海保・松尾「キャリアアップのための発想術」培風館
頭を柔らかくする(8)
ステレオタイプ 便利だが頭を硬くさせるもの
*******ポイント
(1)ステレオタイプによる思考の便利さにおぼれていないかを絶えずチェックする
(2)ステレオタイプの真実性を疑ってみる
(3)ステレオタイプの反例を探す
●思考には社会的な面もある
「1+2=3」は世界のどこでも通用する真理である。 人の思考には、このように、真理を求めるために行なわれる場合がある一方では、「今そこで」求められている現実的な最適解を出すために行なわれる場合もある。 たとえば、1億円もっている人と2億円もっている人とが一緒になって5億円の投資をするにはどうしたらよいか。「2億円足りないから止めた」は真理志向の思考、「1+2=5」にする算段をするのが社会(状況)志向の思考になる。左のクイズで思考に含まれるこの2つを実感していただきたい。
●なぜステレオタイプが便利なのか 真理をもとめる思考とは違って、社会的な場での思考は、唯一の正解がないし、考慮すべき条件(制約)が多いし、条件一つ一つが不分明な部分が多いだけに何かと面倒である。 その面倒を避けるために展開される思考の一つがステレオタイプ(stereotype;固定観念)による思考である。 ステレオタイプによる思考の便利さは3つある。 1)余計なことをあれこれ考えなくてすむ(認知資源の節約) 2)結論が社会的に納得されやすい(結論の説得性) 3)大きく誤ることがない(リスク回避)
●ステレオタイプは思考をなまらせる 多くのステレオタイプは、過去の限られた個人的な強い感情を伴う体験を独断的に---実は暗黙の社会的通念によって---意味づけすることによって形成され、信念や偏見に近いものになっている。 また、ステレオタイプは、面倒さを避けるための方便のようなところがある。方便なだけに便利なので、つい安易に使ってしまう。 かくして、ステレオタイプから自由な思考を展開するのはなかなか難しくなる。 しかし、ステレオタイプを使いすぎると、思考がなまってくるし、頭も硬くなってくる。 それに加えて、恐ろしいのは、みえるものもみえなくさせてしまうことである。 「T大出は頭は良いが、人づきあいはへた」とのかなり一般化しているようにみえるステレオタイプは、目の前にいるT大出の人が持っている本当の特性をみえなくしてしまう。
●ステレオタイプを克服する 体験で学んだ知識の棄却には一般に2つの方策がある。 一つは、やや逆説めいた方策であるが、思考の真理追及の側面を使うことである。ステレオタイプが真理ではないかもしれないことを、たとえば、本などを手がかりに学問的/科学的に冷静なチェックしてみることである。 2つは、反例の存在を見つけることである。「T大出でも頭が悪く、人づきあいは良い」人がいないかどうかに目を配ってみることである。体験から学んだものは体験で検証してみることである。 ********本文63行 *
************* クイズ1 「同じ問題でも社会性を加えるとときやすくなる」
問1 「20歳未満は禁酒」というルールが守られているかを調べるには、次のどれをチェックすれば「論理的に」十分か。
(1)20歳未満は禁酒しているか
(2)20歳以上は飲酒しているか
(3)禁酒している人は、20歳未満か
(4)飲酒している人は、20歳以上か
問2 4枚カードがある。「母音のカードの裏は偶数」という規則が成り立っているかどうかを調べるとすれば、どのカードをめくるって調べれば「論理的に」十分か。 A D 4 7 別添の図
「解説」 実は、問1と問2とは、論理的には同じ構造の問題である。問1は、(1)と(4)をチェックするが正解。問2は、「A」と「7」をめくるのが正解。 問1の正解は大学生でも10%以下だが、問2のように言い直すだけで、正解がぐーんと高くなる。 真実を求める思考においてさえも、それを解く場(社会/状況)が異なると解けたり解けなかったりするところに注意してほしい。 社会的な状況を想定すると、そこには、思考のヒントが潤沢にあることを示唆している。思考の領域固有性と呼ばれる。転じて、企業組織の中に暗黙に組み込まれていて、社員が無意識の内に使っているさまざまな思考のヒントを企業固有性と呼び、その大切さが指摘されている。
************** 実習 「あなたの人物評価についてのステレオタイプをチェックする」 次の-----の部分にあなたの頭に浮かんでくることを入れてください。
・女性は---
・日本人は----
・東大出は---
・この顔は----
「解説」 多分、いずれについても、それなりのセリフが思う浮かんだはずである。それが、あなたのステレオタイプであり、実は、それは、あなたの周囲で暗黙のうちにお互いが認めあっている通念でもある。 このように、ステレオタイプには、社会や文化が強く影響している。それだけに、強力な機能を果たす。 なお、よくよく考えると、いずれのステレオタイプも、その真実性の保証がほとんどないことにも注意してほしい。かといって、虚偽とも断定できない。 なお、相手に不快や不利益を及ぼすステレオタイプが偏見である。
**************下の図は、スペースの調整用 別添の図あり
個人的な感情体験
社会通念に従った独断的な意味づけ
ステレオタイプ
信念/偏見
図 ステレオタイプが形成されるまでの流れ と点検の方策