彼は呆気に取られました。彼は口を開けたままそのままで、彼女の怒りの形相と迫力に押されて目を白黒させると暫く恐れ戦いていました。程無くしてショックから来た早鐘の様な動悸が落ち着いて来ると、彼の方もまた怒鳴り付けて来た彼女の方にむかむかと怒りの感情が湧いて来ました。
「君の方が話を聞いて来たんだろう!」
思わずかっとしたので彼の方も語調がきつくなりました。「君が話せって言ったから僕は話してるんじゃないか。」「始めに話を聞きたがったのは君の方じゃないか。」「だから僕は喋っていたんだろう。」言葉を口から出す度に落ち着いて来た彼は、最期に同意を求める様に彼女に言うのでした。「そうだろう。」
そこで彼女はふふんという感じで態度を軟化させました。彼女はややきまり悪そうに肩を落として姿勢を崩すと、体の向きと顔を彼から反らし、そのまま脱力して遊具に肩を持たせ掛けました。そこで彼は我が意を得たという感じで喜ぶと、彼女が自分の言う事に折れたのだと判断して当初の話を続ける為又お喋りを始めました。
「それであの二人はどうやら気が合うらしい…」
と彼が口にした所で、彼女は彼の言葉を手で遮りました。
「私にもうあの子とその子の話はしないで。」
聞きたくないからと彼にピシャリとそう言うと、彼女は内心に渦巻く、可なり激しい炎の様な怒りを顔に隠せずにいました。