集中力を高めるトレーニング あさ出版
3 時間を分割する
一日中でも、一週間でも集中力を発揮し続けられるという人もいないわけではない。しかし、普通の人がそうした状態になれるのは、一生のうち一度か二度であろう。大災害に見舞われたとか、大発見をする前といった、ある意味では異常事態の時には、異常な集中力を発揮できる。しかし、普通の人が、平常時に集中力を持続できるのは、一時間とか二時間がせいぜいであろう。
たとえば、学校の時間の区切り(校時)は、日本では、小学校は四五分、中学校・高校は五〇分、大学はおおむね一〇〇分である。集中の持続力の発達を考慮に入れたものであろう。
こうした時間の分割が日常的におこなわれているということは、人間がそれほど長くは集中できるものではないことを物語っている。「根気がなくて」と嘆く人でも、時間を小刻みに分割してしまえば、その分割した時間のなかでは集中することができる。結局は、自分にあった時間の分割をすればよいのである。
その時間分割のコツを挙げておく。
●飽きっぽい人は、小刻みに分割する
「飽きがきた」と感じた時のちょっとした休懇のとり方を工夫をする。たとえば、机を離れて一分間体操をする、お茶を入れて飲む、鉛筆を削るなどなど。短時間でできて、しかも決まった時間内でできるものを用意しておく。
●日常生活の自然の区切りを利用する
普段の生活のなかで、集中力を持続させるコツは、生活時間にさからわずに、それに合せて時間設計をすることである。無理のない計画を組むのがコツである。
●つらいことは短時間で、楽なことは長時間で
むずかしいこと・めんどうなこと・やりたくないことは小刻みに、やさしいこと・簡単なこと・好きなことは長い時間単位でやる。
図 クレペリン検査で根気力をチェックする
4 やる内容を分割する
時間を分割して、間に休懇を入れながら仕事や勉強をするのを分散法という。それに対して、やるべき内容を分割して、それの区切りごとに休憩を入れるのを分習法という。
似ているようで、少し違う。内容を分割すれば、それぞれをやり終える時間も結果としては分割されるという点では似ている。しかし、分散法が時間の区切りを第一義に考えるのに対して、分習法は、あくまで内容の区切りである点に違いがある。
流れ作業のようにいつも同じことを繰り返す単純作業では、仕事の内容から区切りを入れることはできない。六〇分続けたら五分、2時間たったら15分というような休憩をはさむことになる。つまり、分散法がとられることになる。
そうしないと、飽きががきて能率があがらないだけでなく、エラーも起こる。
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次の文字をできるだけ早く書いてみてください(仁平義明氏による)。
「お」-->
「わ」-->
「番」-->
図 同じことをくり返しているとエラー(書字スリップ)がおこる
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これが勉強なら分習法のほうがやりやすい。問題ごと、節ごと、科目ごと、という具合に意味的なまとまりがあるからである。
分習法で問題になるのは、まず、どのくらいの大きさのまとまりを設定するのがいいのかである。
これには決め手はなく、やさしいものであれば、必然的にそのまとまりは大きいものになるし、むずかしければ小さくなる。
ところで、時間にしても内容にしても、分割すれば中断が発生する。中断すると能率が落ちるのであろうか。それともあがるのであろうか。
これに一つの解答をあたえることになった中断効果についての心理実験を紹介しておく。
色々の種類の作業をさせて、いずれの作業もあえて途中で強制的に打ち切ってしまう。時間分割である。そしてしばらくしてから、作業者にどんな種類の作業があったかを思い出させる。
この結果、すべての作業を終わりまで通してやった群とくらべると、作業の途中で強制的に中断した群のほうが、よりたくさんの作業内容を思い出すことができたという。作業途中の中断が作業者に緊張をもたらし、記憶に効果的に作用したのである。
この中断効果が示すことは、休懇を入れたい時とか、用事でやむをえず中断しなければならない時などには、あえて、内容のまとまりの途中でやめておくのがよいということを示唆している。そうすれば、前のことが記憶に残っているので、すぐに再開することができる。