Q2・9「心理学では、実験以外にアンケート調査もよく行なわれるようですが、実験法とはどんな違いがあるのですか」---調査法
心理学の研究法は、大きく3つに分類されます。
一つがすでに説明した実験法、
2つが心理学で最も多用されている調査法、
3つが観察法です。
さて、調査法ですが、これは、あらかじめ用意した質問に対して、多数の被験者に答えてもらい、それを統計処理して、被験者群の心や行動の実体を解明したり、仮説の検証をしようとするものです。 この調査法も、さらに2つに分けられます。
一つが、実態調査をねらいとした調査法で、いわゆるアンケート調査と呼ばれているものです。一つ一つの項目について、被験者群の何%の人が、たとえば「はい」と答えるかをみるものです。たとえば、 ・悩みをまっさきに相談する人は次の誰ですか ・心理学を勉強してみたいと思いますか ・カウンセラーに相談してみたい気持ちになったことがありますか
もう一つは、仮説探索、仮説検証をねらいとした調査法で、心理学における調査法は、こちらのほうが多くなります。質問紙法と呼ばれます。複数の項目への回答の関連に着目するところから相関研究のための調査法とも呼ばれます。
たとえば、手元に届いた最新の学会機関誌「心理学研究」に掲載されている論文8編のうち、このタイプの論文は、2本あります。タイトルをとりあえず挙げてみます。
・配偶者喪失後における過去への肯定的ー否定的評価と精神的健康との関 係
・夫・子どもとの関係、対人態度が母親としての成長に及ぼす影響
質問紙法は、発達心理学、教育心理学、社会心理学、カウンセリング心理学では最も多く用いられる手法です。
なぜかというと、一つには、実験ができないことが多いからです。本当なら実験をして確かめたいことであっても、人を被験者にしての実験は、倫理的にも現実的にも不可能なため、質問紙に頼ることになります。
たとえば、夫・子どもとの関係と対人態度をいろいろに変えて母親の成長がどのように変わるかを実験室で吟味することは不可能です。
質問紙法が多用されるもっと積極的な理由もあります。 それは、「人は小学校高学年くらいからなら誰でもそれなりに”心理学者”である」ということを前提に、質問を手がかりに自分の心や行動を自己観察(内省)してもらい、それをデータとして分析すれば、実験法よりはずっと豊かな心理学を作り出せるのではないかという理由です。
このあたりは心理学独特の研究方法と言えます。自然科学では、研究対象となる「物」に語らせることはありえませんから。
ただ基本的なところで大問題が一つあります。
それは、得られるデータが自己観察力(内省力)の及ぶ範囲に限定されてしまうことです。へたをすると、素人心理学者が知っている「心理学」の域を出られない、ごくあたり前の心理学しか生み出さないことになってしまう恐れがあることです。
ときどき、そんなことは、別に心理学を持ち出さなくと知っている/わかっている、というようなことを、学識経験者として心理学研究者がTVなどで解説していることがありますが、このあたりにその理由があります。
******************** 心の実験室「質問紙法の被験者になってみる」 次の質問に、自分に非常にあてはまるときは”5”、まったく当てはまらないときは”1”の5段階で答えてください。
( )自分の長所と短所を理解する(自己評価に対する効力感)
( )自分の学校の卒業生の就職先について調べる(職業情報の収集に対する 効力感)
( )仕事に活かせることなら何でも学ぶつもりだ(自己向上志向動機)
( )地位や名誉をもたらす職業につきたい(上位志向動機)
( )職場では一生つきあえる友人を作りたい(対人志向動機) <<1行あけ>>
( )当分の間は職業決定するのを避けたい(職業未決定)
「解説」 短期大学生431名に、()内に記したような概念を測るのにふさわしい複数個の項目---上に示したのは、それぞれの概念の典型的な項目一つずつ---合計61個に答えてもらいます。これを因子分析、パス解析という多変量解析の手法を使って解析しますと、最終的に、下の図のような因果関係がわかってきます。 この結果から、自己評価に対する効力感と自己向上志向動機が低いほど---これらが「原因」になります---、就職先を決めたがらない傾向---最後の項目で5に近い答えをする傾向。これが「結果」になります--- があることがわかります。(安達智子「心理学研究」2001.72.10-18より) ****図は別添
心理学の研究法は、大きく3つに分類されます。
一つがすでに説明した実験法、
2つが心理学で最も多用されている調査法、
3つが観察法です。
さて、調査法ですが、これは、あらかじめ用意した質問に対して、多数の被験者に答えてもらい、それを統計処理して、被験者群の心や行動の実体を解明したり、仮説の検証をしようとするものです。 この調査法も、さらに2つに分けられます。
一つが、実態調査をねらいとした調査法で、いわゆるアンケート調査と呼ばれているものです。一つ一つの項目について、被験者群の何%の人が、たとえば「はい」と答えるかをみるものです。たとえば、 ・悩みをまっさきに相談する人は次の誰ですか ・心理学を勉強してみたいと思いますか ・カウンセラーに相談してみたい気持ちになったことがありますか
もう一つは、仮説探索、仮説検証をねらいとした調査法で、心理学における調査法は、こちらのほうが多くなります。質問紙法と呼ばれます。複数の項目への回答の関連に着目するところから相関研究のための調査法とも呼ばれます。
たとえば、手元に届いた最新の学会機関誌「心理学研究」に掲載されている論文8編のうち、このタイプの論文は、2本あります。タイトルをとりあえず挙げてみます。
・配偶者喪失後における過去への肯定的ー否定的評価と精神的健康との関 係
・夫・子どもとの関係、対人態度が母親としての成長に及ぼす影響
質問紙法は、発達心理学、教育心理学、社会心理学、カウンセリング心理学では最も多く用いられる手法です。
なぜかというと、一つには、実験ができないことが多いからです。本当なら実験をして確かめたいことであっても、人を被験者にしての実験は、倫理的にも現実的にも不可能なため、質問紙に頼ることになります。
たとえば、夫・子どもとの関係と対人態度をいろいろに変えて母親の成長がどのように変わるかを実験室で吟味することは不可能です。
質問紙法が多用されるもっと積極的な理由もあります。 それは、「人は小学校高学年くらいからなら誰でもそれなりに”心理学者”である」ということを前提に、質問を手がかりに自分の心や行動を自己観察(内省)してもらい、それをデータとして分析すれば、実験法よりはずっと豊かな心理学を作り出せるのではないかという理由です。
このあたりは心理学独特の研究方法と言えます。自然科学では、研究対象となる「物」に語らせることはありえませんから。
ただ基本的なところで大問題が一つあります。
それは、得られるデータが自己観察力(内省力)の及ぶ範囲に限定されてしまうことです。へたをすると、素人心理学者が知っている「心理学」の域を出られない、ごくあたり前の心理学しか生み出さないことになってしまう恐れがあることです。
ときどき、そんなことは、別に心理学を持ち出さなくと知っている/わかっている、というようなことを、学識経験者として心理学研究者がTVなどで解説していることがありますが、このあたりにその理由があります。
******************** 心の実験室「質問紙法の被験者になってみる」 次の質問に、自分に非常にあてはまるときは”5”、まったく当てはまらないときは”1”の5段階で答えてください。
( )自分の長所と短所を理解する(自己評価に対する効力感)
( )自分の学校の卒業生の就職先について調べる(職業情報の収集に対する 効力感)
( )仕事に活かせることなら何でも学ぶつもりだ(自己向上志向動機)
( )地位や名誉をもたらす職業につきたい(上位志向動機)
( )職場では一生つきあえる友人を作りたい(対人志向動機) <<1行あけ>>
( )当分の間は職業決定するのを避けたい(職業未決定)
「解説」 短期大学生431名に、()内に記したような概念を測るのにふさわしい複数個の項目---上に示したのは、それぞれの概念の典型的な項目一つずつ---合計61個に答えてもらいます。これを因子分析、パス解析という多変量解析の手法を使って解析しますと、最終的に、下の図のような因果関係がわかってきます。 この結果から、自己評価に対する効力感と自己向上志向動機が低いほど---これらが「原因」になります---、就職先を決めたがらない傾向---最後の項目で5に近い答えをする傾向。これが「結果」になります--- があることがわかります。(安達智子「心理学研究」2001.72.10-18より) ****図は別添