そこで彼女は、
「その人なら、お父さんに似た人なら、あっちの下のお店に行ったよ。」
そう言うと、彼女は男の人が行った店を指さして、彼がそこへ行く前に口にした言葉を、そっくりそのまま真似して話すのでした。
「ほー、すると向こうの世界にもこの寺と同じ寺や、参道の入り口の所に茶屋が有る訳だ。」
「それで、茶屋も久しぶりと言って、寺より先に茶屋へ行ったのかい。」
渋い顔で父が言いました。語気にはムッとした不快感が漂っていました。
まあまあ、と、父の横にいた男の人は言います。
「一喋りというからには話好きな人なのでしょう、あなたに似て人好きのされるお人なのでしょうな。」
笑いながら父に似た人を取り成すようにこう言うと、父は横にいた男の人のこの言葉に機嫌をよくしたようでした。
にこやかな笑顔を見せました。
「確かに、私もあそこへはよく下らない話をしに行きます。あそこで話すと、店の人がうまく調子を合わせてくれるので
話が弾んで楽しいですからね。時間の経つのを忘れますよ。」
と、機嫌よく笑います。
そうか、今回は自分と同じにそんな事を言う奴が現れたんだな。今迄が変な奴ばかり出て来たものだから、
こっちもすっかり用心してしまったが、そう言う奴なら自分と同じで結構害のない大丈夫な奴かもしれないな。
さて、ではちょっと私が茶屋へ行ってその男の人を探してきましょう。そう言って蛍さんを男の人に預けて、
いざご対面、と参道を下りて行こうとしました。
すると男の人は、
「気を付けてくださいね、相手はまたどんなスパイか分からないのですから。」
と、彼の注意を喚起するのでした。
用心用心、用心に越した事はありませんからな。
そんな男の人の言葉を受けながら、父は自分に似ているのなら大丈夫でしょうと笑顔で返事を返すと、
足早に参道を下りて麓の茶屋へと向かって行くのでした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます