サービスマンがもっとも起こしやすい失敗は? 海保 web雑誌の記事
人間は間違いを犯す動物です。どんなに気を付けていたとしても、精密機械ではないのですから、多かれ少なかれエラーを繰り返していくものです。
エラーには二面性があります。とんでもない厄災に発展**してしまう破壊的な面と、失敗があったからこそ何か新しいものが創造できるという創造的な面とです。
破壊的なエラーはできるだけ未然に防いだ方が良い**のは言うまでもありません。
しかし**エラーを過度に恐れてしまうと、挑戦的な仕事を避け、無難なことしかしなくります。それでは、創造的な発想や仕事はできません。
今回は人間が犯す過ちを心理学的に紐解きながら、エラーを未然に防ぐ方法、そしてエラーしてしまったときの建設的な対処法を考察していきます。
**海保先生の書かれて『ニューマン・エラー 誤りからみる人と社会の深層』(福村出版)によると、エラー**の分類にはいくつかあります。
**その一つは、人間の心的な機能からの分類です。見間違いや聞き違いなどの知覚段階で起こるエラー、記憶のエラー、判断のエラーなどがあります。
**もう一つは、「計画(Plan)ー実行(Do)ー評価(See)」のサイクル上のそれぞれの段階で起こるエラーもあります。
**計画の段階で起こるのが「思いこみエラー」。実行の段階では、「オミッション(省略)エラーとコミッション(実行)エラー」や「うっかりミス」、そして評価の段階で起こるのが「確認ミス」です。
サービス業において、もっとも起こりやすく、かつ危険なのは「思いこみエラー」と言えるでしょう。思いこみとは、自分のわかる範囲だけの情報から相手に対するイメージを勝手に作り上げて、相手本人が持っているもの**との間にズレが生じたときに生まれます。初めて会ったお客様がたまたま恐い表情をなさっていたがために、以後ずっとそのお客様のことを恐い人だと思いこんで敬遠する。これなど、第一印象、まだ接客もしていない「計画」の段階で起こりがちなエラーです。
また固定観念(ステレオタイプ)から発生する思いこみもあります。女性とはこういうものだ、サングラスをかけている人はこういうタイプだ、とステレオタイプに人を判断する傾向のある人は「思いこみエラー」に陥りやすいと言えます。
「思いこみ」のメリット・デメリット
では、どうすれば「思いこみエラー」を少なくすることができるのでしょうか?
海保教授によると、事前に調べられるだけの情報を知識として持ち、それから相手とできるだけ話をして、自分が思いみをしていないかどうかチェックすることが必要と説いています。知識を持つこと、そしてファーストタッチのところでコミュニケーションを十分にとること。そうすれば、変な思いこみをしない。あるいは思いこみをしても柔軟に訂正できると言います。
ただ、思いこみというのは便利なものです。例えば「女性とはこういうものだ」と思いこんで見ていくと、世の中がすっきり見えます。頭の中で余計なことを考えなくてす**みます。物事を単純化するというメリットが思いこみにはあるわけです。
さらに、時間的プレッシャーがかかっていて、とりあえず第一印象で目の前の人がどういう人かを決めなくてはならない場合、どうしても思いこみをしないと瞬時に処理できないこともあります。特に初対面の人と接することが多いサービス業では、会った瞬間にお客様のすべての情報を取り込んで、コミュニケーションをして、それから対処しようというのは現実的に不可能です。
ですから、思いこむにしても、それが間違っている可能性もあるという意識、**さらに自分の思いを柔軟に度胸を持ち続けることが重要だと海保教授は言います。
Aという思い込みをしたけれど、これは間違っていたからBという思い込みをしてみよう……、要は思いこみの連続であると考えればいいわけです。人間は相手とのつきあいを深くする**過程の中で、その人の見方を変えることによってまっとうな見方ができるというプロセスを踏んでいきます。しかし、それが1分間とか30秒間などの短い時間ではAという思いこみだけで対処しなければならないケースもしばしばあるわけです。
そこで、最初のAという思いこみができるだけ妥当となるように知識を蓄積しておくことが次に大切になります。例えば、コンビニの店員さんだったら顧客層がある程度わかるわけですし、このタイプの顧客はどういう特徴を持っているかということも**知識から判断できることもあります。そのような知識を持つことによって、100%ではなくても、80%程度はその思いこみで上手くいくという状況を作り出せれば、接客は割合スムーズに進むのではないでしょうか。
初対面の人と話をする場合、お互い警戒心が生まれたり、遠慮が出てくる場合もあります。しかし思いこむことによって、それなりの対応ができ、そこから親密感が生まれてくることもあるわけです。思いこむことは誰しもあることですし、決してデメリットばかりではありません。それをエラーにしないように情報や知識を自分なりに収集しておくこと、そしてエラーしたと気づいたら柔軟に修正していく姿勢が求められているのです。
エラーを未然に防ぐには
「思いこみエラー」だけでなく、どんな段階、どんな状況でもミスは起こりえます。それをできるだけ回避する手段は何かあるのでしょうか?
海保教授によると、自分で自分をコントロールする自助努力、すなわち自己モニタリング能力を高めること、そして状況の方にミスが起こらない仕掛けを作りこんでおくこと、このふたつがうまく機能すればミスはかなり防げると言います。
自己モニタリング能力を高めるには、エラーはどうして起こるのか、エラーにはどんなものがあるのかといった知識を豊富に持つことが必要です。エラーについて知ることで、「自分はこういうときにエラーを起こしそうだから気をつけよう」となるわけです。
そしてもうひとつ、自分で自分を内省する力をつけることも重要です。その訓練法としてよくあげられるのが日記や報告書です。エラーや事故を起こす寸前の「危なかった!」という時の自分の気持ちを日記に書いてみるとか、一定のフォーマットに従って報告するのです。
あるいは新聞やニュースなどで交通事故の記事が出てきますが、なぜそのようなことが起こったのかという原因をよく読んでおく。そうすることで、エラーに対する知識にもなりますし、それを機会に内省することもできます。
一方、状況の中にエラーを防ぐ仕掛けを作り込んでおく例としては、フール・プルーフやフェイル・セーフが有効です。例えば、ガスの栓は押してからひねるようになっています。そうすることによって危ない行為であることを意識させるのです。このような仕掛けをフール・プルーフ「馬鹿なことをしても大丈夫」)と言います。フェイル・セーフは一方が壊れても一方でカバーできるという方法です。「失敗しても大丈夫」という意味があります。
何か行為を行う時に、エラーをしない環境を意識的に作っておくことで、人間が自己コントロールできなくても、**それをカバーすることが可能になります。
とはいえ、不測の事態というのは起こるものです。お客様に不快な思いをさせてしまうことがあるかもしれません。そうなった場合は、素直にミスを謝罪し、迅速に善後策を練る、ひとりで解決できないようであれば一緒に働くスタッフを信じて救援を求める、など冷静で誠実な対応が求められます。エラーはあってはならないこと。しかし、エラーをしてしまった後のあなたの振る舞いこそ、お客様はしっかりと見ているのです。