3月も半ばになるとガイドの仕事も減ってきて時間もできる。
そしてこういうタイミングでボスから話が持ち掛けられた。
「お前、蔵を手伝ってくれないか」
蔵とは酒蔵のことである。
ニュージーランド初の日本酒造りというものをうちのボス連中がやっている。
なんとも面白い人達なのだ。
最初の頃は味も安定していなく当たりはずれもあったが、最近では味も安定してきている。
僕も恩恵を受けて酒粕をもらったり、出来立ての酒を飲ませてもらってる。
生産量も増えてきて人手が足りなくなったので手伝ってくれという話がきたわけだ。
そんな面白そうなことを断る理由はどこにもない。
僕は二つ返事で引き受けて、蔵人デビューとなったわけである。
酒造りの責任者、いわゆる酒蔵の総監督を杜氏と言う。杜氏はデイビッド。
日本の酒蔵で修業をしたり、いろいろな所で研修を受けて資格を取ったり、頑張ってきた。
几帳面で真面目な性格の彼は、いいかげんで大雑把な僕とは対照的だ。
ビール造りは相変わらず続けているが、酒造りに関しては全くのシロートである。
杜氏デイビッドに言われたことをハイハイとやる。
何事も最初は下働きからである。
やることは器具の洗浄とか瓶詰作業。
やってみて改めて気づいたのが徹底的な殺菌消毒。
ここの蔵ではすべての器具を使う前に熱湯を通す。
僕は何年かビールを作っているがけっこう適当にやっていて、それでもなんとかやっている。
趣味の領域でやっている分にはそれでもいいが、売り物として出すにはそういうわけにもいくまい。
商売としてやっていくのと、自分が飲むためにつくるのとは違う。
これはどんな業種でも同じだろうが、プロがやる仕事と素人がやるのでは違うものだ。
行程の一つで火入れという作業がある。
これは火落ち菌というものを省く作業だ。
この菌があると、その場で飲む分には体に害はないが、後々で酒を台無しにしてしまう。
63℃から65℃の間で3分間。
出来立ての酒を一升瓶に詰め、それを大鍋に並べお湯を張り加熱。
温度計をにらみながら3分したら急速冷却。
一升瓶の蓋をテープでグルグル巻きにして、冷蔵庫で保管。
こういった作業も大量に造るのには、効率の良いやり方があるのだろうとは思う。
それにはそれなりの設備投資も必要である。
全黒の場合は家内制手工業。
チマチマ、せっせと作業を繰り返すのだ。
少量生産ゆえに値段にも反映する。
ここの酒は決して安いとは言えない。
日本酒ゆえに日本で売っている日本酒と比べられる事も多い。
日本では一升瓶の日本酒が2000円ぐらいで買えるが、ここでは4合瓶で5000円ぐらいになろうか。
日本に比べれば、べらぼうに高いがそれはここでの人件費、材料費、税金、その他もろもろでこれぐらいの値段になる。
これは仕方のないことだと思う。
高いと思えば買わなけりゃいいだろうし、払う価値があると思えば買うだけだ。
そもそも単純に高い安いという値段だけで人はその物を判断する。
安けりゃ飛びつくし、高けりゃ文句を言う。
もう何年も前か、ある日本人の集まりで納豆を作って売ったことがある。
その時に知り合いの人に「高い」と文句を言われた。
値段は1パックで1ドルぐらいだったような気がする。
自分としては儲けを出す気はなく、ボランティアのような感じでやったのだが、とにかくそう言われた。
僕は頭にきて「じゃあ買わなくていいです」と断った。
だいたい自分でやらないやつが、そういうことを言う。
じゃあ自分でやってみろって言うんだ。
それ以来僕は自分が造った物を売るのをやめた。
もろみというものを絞ると真っ白いお酒ができる。
これを置いておくと、白く濁った部分と透き通った上澄みに分かれる。
この上澄みを取り出す作業をおり引きと呼ぶ。
これを何回も何回も繰り返し澱を徹底的に取り除く。
そうして出来上がったものが原酒だ。
原酒の時点ではアルコールが18パーセントぐらい。
これに割り水と呼ばれる水を足して14パーセントぐらいまでアルコールを下げ、再び火入れをして商品となる。
当然ながら原酒の方が濃くて旨い。
作業の合間に品質チェックも欠かせない。
要は味見である。
そこへ至る行程により、酒の味も変わる。
出来立ての火入れをしていない生酒をチビリチビリと舐めながら仕事をする。
大事な酒を扱うのだから酔っぱらってヘマをしては元も子もない。
それでもタンクの底に残った酒を集めてチビリ。
瓶詰めにして余った酒をチビリ。
分析し終わったお酒を貰ってはチビリ。
そんな具合で仕事をするのである。
そしてやはり生の原酒は旨い。
こんなことを書くと皆の心の声がきこえてくるようだ。
「こんなこと書きやがって、この野郎。自分ばかりいい思いをしやがって。俺にも旨い酒を飲ませろ」
いやいや、それはやはり売り物ではありませんから、お客様にお出しすることはできませんがな。
農家でもそうだけど、生産者は一番旨いところを食するのだ。
新潟に居た頃、地元の人が自分達用に作っている米を食わせてもらった。
売っているコシヒカリとは違い「こんなに旨い米があるんだ」とびっくりした。
それを味わいたければ自分で作るか、もしくは身内になるしかない。
あとは大金持ちになって酒蔵のオーナーになる、という手もあるな。
ともあれ蔵人になってみると、いろいろと違う面も見えてくる。
この年になっても新しい経験ができることは素晴らしいことだ。
経験イコール財産であり、またガイドネタが増えた。
しばらくはガイドと蔵人の二足のワラジを履く日々である。
そしてこういうタイミングでボスから話が持ち掛けられた。
「お前、蔵を手伝ってくれないか」
蔵とは酒蔵のことである。
ニュージーランド初の日本酒造りというものをうちのボス連中がやっている。
なんとも面白い人達なのだ。
最初の頃は味も安定していなく当たりはずれもあったが、最近では味も安定してきている。
僕も恩恵を受けて酒粕をもらったり、出来立ての酒を飲ませてもらってる。
生産量も増えてきて人手が足りなくなったので手伝ってくれという話がきたわけだ。
そんな面白そうなことを断る理由はどこにもない。
僕は二つ返事で引き受けて、蔵人デビューとなったわけである。
酒造りの責任者、いわゆる酒蔵の総監督を杜氏と言う。杜氏はデイビッド。
日本の酒蔵で修業をしたり、いろいろな所で研修を受けて資格を取ったり、頑張ってきた。
几帳面で真面目な性格の彼は、いいかげんで大雑把な僕とは対照的だ。
ビール造りは相変わらず続けているが、酒造りに関しては全くのシロートである。
杜氏デイビッドに言われたことをハイハイとやる。
何事も最初は下働きからである。
やることは器具の洗浄とか瓶詰作業。
やってみて改めて気づいたのが徹底的な殺菌消毒。
ここの蔵ではすべての器具を使う前に熱湯を通す。
僕は何年かビールを作っているがけっこう適当にやっていて、それでもなんとかやっている。
趣味の領域でやっている分にはそれでもいいが、売り物として出すにはそういうわけにもいくまい。
商売としてやっていくのと、自分が飲むためにつくるのとは違う。
これはどんな業種でも同じだろうが、プロがやる仕事と素人がやるのでは違うものだ。
行程の一つで火入れという作業がある。
これは火落ち菌というものを省く作業だ。
この菌があると、その場で飲む分には体に害はないが、後々で酒を台無しにしてしまう。
63℃から65℃の間で3分間。
出来立ての酒を一升瓶に詰め、それを大鍋に並べお湯を張り加熱。
温度計をにらみながら3分したら急速冷却。
一升瓶の蓋をテープでグルグル巻きにして、冷蔵庫で保管。
こういった作業も大量に造るのには、効率の良いやり方があるのだろうとは思う。
それにはそれなりの設備投資も必要である。
全黒の場合は家内制手工業。
チマチマ、せっせと作業を繰り返すのだ。
少量生産ゆえに値段にも反映する。
ここの酒は決して安いとは言えない。
日本酒ゆえに日本で売っている日本酒と比べられる事も多い。
日本では一升瓶の日本酒が2000円ぐらいで買えるが、ここでは4合瓶で5000円ぐらいになろうか。
日本に比べれば、べらぼうに高いがそれはここでの人件費、材料費、税金、その他もろもろでこれぐらいの値段になる。
これは仕方のないことだと思う。
高いと思えば買わなけりゃいいだろうし、払う価値があると思えば買うだけだ。
そもそも単純に高い安いという値段だけで人はその物を判断する。
安けりゃ飛びつくし、高けりゃ文句を言う。
もう何年も前か、ある日本人の集まりで納豆を作って売ったことがある。
その時に知り合いの人に「高い」と文句を言われた。
値段は1パックで1ドルぐらいだったような気がする。
自分としては儲けを出す気はなく、ボランティアのような感じでやったのだが、とにかくそう言われた。
僕は頭にきて「じゃあ買わなくていいです」と断った。
だいたい自分でやらないやつが、そういうことを言う。
じゃあ自分でやってみろって言うんだ。
それ以来僕は自分が造った物を売るのをやめた。
もろみというものを絞ると真っ白いお酒ができる。
これを置いておくと、白く濁った部分と透き通った上澄みに分かれる。
この上澄みを取り出す作業をおり引きと呼ぶ。
これを何回も何回も繰り返し澱を徹底的に取り除く。
そうして出来上がったものが原酒だ。
原酒の時点ではアルコールが18パーセントぐらい。
これに割り水と呼ばれる水を足して14パーセントぐらいまでアルコールを下げ、再び火入れをして商品となる。
当然ながら原酒の方が濃くて旨い。
作業の合間に品質チェックも欠かせない。
要は味見である。
そこへ至る行程により、酒の味も変わる。
出来立ての火入れをしていない生酒をチビリチビリと舐めながら仕事をする。
大事な酒を扱うのだから酔っぱらってヘマをしては元も子もない。
それでもタンクの底に残った酒を集めてチビリ。
瓶詰めにして余った酒をチビリ。
分析し終わったお酒を貰ってはチビリ。
そんな具合で仕事をするのである。
そしてやはり生の原酒は旨い。
こんなことを書くと皆の心の声がきこえてくるようだ。
「こんなこと書きやがって、この野郎。自分ばかりいい思いをしやがって。俺にも旨い酒を飲ませろ」
いやいや、それはやはり売り物ではありませんから、お客様にお出しすることはできませんがな。
農家でもそうだけど、生産者は一番旨いところを食するのだ。
新潟に居た頃、地元の人が自分達用に作っている米を食わせてもらった。
売っているコシヒカリとは違い「こんなに旨い米があるんだ」とびっくりした。
それを味わいたければ自分で作るか、もしくは身内になるしかない。
あとは大金持ちになって酒蔵のオーナーになる、という手もあるな。
ともあれ蔵人になってみると、いろいろと違う面も見えてくる。
この年になっても新しい経験ができることは素晴らしいことだ。
経験イコール財産であり、またガイドネタが増えた。
しばらくはガイドと蔵人の二足のワラジを履く日々である。
いやいや、それはやはり売り物ではありませんから、お客様にお出しすることはできませんがな。
だと?
いいやだめだだめだだめだ!!
今すぐ飲ませろすぐ飲ませろ黙って飲ませろっ!!