラズベリーだよ、ウマイぞ」
ボクは車から飛び降りると、手当たり次第に取ってムシャムシャ食い始めた。リオも大喜びで食いまくる。
ボクは車の中を探したが、こんな時に限って入れ物が何もない。ビニール袋でもあれば持って帰ってジャムでも作るのに。
「リオ、入れ物がないから食いたいだけ食えよ」
僕らはしばし無言で、取っては食い食っては取り続けた。
こんな予想外の展開、うれしい発見。知ったつもりになってはいけないニュージーランド。この国の奥はとことん深い。リオもそれはしきりに感じているようだ。
「このスキッパーズは、トーマスとミホコと一緒に来たんだけど、ヤツはここでこの国にやっつけられちゃったんだよ」
「そうですか、なんか分かるような気がするなあ」
帰り道では下りの長い区間を選び、再びマウンテンバイクでリオは行く。ボクはゆっくり車を走らせる。同じ道を通るのでも車で移動するのと、自分で風をきっていくのでは明らかに違うはずだ。
自分がやったら楽しそうだな、ということをやらしてあげる。もてなしもてなし。
続