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チーム力――3人よれば文殊の知恵
●「1+1」は2か
人が集まると、一人ならまずやらないようなことをしたり、考えたりすることがある。集団(チーム)は、あたかも人格も思考も意思もあるもう一人の人間であるかのごとくである。
たとえば、意思決定でもチームでそれをすると、一人での決定よりも、より危険なほうへシフトしてしまう、リスキーシフト(risky sift)現象が知られている。「皆で渡れば怖くない」である。
あるいは、群衆心理。匿名の人々がたくさん集まることで、ちょっとしたきっかけで皆が逸脱した行動に走ってしまう。
これらは、集団によるマイナス効果であるが、サッカーなどの連携プレー、あるいは「3人寄れば文殊の知恵」のように、チームにはプラス効果もあることは言うまでもない。
ここでは、文殊の知恵を引き出すにはどうしたらよいかを考えてみたい。
●チーム力が発揮される場
多彩なアイデアを集めるために行なわれるブレーンストーミング(brain stor ming;頭を嵐のごとくかき回すの意)はよく知られているし実践されている。
「批判厳禁」「自由奔放」「質より量」「他人のアイデアとの結合」をルールにして皆で「わいわいがやがや」やろうというものである。
この4つのルールが大事である。
批判は発言を抑制してしまう。自由の制約は本音を出させない。さらに、批判を恐れる臆病者を沈黙させてしまう。
そして、自由奔放ルールは、多彩なアイデアを豊富に出させる。普段なら口に出すことを憚られるようなことさえ出てくるようになればしめたもの。
アイデアの質を問うと、思い浮かんだアイデアの自己評価をしてしまう。ここではともかくたくさんのアイディアを出すことが先決である。
他人のアイデアを無視するとせっかくの異質アイデアとの結合機会が無駄になる。黒板やカードを活用して、アイデアがアイデアを呼び、時には、設定した枠を越えてしまうくらいになるくらいで丁度よい。
さらに、明示的にはではないが、この4つのルールに加えて、「論理性無視」ルールもある。場の中に論理的な一貫性はとりあえずは無用である。むしろ、連想的な飛躍のほうが好ましい
●チーム思考の質はチームの質によって決まる
アイデア生成のような場と段階では、前述のルールのほうが大事であるが、チームとして一つの結論を引き出すようなときは、チームの質が大事になる。
チームの質を決めるのは、まずはリーダーとリーダーシップである。
ブレーンストーミングで得られた多彩なアイデアは目標に向けて収斂させなくてはならない。その舵取りをするのがリーダーである。
あまり早急に結論を得ようとするのもせっかくのチーム力を活かしていないことになるし、拡散させてばかりもメンバーを疲弊させる。メンバーのやる気や満足感にも配慮しながら、かつ、リーダーとしての権限と責任も明確に表現しながらの難しい舵取りが求めれる。リーダーの基本機能として知られている、集団維持機能と目標達成機能とのバランスを、状況に応じて発揮することになる。
さらに、チームの質は、メンバーによっても決まる。
チームの見えない力や場の力はかなり強力なので、メンバー個々人の個性の発揮は、チームの中では抑制されるが、それでも、メンバー個人の力量は、チーム力にとって大事ではある。ここでも、リーダーの役割が問われる。チーム全体の活動を考えながら、どこでどんなメンバーのどんな力を引き出すかに配慮することになる。
チームの質を決めるもう一つの要因は、集団文化である。
その集団特有のマナー、雰囲気、まとまり具合などなどである。やや扱いに困る要因ではあるが、組織、集団の力の強い日本---ハイ・コンテキスト(high context)社会と呼ばれる----では、この要因がチーム力を強く左右している。
しかし、今、日本の至るところで---家族さえも---、急速にハイ・コンテキスト社会からロウ・コンテキスト社会へと移ってきている。
これも過度になると、無用な競争に駆り立てるだけに終ってしまい、チーム力の発揮を妨げる。このあたりをどう解決するかのヒントは、サッカーや野球などのチーム管理にあると思う。