説明力―――わかりやすく説得的に説明する
●日本人の恐縮好き
次のようなまくら言葉を耳にしたことはないであろうか。
・卑近な例で恐縮ですが、--- (具体例を使う)
・たとえで恐縮ですが、---- (比喩を使う)
・独断と偏見で恐縮ですが、---- (自分なりの意見を言う)
・いきなり結論で恐縮ですが、---- (大事なことを先に言う)
いずれも、説明効果を高めるためには必須といってもよい趣向なのだが、どういうわけか、日本人はそんな趣向を使うときに恐縮してしまう。多分、「わかりやすく話さなくと、聡明なあなたならおわかりだと思いますが、念のため」ということであろうが、そんなまくら言葉を言う時間のほうを節約してほしい。
グローバル化が進む昨今、表現文化の問題といって片づけてしまうわけにはいかない。我彼の説明力ギャップが厳しく問われる時代になってきている。
●わかりやすく説明する
説明はわかりやすいことがまず大切である。
そのための基本は、説明したいことの精選である。言いたいことが10あっても、それを3つくらいに圧縮したり、とりあえず大事ではない7つを切り捨てることができないと、わかりやすい説明にはならない。
その上で、結論や言いたいことの概要を先に示すようにして、相手がこちらの話の受け皿を作れるように支援してやる。
いつまでも結論を言わないのは、相手をいらいらさせる。概要がないと、今の話しが全体のどこかがわからない不安を与えることになる。
そして、説明内容は、減り張りをつけて表現する。
・一つは----、2つは---、
・大事なことは、----
といった類の言い回しに加えて、パネルに要点を書いたり図解して見せるなどの工夫をする。
最後にもう一度、結論を手短に言う。
こんなことを実践的に学ぶには、ニュース番組などのコメンテータの説明の仕方を参考にするとよい。短時間でポイントをずばり表現するあの説明の仕方である。パネルや図解も、実に巧みで学ぶべき点が多い。
●説明力は相手があってのもの
やや雑に説明をわかりやすくするための趣向を述べてみた。しかし、説明は相手があっての話である。相手意識を欠いた独り善がりの説明は、闇夜に放つ矢のようなものである。どれほどの趣向を凝らしてみてもむなしい。
相手が何を求めているのか、どんな知識を持っているのか、どんな状況に置かれているのかに思いをはせる習慣が、真の説明力を養うことになる。
相手が関連知識が豊富であなたの言うことに強い関心をもっているなら、説明のための工夫より、説明の内容のほうに集中すればよい。
しかし、相手がその逆のような人々ばかりであることが想定されるときには、説明の仕方のほうを工夫しないと悲惨な結果に終る。
●ときには説得的に説明する
説明と説得とは違う。 言いたいことを相手に伝えるのが説明、相手を自分の思い通りにするのが説得である。教師は子どもに説明する、営業マンは顧客を説得することになる。
しかし、説明と説得の境界は微妙である。時には、説得の技法を説明の中に取り込むこともあってよい。
説得表現で最も大切なことは、相手を説得するに足る自己主張の内容があることである。これがないと、どれほど趣向を凝らしても、それは騙しや空虚な演説になってしまう。
わかりやすさが説得の前提となるが、口頭による説得のためには、声の調子や手振り身振りや顔の表情などのパラ言語も大事になってくる。さらに、OHPやパワーポイントのようなプレゼンテーション用具の使用も効果的である。
文書による説得表現を実践的に学ぶには、広告宣伝で使われているさまざまな趣向も参考になる。
(講談社ブルーバックスHP掲載記事の元原稿です)
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