「成る程、あの人がね、それでその子が。…それで、…。その子、あの子の事は何て言っているの?。」
そう言う声が聞こえた後、私には、「…へーえ…」という従姉妹の声や、振り返って目を丸くしてこちらを見る彼女の顔が見えるだけでした。時に彼女は、傍にいた一番年下の男の子にも話を聞いていました。が、その子の声は小さく、話が全く聞こえて来ないので、私には彼女が何を聞いているのか皆目見当がつかないのでした。その後従姉妹と同い年の彼の話も内緒話の様になり、声はぽそぽそと小さくなりました。その為2人の声も私には全く聞こえ無くなってしまいました。
遊具の側に1人ぽつんと立っていた私には、ここで待つ意味も分からず所在も無くなり、只々怪訝に思っていただけでしたが、春の長時間の外遊びは気だるくなり、私はかなり疲労して来ていました。その内退屈を持て余して来た私は、家に帰ろうと思い始めましたが、従姉妹が残していった「待っていてね」と言う言葉に制約を受けて、目に付いた手近な遊具で遊んで暇をつぶす事にして、彼女が戻って来るのを待つ事にしました。
暫くして、従姉妹は漸く私のもとへ走って帰って来ました。彼女は話をしていた私と同い年の子に頼まれた事がありました。「頼まれたのよ。」と彼女は息を弾ませて私に第一声を浴びせました。その後何だか思案している顔付で彼女は佇みました。呼吸を整えながら、鈍感な年下の従姉妹に如何話したらよいかと考えていました。彼女は『まあ、実地に見せながら説明した方がいいな。』と判断しました。彼女はおいでと私の事を手招きすると、私を伴って広場のより隅の方、遊具のその先にある扉の側に立ちました。広場の奥には大きな2つの建物を繋ぐ為の連絡路とその下に長塀があり、長塀には一ヶ所扉が設えてありました。
彼女は、「聞きたい事を教えてもらう代わりに、私も向こうから頼まれ事をしてね。」と、「如何したらいいか、如何言ったらいいか、それを考えていてね。」「…ちゃん、分かるかな、と思ってね。」と、ちらちら私の顔を見ながら話し掛けて来るのでした。私は今迄の時間を相当長く感じ、またその為にかなり待ちくたびれて疲労困憊していました。彼女の要領を得ない話方が、じれったくて、じれったくて、…、遂に私の堪忍袋の緒は切れました。
「手早く話してよ。分かるように、早く!」
そう大きな声でせっかちにまくし立てたものですから、当然彼女は苦虫を噛み潰したような顔をして私を睨みました。