散日拾遺

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コメント御礼 ~ シンカイ先生のこと

2021-09-05 09:26:33 | 日記
2021年9月5日(日)


ザリガニの件(↑)について、8月末にいただいたコメントを転記する。

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「ブログに書かれていたザリガニのことです.わたくしは信州で高校まで過ごしていましたが,小学校の低学年だったころ(今から60年ほど前)近くの田んぼで偶然にアメリカザリガニを捕まえて,一緒に行った友達と大喜びをした記憶があります.当時ここではこのザリガニはまだ珍しく,自分も含めて初めてみた子供達も多かったと思います.それが今では先生のお話のようになっているのが現実です.
 以前から問題になっていた外来種はアメリカザリガニやミシシッピーアカミミガメ以外にも,ブラックバスやブルーギルなどの魚類,アライグマ,ウシガエル,ヒアリなど実に多種多用です.また,日本国内だけではなく,北米大陸ではコイが同様な生物として扱われているようです.さらに,野原や河原,林や森など人との繫がりがある場所の野生植物のみならず,公園の花も農作物なども多くが移入されたもの(外来種)であり,固有種は少ないように思われます.
 このような現状は意図的であるか否かは別にして,人為的な行為によって引き起こされたものであり,専門家を含め多くの人たちが危惧している,地球上の生態系への影響に直結してくる大問題だと思います.実際,何人かの研究者は今日の生態系の変化(打撃)が地球規模での「大量絶滅」に繋がるリスクを指摘しています.」

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 文は人とやら、生物学者としての確かな見識とあわせ、穏やかで考え深いお人柄が彷彿され、心寛ぐところがある。実名を明かすお許しをいただいているが、インターネットでは同姓同名の別の研究者にすぐに飛んでしまう。御迷惑をかけたくない意味もあり、ここでは懐かしさをこめてシンカイ先生とだけ呼ばせていただくことにする。
 ワシントン大学への留学が決まったとき、行った先では形態学的な研究法が中心であると知って、渡航までの期間にせっせと予習に励んだ。中で最もお世話になったのがシンカイ先生で、紹介を得て厚かましくも研究室に入り浸り、うるさくつきまとって教えを請うた。先生にとっては何の得にもならないのに、御多忙の中うるさがりもせず、資料の固定から包埋切削まで懇切丁寧に教えてくださった。後々それがどれほど役立ったかわからない。
 嬉しいことに、当方の渡米後ほどなくしてシンカイ先生もまた、アメリカの別の街へ留学なさることになった。中西部から東海岸まで休暇にいそいそと出かけ、家族ぐるみで御歓待いただいた四半世紀前が昨日のようである。

 コメントにもある通り、先生の生まれ育った信州の浩然の気が、いつも先生をとりまいていた。デスクには「ずく出せや」と書かれたメモが貼ってあったが、これは由緒正しい信州弁なのですよね?
 1994年正月明け早々のある日、昼休みに研究所の中を移動していると、敷地の一画で賑やかに餅を搗いている。その中心にいる筋骨逞しい男性がシンカイ先生その人だった。
 重い杵を振るって餅をつく動作は、日本の農村生活の粋である。四股に通じる腰割りの姿勢ができていないと、鍬打ちもできず杵もあがらない。無理をすればあっけなく腰を痛めるだけだが、逆にこれができていれば、小柄な者や年長者もよく労作に耐えるのである。シンカイ先生は昼休みの間中、餅つきに精を出し、午後はまた涼しい表情で実験を教えてくださった。伝統の所作は先生の身体にしっかりしみこんでいるものと確信された。

 多年にわたって生命科学の研究に従事なさった後、今は文系の大学生に生物学を講じておられる。比類なく大事な仕事である。これからまた、いろいろと教えていただけることだろう。
 
「現在,絶滅とか絶滅危惧とかいろいろにぎやかです.このこと自体は良いことだと思っていますが,過去(江戸時代やそれ以前も含む)に国内にどのような生物が生存し,それが現在どのようになっているのかについては,残っている書籍が少ないということもありますが,網羅的にまとめた文献はあまり見つかりません.わが国では昔から本草学が発達していますので,先人達の書き残した資料を見直し,その地域での生物種の興隆や衰退・絶滅などについて,現在も含めた時間経過を考えながら調べてみたいと思っています.
 といいましても,対象があまりにも広大すぎますので,生物について書かれたの資料が多い地域からスタートしようと考えています.」

 先生、どうぞズク出してください!

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