仕込み
2019-06-23 | 酒人
6月初めに西海岸のツアーが終わり、その後クィーンズタウンへやってきた。
気が付けばもう6月も中旬、毎日酒蔵で働く日々である。
酒造りではいろいろな工程がある。
酒の大元を造る仕込み、その後の発酵、しぼり、澱引き、瓶詰、火入れなどなど。
大きい蔵ならば精米や麹造りも酒蔵でやるのだが、全黒の場合、規模が小さいので精米された米と麹は買っている。
どの工程も大切だが、やはり重要なのは最初に行う仕込みだろう。
仕込みのやり方も色々とあるが、全黒では三段仕込みというやり方を使っている。
初日に全体の一割、二回めに三割、三回目に六割というように段々と量を増やしていく。
仕込みは前日の洗米から始まる。
米の分量を量り、ネットに入れて洗う。
洗う時も時間を計り洗う。
時間は1分。
洗ったら一度水を切り、水に浸す。
まず7分半、そして水を替えさらに7分半。
この時間は先人が試行錯誤しながら最良の時間を出したものであろう。
そして水を切り、一晩寝かす。
これで準備は整った。
仕込み初日は初添えという。
先ず小さめのタンクに麹、水、麹、イースト、乳酸、を入れ『もと』を作る。
『もと』は元なのか素なのか基なのか知らんが、酒造りの基礎となるものだ。
昨日洗って一晩おいた米の重さを計る。
米がどれぐらい水を吸ったか、浸透率を出すのだ。
だいたい30%ぐらいが理想だが、時に多かったり少なかったり。
少ない時は蒸す時間を長めにとる。
蒸すこと75分。
蒸しあがった米のいい匂いが蔵に立ち込める。
これを食べてみて、きちんと蒸しあがっているかどうか確認。
ベタベタにくっついては困るし、芯があってもいけない。
食べてみると普段食べる米よりも固めである。
食べる米のような粘りは無く、ちょっとパサついた感じか。
かといってボソボソでもなく、噛めばしっかりと米の味がする。
米を広げて冷まし、数時間おいてから『もと』に入れる。
そして水を入れて温度を調整。
これで初日の作業は終了。
二日目は踊りという。
これは昨日仕込んだ桶で菌を増やすのだ。
いきなり大きい桶で大量の米と水が入ったところへ菌を入れても薄まってしまう。
なので小さい桶でどんどん菌を増やして大きめの桶へ移動させる。
二日目は特に作業はなく、翌日の準備ぐらいである。
だが他の作業はある。
蔵では作業場にコンテナを入れて、コンテナごと冷やし、その中で発酵、貯蔵をする。
スペースに限りがあるので、前々回に造った醪をそこから出して、新しく造る酒のスペースを確保する。
前々回のもろみを10リットルごとに布の袋にいれて吊るす。
こうやって搾ったものを『しずく』と呼んでいる。
これが純米吟醸のもとだ。。
二人一組でワイワイと作業をする。
一人が桶から醪をくみ出し、もう一人が袋の口を縛り、棒に吊るす。
マヌカの棒にぶら下がった袋からポタリポタリと、できたばかりの酒がしたたる。一番搾りだな。
この状態では酒は白く濁った液で、この後それの上澄みを取り、すっきりした飲み口の純米吟醸が出来上がる。
空になった桶を洗い、次の仕込みの準備ができた。
そして翌日に蒸らす米の分量を量り、洗う。
今回からは洗米器という道具を使った。
水の力で洗うのでそれなりの水圧が必要だし、排水の事も考えなくてはならない。
3人であーだこーだ言いながら、そこらじゅうの床をびしょびしょにしながらもなんとか使えるようになった。
使ってみると手洗いより均一に洗えるし米も傷まない。
こうやって人間は進化していくんだなあ。
三日目は仲添えと言う。
35キロの米を蒸して、冷ます。
麹を桶に入れ、水を入れて、数時間後に冷めた米を入れるのだ。
そして最後には氷水で温度を調整。
目標は7度。
米を手でほぐしてバラバラにすることにより温度もある程度下がる。
下がりきらない場合は氷を砕いて入れる。
桶に入れる水の量も決まっているので、氷を作る時もきちんと分量を量る。
そして翌日の分の洗米。
最後の日は55キロの米なので洗うのも大変だったが、今では文明の利器がある。
便利になりすぎて機械に頼るのが今の世の中だが、ある程度の便利さはあっても良いと思う。
四日目、留め添えと言う。
55キロの米を蒸す。
米を蒸す大きな釜、二つに分けて蒸す。
量が多い分、時間も余計にかかる。
「杜氏、お願いします」
蒸しあがった米をデイブに確認してもらう。
杜氏のOKが出たら、熱々の米を釜から出して平たい台に移す。
大きな釜に半身を突っ込み米をすくうのだから、かなり暑い。
真冬でも、汗びっしょりになる作業だ。
そして米を冷まし、桶に入れ、氷水で温度を調整。
手順は昨日と同じだがとにかく量が多い。
最終日は水だって120リットルも入れる。
昨日の目標は7度だったが、今日の目標は6度。
櫂でかき混ぜながら、水を入れては温度を計り時には氷を入れて又温度を計り、という作業を繰り返して6度にする。
四日目の夕方、一連の作業を終えた。
ここからは桶の中で菌にがんばってもらう。
そのために温度管理をする。
見方を変えれば、菌のために人間が働いている。
それもこれも旨い酒を造るため。
料理でも同じだが、手を抜いては本当に旨いものはできない。
菌と人間社会は古来、切っても切れない関係がある。
共存共栄、どちらが勝つのでも負けるのでもない。
それが『和』じゃなかろうか。
和とは人間関係だけでなく、菌も含めた世界のことかもしれない。
それが和醸良酒という言葉の本当に意味じゃないか。
桶をポンポンと叩いて呟いた。
「今回も旨い酒になってください」
今日も桶の中では菌がプツプツと息をしている。
気が付けばもう6月も中旬、毎日酒蔵で働く日々である。
酒造りではいろいろな工程がある。
酒の大元を造る仕込み、その後の発酵、しぼり、澱引き、瓶詰、火入れなどなど。
大きい蔵ならば精米や麹造りも酒蔵でやるのだが、全黒の場合、規模が小さいので精米された米と麹は買っている。
どの工程も大切だが、やはり重要なのは最初に行う仕込みだろう。
仕込みのやり方も色々とあるが、全黒では三段仕込みというやり方を使っている。
初日に全体の一割、二回めに三割、三回目に六割というように段々と量を増やしていく。
仕込みは前日の洗米から始まる。
米の分量を量り、ネットに入れて洗う。
洗う時も時間を計り洗う。
時間は1分。
洗ったら一度水を切り、水に浸す。
まず7分半、そして水を替えさらに7分半。
この時間は先人が試行錯誤しながら最良の時間を出したものであろう。
そして水を切り、一晩寝かす。
これで準備は整った。
仕込み初日は初添えという。
先ず小さめのタンクに麹、水、麹、イースト、乳酸、を入れ『もと』を作る。
『もと』は元なのか素なのか基なのか知らんが、酒造りの基礎となるものだ。
昨日洗って一晩おいた米の重さを計る。
米がどれぐらい水を吸ったか、浸透率を出すのだ。
だいたい30%ぐらいが理想だが、時に多かったり少なかったり。
少ない時は蒸す時間を長めにとる。
蒸すこと75分。
蒸しあがった米のいい匂いが蔵に立ち込める。
これを食べてみて、きちんと蒸しあがっているかどうか確認。
ベタベタにくっついては困るし、芯があってもいけない。
食べてみると普段食べる米よりも固めである。
食べる米のような粘りは無く、ちょっとパサついた感じか。
かといってボソボソでもなく、噛めばしっかりと米の味がする。
米を広げて冷まし、数時間おいてから『もと』に入れる。
そして水を入れて温度を調整。
これで初日の作業は終了。
二日目は踊りという。
これは昨日仕込んだ桶で菌を増やすのだ。
いきなり大きい桶で大量の米と水が入ったところへ菌を入れても薄まってしまう。
なので小さい桶でどんどん菌を増やして大きめの桶へ移動させる。
二日目は特に作業はなく、翌日の準備ぐらいである。
だが他の作業はある。
蔵では作業場にコンテナを入れて、コンテナごと冷やし、その中で発酵、貯蔵をする。
スペースに限りがあるので、前々回に造った醪をそこから出して、新しく造る酒のスペースを確保する。
前々回のもろみを10リットルごとに布の袋にいれて吊るす。
こうやって搾ったものを『しずく』と呼んでいる。
これが純米吟醸のもとだ。。
二人一組でワイワイと作業をする。
一人が桶から醪をくみ出し、もう一人が袋の口を縛り、棒に吊るす。
マヌカの棒にぶら下がった袋からポタリポタリと、できたばかりの酒がしたたる。一番搾りだな。
この状態では酒は白く濁った液で、この後それの上澄みを取り、すっきりした飲み口の純米吟醸が出来上がる。
空になった桶を洗い、次の仕込みの準備ができた。
そして翌日に蒸らす米の分量を量り、洗う。
今回からは洗米器という道具を使った。
水の力で洗うのでそれなりの水圧が必要だし、排水の事も考えなくてはならない。
3人であーだこーだ言いながら、そこらじゅうの床をびしょびしょにしながらもなんとか使えるようになった。
使ってみると手洗いより均一に洗えるし米も傷まない。
こうやって人間は進化していくんだなあ。
三日目は仲添えと言う。
35キロの米を蒸して、冷ます。
麹を桶に入れ、水を入れて、数時間後に冷めた米を入れるのだ。
そして最後には氷水で温度を調整。
目標は7度。
米を手でほぐしてバラバラにすることにより温度もある程度下がる。
下がりきらない場合は氷を砕いて入れる。
桶に入れる水の量も決まっているので、氷を作る時もきちんと分量を量る。
そして翌日の分の洗米。
最後の日は55キロの米なので洗うのも大変だったが、今では文明の利器がある。
便利になりすぎて機械に頼るのが今の世の中だが、ある程度の便利さはあっても良いと思う。
四日目、留め添えと言う。
55キロの米を蒸す。
米を蒸す大きな釜、二つに分けて蒸す。
量が多い分、時間も余計にかかる。
「杜氏、お願いします」
蒸しあがった米をデイブに確認してもらう。
杜氏のOKが出たら、熱々の米を釜から出して平たい台に移す。
大きな釜に半身を突っ込み米をすくうのだから、かなり暑い。
真冬でも、汗びっしょりになる作業だ。
そして米を冷まし、桶に入れ、氷水で温度を調整。
手順は昨日と同じだがとにかく量が多い。
最終日は水だって120リットルも入れる。
昨日の目標は7度だったが、今日の目標は6度。
櫂でかき混ぜながら、水を入れては温度を計り時には氷を入れて又温度を計り、という作業を繰り返して6度にする。
四日目の夕方、一連の作業を終えた。
ここからは桶の中で菌にがんばってもらう。
そのために温度管理をする。
見方を変えれば、菌のために人間が働いている。
それもこれも旨い酒を造るため。
料理でも同じだが、手を抜いては本当に旨いものはできない。
菌と人間社会は古来、切っても切れない関係がある。
共存共栄、どちらが勝つのでも負けるのでもない。
それが『和』じゃなかろうか。
和とは人間関係だけでなく、菌も含めた世界のことかもしれない。
それが和醸良酒という言葉の本当に意味じゃないか。
桶をポンポンと叩いて呟いた。
「今回も旨い酒になってください」
今日も桶の中では菌がプツプツと息をしている。
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