情報デザイン上の問題発見に際して配慮すべきユーザの認知特性と問題発見上の指針
デザイナーがデザイン上の問題を見つける上で配慮すべきユーザの認知特性の最も基盤的なものは、認知的節約の原理である。ユーザにいかに頭を使わせないで(認知的コストをかけさせないで)コンピュータと交流できるかを考えることである。以下、この基盤から派生する認知特性7つとそれを踏まえたデザイン上の問題点の発見のための指針をあげてみる。
a)ユーザはパターン認識が得意---知覚特性
人は、一瞬のうちに、全体、全体と部分、および部分間の関係をつかむパターン認識能力が際立って優れている。
この能力が発揮できる情報環境をデザインするためには、情報のパターン化がポイントになる。ともすると断片化されがちな情報環境を、全体が何であるか、今見えている情報は全体や別の情報とどのような関係にあるかを表示することが求められることになる。
指針1 全体の構造(関係)が常にわかるようにしているか
指針2 ナビゲーションの履歴を見せているか
b)ユーザはまとめるのが得意---知覚特性
人は、視覚的、意味的にまとめることのできる情報は一つにまとめて処理するチャンキング(chunking)能力に秀でている。
この能力を支援する情報環境をデザインするには、見た目のまとまりと意味的まとまりとが一致するようにすることである。
指針3 意味的なまとまりが見てわかるようにレイアウトしているか
指針4 多彩な情報を一度に表示するときは、区別化と階層化をして いるか、
c)ユーザは注意資源の効率的な配分が得意---注意特性
人は、必要なら注意を自分でコントロールできるが、多くの場合は、情報環境にある目立つ物に注意が引きつけられることで、注意配分のコストの節約をはかっている。
注意のこの特性は、大事なものは目立たせることで、ユーザの注意を自然に(強制的に)引きつけることに活用できる。その上で、必要に応じてユーザみずからが能動的に注意資源を配分することで、より精緻な情報処理をさせることになる。
指針5 注意を引きつけたいところは、ブリンキング、色、大きさ、 対比などによって目立たせているか
指針6 注意を誘導したあとは、正確かつ十分な情報を提供して深い 処理を支援しているか
d)ユーザは再認が得意---記憶特性
人は、思い出すべきものを見せられればそれが思い出すべきものであることに容易に気がつく。これを再認という。これに対して、思い出すべきものを思い出すことを再生という。一般に再生より再認のほうが認知的コストは低くて済む。
再認能力の発揮を支援するためには、ユーザが持っている既有知識を思い出せる手がかりを情報環境の中に呈示することになる。
指針7 コマンドよりもメニューにしてあるか
指針8 アイコンも思い出す手がかりを豊富に提供しているか
e)ユーザはヒューリスティック思考が得意---思考特性
人は、日常生活や機械・道具の使用に際して、論理的・計算的に思考をすることはまれである。むしろ、論理の飛躍による発見的思考や連想による創発的思考のほうを展開する。このほうが認知的節約原理にかなっているからである。
こうしたヒューリスティック思考能力は、解決目標を意識させた上での知識世界の自由探索を保証する情報環境を提供することで、より妥当な(適応的な)ものになる。
指針9 解決したい課題を絶えず見えるようにしてあるか
指針10 思考の履歴を見せているか
f)ユーザはわかったつもりになるのが得意---思考特性
人は、何が何やらわけがわからない(認知不安の)状態を嫌う。それは感情的な反応であるが、認知的節約という点からも、その状態を引き起こした原因分析に資源を費やし続けなければならないので、好ましくない。そこで、その状態から抜け出るために、状況を自分なりに解釈して納得しようとする。その解釈のために構築されるモデルをメンタルモデルとよぶ。
メンタルモデル駆動による妥当な(適応的な)解釈を支援するためには、論理や計算に訴える表現よりも、視覚表示やなじみの知識で判断できる情報環境を提供することになる。
指針11 たとえを有効に活用しているか
指針12 what,why,howに関する情報を必要に応じて見 ることができるようにしているか
g)ユーザは感性にしたがった情報処理が得意---感性特性
人は、情報を処理する際に、感性を同時に働かせる。そして、感性にあう情報はスムーズかつ十分に深く処理される。
感性に従った情報処理を支援するには、快感情を伴う情報処理の仕掛けを組み込む必要がある。
指針13 美しさを感じさせるか
指針14 自己効力感をもたせるために、過度の自動化の抑止、フィ ードバック情報の提供をしているか