●演習で発想力とプレゼン力と討論力を鍛える
昔の大学の演習は、原書講読だった。英語やドイツ語の文献や本を読むのである。今でもそのスタイルで演習をしている教員も結構いる。
筆者は、すでに25年前くらいから、そのスタイルの演習はやめている。演習は、専門の学習を通しての学生の発想力とプレゼン力と討論力の訓練の場にしたいとの思いからである。
こういうねらいの授業は、最近では、専門教育の中ではなく、教養授業の一貫としておこなわれようになってきた。結構なことである。しかし、もっと専門教育の中でも、専門知識の活用訓練とセットにしておこなうこともあってよいと思っている。ただ、ひたすら先生のお説拝聴スタイルから脱却するきっかけの場として演習を活かすのである。
この思いを実現すべく、あれこれ努力を続けてきたが、どうも今ひとつうまくいったという実感をもてないままである。筆者のこれまでのささやかな試みを紹介してみる。
「発想力」
「専門知識の過多は問わない。自分の頭を使って考えるように」をスローガンに、わかりにくい表現の具体例を発掘することを課題に課す。想定される具体例を報告することが多いが、時折、感心するような例を報告してくれることがある。こんな時は本当にうれしい。しかも、1学期より3学期のほうが、そんな時が多い。授業効果と勝手に思いこむことにしている。学生には力を発揮する場と方向性をうまく与えてやることの大切さを実感させられる。
「プレゼン力」
一番進歩が著しいのがプレゼン力である。回を重ねるごとにうまくなっていく。しかも、資料作りも、コンピュータを駆使して見事なものを作る。
アドバイスは次の3つ。
・最初に何を発表したいのかをはっきり言う
・口頭発表だけでなく資料(紙、OHP,パワーポイント)を用意す
る
・資料の読み上げはしない
「討論力」
討論力は、質問力と応答力とからなる。演習で一番問題は、これである。学生の口が重くて、なかなか思いを口に出してくれないのである。
そこで、ここでも、斉藤孝氏の本から示唆を受けて、演習の授業の冒頭に、「質問遊び」をして、まずは、質問するにも技術があることを納得してもらうようにしている。
質問遊びとは、たとえば、一人が自己紹介をする。その内容について、3人が一つずつ質問をする。3人の質問が終わってから、そのうちから一つ、答えたい質問を選び、答える。これを繰り返すと、
質問にも質があることがわかってくる。それがわかってもらうだけでも大きい。それでも、ワンセンテンス質問を自発的にするくらいまでにしか到達しない。
討論力のほうは、手がつかない。最近の学生は、仲間とのつながりを大切にするので、甲論乙駁する討論のような危ない場には近づかない。丁々発止の議論を期待するのは無理。時折、挑発質問をするが、だんまりを決め込まれてしまうことが多い。今やってみたいと考えているのは、ディベート(debate)の導入である。