不景気と格差社会を背景に日本共産党の党員急増(ダイヤモンド・オンライン)
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「日本共産党のポリシーは偉大だ」「いや、そんな風に手放しに支持するのは、危険ではないか」
しばらく前から、インターネットの掲示板で、日本共産党に関するこのような“熱い議論”がそこかしこで行なわれている。ひとたび「共産党」というキーワードを打ち込めば、数えられないほどのスレッドが出てくる状況だ。
日本共産党と言えば、東西冷戦が終結した1990年代前半以降、すっかり影が薄くなった政党と思われがちだ。そんな共産党が、ネットの住民の間で今何故“ブーム”なのか?
驚くことに、実はこの資本主義の日本において、現在日本共産党の支持者が急増しているというのである。「派遣社員をはじめとする非正規社員や、彼らの主張にシンパシーを抱く若者も数多い」(植木俊雄・日本共産党中央委員会幹部会委員)という。
その背景に横たわっているのは、主に数年前から社会問題化している「労働格差」だ。1999年の「派遣対象業務の原則自由化」以降、安い労働力を欲する企業ニーズの拡大により、全国の派遣労働者の数は3倍以上に膨れ上がった。彼らの賃金は、直近1年間だけで10%以上も低下し、その半分近くが「年収200万円以下」という“超低年収”である。
財務省法人企業統計調査によれば、2001年から06年までに日本企業の配当金は約4倍、役員の給与と賞与の合計額は約2倍、経常利益は約2倍も伸びているのに対し、従業員の給与はこの間逆に1.4兆円も減っているのが現状。つまり、「企業は従業員の給料を削って業績を上げてきた」と思われても仕方がない。
にもかかわらず、世界的な金融危機に端を発する実態経済の悪化により、直近では多くの企業で「派遣切り」が続出している。
「これまで低賃金で企業を下支えして来たのに、いざ不景気になれば真っ先にクビを切られるなんて、あんまりじゃないか……」
“ワーキングプア”たちの怨嗟の声は、まさに頂点に達しているのだ。
日本共産党がそんな彼らの心を掴んだのは、「政治の中身を変える党」を自称しつつ、これまで一貫して「国民主体の経済」をポリシーに掲げて来たことが、ここに来て再評価され始めたということのようだ。
きっかけは、今年2月、志位和夫委員長が、当時の福田康夫首相に労働者派遣法の改正を迫った国会質問だった。このとき功を奏したのが、同党の“インターネット戦略”である。
「こんな働き方を許していたら、日本の将来はない! 労働者派遣法や消費税で弱者を切り捨て、減税で大企業ばかりを擁護する現状はおかしいじゃないか」と熱弁をふるう志位委員長の姿が、ニコニコ動画やYouTubeにアップされ、大きな反響を呼んだのだ。アクセス数は約36万にも上った。
支持率低迷が続いて目まぐるしく首相が交代し、今や迷走状態に陥っている自由民主党、「ねじれ国会」で自民党をけん制しつつも、足並みが揃わず有効な政策案を打ち出せない民主党など、政治に対する国民の不満が噴出している時期と重なったことも、タイミングがよかったのだろう。
その後志位委員長は、今月5日にも麻生太郎首相と異例の党首会談を断行。「派遣切り」を止めさせるため、企業や経済団体への指導を政府に強く求めている。
過去最高の入党申し込み数に共産党関係者もビックリ!
実際、同党にとって、格差や不況などの「追い風」は想像以上に大きいようだ。
「党員数は1990年の約50万人をピークに、直近では約40万人まで減っていた。しかし、自民党が参院選で大敗した直後となる、昨年9月の中央委員会総会から今年11月末までの間に、過去の同時期と比べて入党申し込み数が倍増。新たに1万4000人も党員が増えた。こんなことはバブル崩壊後の不況下でもあり得なかった」(同党)
なかでも、非正規社員を中心とする20~30代の若者が新規入党者の2~3割を占めている。「党の綱領と規約に共感して、収入の1%程度を党に寄付すれば誰でも入党できる」という手軽さも、若者にウケたのだろうか。
実はこの政党、国政選挙における支持率は低迷しているとはいえ、もともと支持基盤は意外に強固と見られる。
たとえば、「政治を腐敗させる」という理由から、政党交付金や政治献金は一切受け取っておらず、党の収入は党費、機関誌「しんぶん赤旗」(約164万部)、支持者の寄付などに頼っている。
にもかかわらず、東京都渋谷区の日本共産党中央委員会ビル(時価80億円以上)の総工費の半分は支持者の寄付によるものだというから、他党では考えられないほどの熱烈な“シンパ”が多いのだろう。
また、地方での勢力は強く、地方議員の数は約3400と各政党でダントツのトップ。「国会議員に換算すると45議席程度に匹敵する」(同党)そうだ。
その「組織力」の基盤となっているのは、企業の職場、地域、学校に到るまで、全国に網の目のように張り巡らされた、約2万2000もの「支部」である。「政治献金を集めるために議員ごとに設けられ、フタを開ければ党員が1人もいないケースも多いと言われる他党とは、結束の強さが違う」と同党は胸を張る。
巷からは、支持率が20%台まで急落した麻生太郎政権が、「いよいよ解散総選挙に追い込まれる可能性が高いのでは」という声も聞こえてくる。では、組織力と追い風を武器にした共産党が、今後国会でも大きく票を伸ばす可能性はあるかと言えば、現実はそう甘くないようだ。
そもそも当選者が少ない小選挙区制は、事実上自民、民主両党の草刈り場となっており、入り込むのは至難の業。得票数はあまり変わっていないにもかかわらず、共産党の衆議院議員数は、中選挙区制のピークだった1970年代初頭の約40名と比べ、現在はわずか9名まで減っている。そのため、「得票数に応じて比例配分で当選が決まる比例区に賭ける」(同党)という。
一時的な党員の増加を確固たる政治基盤につなげるためには、さらに地道な「党員集め」が必要となりそうだ。
1930年代と酷似した経済状況は混乱の歴史が繰り返される“予兆”か
だが、党員の増加トレンドは、今後しばらく続く可能性もある。それは、「格差と不況が社会問題化している今の日本の状況が、戦前と酷似していることからも類推できる」(社会主義に詳しいエコノミスト)という。
ブルジョワジー(資本家)とプロレタリアート(労働者階級)との闘争を描いたプロレタリア文学の代表作「蟹工船」がブームになっているのはすでに広く報じられていることだが、小林多喜二がこれを発表したのは1929年。ちょうどウォール街で株価が大暴落し、世界恐慌が起きたのと同時期のことである。
そのため、不況と貧困層の拡大という悪循環に陥って疲弊し切った資本主義国は、「他国への進出による“富の収奪”でしか経済を維持できなくなり、国内ばかりか“世界的な格差”を生み出してしまった」(エコノミスト)
米国を中心とする従来型のマネー経済が崩壊した今、今後このような苦境が形を変えて繰り返されないとも限らない。とすれば、日本共産党の動向は、今後の日本の方向性を示唆する“予兆”めいたものと言えるかもしれないのだ。
この記事は、むろん特定の政党の思想や取り組みを支持する目的のものでは決してない。だが、公約している景気対策さえ満足に進められない政府与党は、このような現状を真摯に受け止め、一刻も早く抜本的な対策を打ち出すべきではなかろうか。
(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
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ダイヤモンド社と言えば、企業経営者、エグゼクティブ向けの雑誌を数多く出版しているところである。「経営者・財界御用達」のダイヤモンド社が共産党の党勢拡大を快く思っているわけがない。そのことは、「米国を中心とする従来型のマネー経済が~一刻も早く抜本的な対策を打ち出すべきではなかろうか」の部分にはっきりと現れている。この記事は、政治空白に苛まれ何も有効な手を打ち出せない政府与党への苛立ちの表明と評価すべきものだろう。
だが、そもそも自公与党に有効な対策など打ち出せるわけがない。なぜなら今回の「派遣切り」やワーキングプアといった問題は、過去20年近く続いてきた市場原理万能主義に基づく政策がもたらしたものだからだ。かつて「貧しきを憂えず等しからざるを憂う」「一億総中流」といわれた日本社会は、いま、気づけば世界有数の貧困大国になってしまった。
ここに1つのデータがある。
ウィキペディアに転載されたOECDの調査によれば、日本は貧困率を表すジニ係数こそ低いが、平均的な所得の人の半分以下の所得しかない人の率を表す「相対貧困率」が15.25%。これはメキシコ20.26%、米国17.09%、トルコ15.88%、アイルランド15.4%に次いで主要国の第5位である。しかも驚くべきことに、この調査は1990年代後半のものだから、もう10年近く前の数値である。この後に小泉政権が登場し、徹底的な構造改革を行っているから、今、日本の相対貧困率はもっと上昇しているに違いない。
今、医療崩壊、地方崩壊、安全崩壊、そして労働者の生活崩壊まですべてを「小泉政権が悪い」と決めつける風潮がある。小泉構造改革が、社会的弱者と呼ばれる人たちに最後のとどめを刺したのはおそらく間違いない事実といえるが、一方、OECDの調査は10年前の日本がすでに主要国中5位の貧困大国であったことを示している。決して小泉政権だけが悪いのではない。歴代自民党政権は、ずっと社会的弱者が長い下り坂を転げ落ちていくしかないようなやり方で、貧富の格差を拡大する政策をとってきた。意識的にか無意識的にかわからないが、「結果的に」そうであったことをこのデータは示しているのである。その長い下り坂を転げ落ちていった社会的弱者たちが、もはや何も失うものがないところまで追い詰められたのが、今回の危機の正体である。
その結果起こっていることが共産党の党勢拡大だとしたら、この流れは当分の間続くことになるだろう。
「労働者は革命において鎖のほかに失うものを持たない。彼らが獲得するものは世界である」(共産党宣言)という有名な言葉が、いよいよ現実になっていこうとしているのだろうか。