散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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ユーモアの効用 ~ 生協の白石さんと週刊「碁」の治勲さん

2013-07-24 07:19:38 | 日記
三男は家のすぐ前の公立中学校に通っている。
グラウンドの部活風景も先生の怒号も、運動会や花火大会のにぎわいも、居ながらにしてベランダの特等席から鑑賞できちゃうのだ。

長男・次男は中学から国立だったので、三男の日々の様子は僕にとって、現代日本の公教育についての貴重な情報源である。僕自身は転勤族の息子で、中学までは居住地の市立小・中学校に通っていたから、40年を隔てて比較しつつ思うところがいろいろある。

乱暴にまとめるなら、
「現場の先生方は、いろいろ注文はあるにせよ、よく善戦敢闘している」
「教育制度やカリキュラムに関しては、昔ながらの深刻な問題が基本的に改善されていない」
ということになるだろうか。
三人の息子が全員通った区立小学校についても、同じ印象がある。

詳しくは追々ふりかえってみるとして、ここに書き留めておくのは国語のM先生配布にかかる、傑作な資料のことだ。

「生協の白石さん」って、僕は知らなかったが有名なんだね。
某大学生協の職員で、利用者(大半が学生だろう)からの「ひとことカード」というアンケートへの回答を担当している、その回答ぶりが秀逸。

以下、M先生の資料から転記させていただく。

Q1. 車欲しいです。売ってください。
A1. ご要望ありがとうございます。
自動車の売買について、生協では取り扱っておりません。
ご参考までに、当店では「車選びの決定版 最新マイカー選び」という本を販売しておりますので、ご検討の一助となれば幸いです。(白石)

Q2. 宇宙に行きたいです
A2. 大学生らしいスケールの大きい志、素晴らしいです。
私など今度の休みに予定している四国旅行が楽しみでしかたありません。
いつからこんなに小さくまとまってしまったのか・・・嘆くばかりです。
実は当生協カウンターにて旅行の申し込みも受け付けております。
宇宙への夢が儚くも破れ、傷心状態となりましたら、
是非とも地球のツアーを当店にてお申し込みください。(白石)

Q3. なんで「恋人」と「変人」って漢字が似てるんですか?
A3. 生協として正解が導き出せるはずもございませんが、
付き合い始めの恋人同士が時を経るうちに、緊張が解け、
お互いの前でしか見せない自分の姿をさらけ出したとき、
「変人」のように映ること、なきにしもあらずではないでしょうか
「変人」とは、場合によっては「恋人から一歩進んだステージ」なのかもしれません。(白石)

Q4. 研究室配属で希望外の研究室にとばされてしまいました。
来年僕はどうやって生きていけばいいですか?
A4. 希望の所属とならなかったことについては、ご心中お察し申し上げます。
しかしながら、充実した大学生活を送られた方すべてが、
ご希望の研究室配属だったとは限りません。
これは、社会に出た後の自身の職業についても同様です。
きっと道は通じておりますので、経験の選択肢が広がったと考え、
これからも勉学にお励みください。(白石)

Q5. 愛は売っていないのですか?
A5. どうやら愛は非売品のようです。
もし、どこかで販売していたら、それは何かの罠かと思われます。
くれぐれもご注意ください。(白石)

お見事、というところ。

M先生はここから三つのルールを抽出しておられるが、これがまた的確で、
① 質問者を傷つけない
② (質問者に限らず)誰かを不快にさせることは禁物
③ 真剣に、かつ、ユーモアをもって答える

これまた、なるほどだ。
もちろん、本来の職責からすれば回答する必要のないことがほとんどだ。
しかし白石さんは、こまめに真摯に対応する。
こういう番外作業は車のハンドルの「あそび」のようなものだが、それがあるおかげで僕らの生活がどれほど息のしやすいものになっているか。
それは白石さんにとっても、アンケートへの対応という気骨の折れる作業を昇華する意味をもっているだろう。

*****

さて、ここにもうひとつ、傑作な記事を見つけた。
わが敬愛する棋士・趙治勲25世本因坊が、週刊「碁」に連載する
「お悩み天国 ~ これが治勲のシノギかた」
その第78回は、題して『詐欺撃退へ攻めに転じよう』

いつもは読者の質問に当意即妙の回答で応じる「ここにも白石さん」だが、
今回は治勲さんが語りに転じたのを、以下転載。
(週刊「碁」1815、2013年7月29日号)

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今日はほくの話を聞いてください。
これはどうしても、みなさんに伝えたくて…。

元横綱の朝青龍が騙されて一億円を取られちゃった事件、知っていますか。
最近、その犯人が死んじゃったそうです。
この事件を最初に聞いたとき、ぼくは感心してね。
一億円も持っていた朝青龍じゃないですよ。犯人をです。
だって、考えてもみてください。あの朝青龍が相手ですよ。
詐欺だから、いずればれる時がくる。
そしたらあの鍛え抜かれた巨体が復讐にやってくるかもしれないんですよ。
仕返しが怖くて、普通は尻込みしそうなものです。
自分より強いものに対して立ち向かう。これは天晴れです。
ただ、犯罪だったのが残念ですが。

で、本題ほここから。オレオレ詐欺、振り込め詐欺って、ありますよね。
いまでは「母さん助けて詐欺」というらしいですが。
この被害額、昨年は三百六十三億円ですよ、あなた!信じられますか? 
週刊碁の読者でも被害にあっちゃった方、いるんじゃないかな。
電話がかかってきたらどうしよう、そんなふうに怖がっている方も少なくないはずです。

こういう犯人は特に許せません。
だって、自分より弱いものを食い物にしようとしているのですからね。

そこでぼくからの提案です。
現在の警察、おじいちゃんおばあちゃんの基本姿勢ほ、どうやってオレオレ詐欺にあわないようにするか。
実はこれがいけないとぼくは気付きました。受け身なんですよ。だからビクビクしちゃう。
家の電話が鳴るたびにドキッしていたら、健康によくないです。
これからは攻めましょう。攻めに転じるんです。碁だって守ってばかりじゃ勝てません。攻めてこそ、勝利に近づけるんです。

「孫の○○だけど、会社のお金使いこんじゃって困っているんだ。おじいちゃん、○○○円、持ってきてくれない?」

こんな電話がきたら、すぐにこう答えてください。
「わかったよ、それだけでお金は足りるのかい?その十倍くらいは持っていけるよ」
待ち合わせの場所をしっかりメモして、すぐに110番へ。

こういうケース、何度かニュースになっています。それでも怖いという方はきっといる。
でね、ここからがぼくがいちばん主張したいどころです。

おじいちゃんおばあちゃんの協力で犯人検挙につながったら、プレゼントを差し上げるんです。
好きな歌手のコンサートにご招待とか、プロ野球観戦チケットとかね。
碁が好きなら、好きな棋士と対局できるなんてどうですか?
おじいちゃんおばあちゃんが元気になれば、日本経済にもプラスです。
理想は、日本中のおじいちゃんおばあちゃんが、「オレオレ詐欺」の電話を楽しみに待てる、そんな世の中です。
犯人逮捕となれば好きなご褒美がもらえる。こんなうれしいことはありません。

詐欺の電話を受けた瞬間、「かかった!」とか「よっしゃ!」とか
心の中で叫んじゃったりしてね(笑)。
こうなればオレオレ詐欺はなくなります。
警察のみなさん、いかがでしょう。

うまくいったらぼくにもご褒美ください。