Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華3 8

2020-07-09 14:29:32 | 日記
 その後、両親の虎馬遊びを1度目にしたが、私は特に気に留めることなく見過ごした。母も2人の傍を通り過ぎる私に特に注意を向けなかった。この時の母は私を無視しているというより、無言でやり過ごすという雰囲気だった。押し黙っていたという言い方の方がぴったりくるかもしれない。
 
 その後、また父の遊び相手は祖母に変わった。それは私が外遊びから帰って来た時だった。

 この頃はもう祖父も店で商売をしていなかったようだ。私は店に来る客を見たことがあるが、祖父と父は端切れの商品見本や、店に在庫の商品のみを客に見せて商談をしていた。客も順番など待つ事は無く、一時に1件か多くても2件が重なる程度の混み具合だった。私の物心つく頃に、家に丁稚という者や番頭という者がいた事も無かった。これは祖父が行商に出て注文を取り、取った注文を工場等へ連絡すると、工場から直接相手先に注文品を送ってもらうという商いの仕方だったせいもあるのだろう。

 何時もの様に誰もい無い店、玄関から敷居を上がり、重いガラス戸の入った間口、ここは日中普段は1枚だけ扉が開けてあった。この間口の1枚分の空間は絶妙で、表から素通しで奥が見えない様になっていた。お陰で私は家に入ってからも、この階段の部屋に足を踏み入れる迄、中で何が起こっているか毛ほども感知する事が出来なかった。

 「只今。」

私がひょいとこの部屋に顔を覗かせると、頬を赤らめた祖母がバツの悪い顔を作っていた。祖母はその場におずおずと立っていたが、後ろ手にしていて、彼女の着ている着物の奥に何か隠して持っている風情だった。

 「お祖母ちゃん、只今。」
 
私は言ってから、祖母の傍らにまた父が伏せている姿を認めた。『あれ、お父さんと、今日はまたお祖母ちゃんが遊び相手なんだ。』と、祖母と父のコンビが復活している事に私は少々驚いた。が、元々はこの組み合わせだったのだから、これはこれで変な事も無いのだと私は考えた。

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