あゝまたか。やはりあの人の息子である、と私は思う。
今回の私は、分かっているのに引き止めるという言動が、あの今し方階段の方でそれを行っていた、祖父という人の子である事と、横に来た父の顔を見て思った。
あちらでは、「父の父」と祖父の事を思ったが、今回も、分かっている筈なのに足止めする。そうして私に我慢の行を強いるという、『同じ事をするものだ。』、そう私の父に合点したり、うんざりもした。流石に親子だ。
『んもう、分かっているくせに。』
私は父を見上げて眉根に皺を寄せると渋い顔をした。
父はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、知らなかったのだろう、はてなと言う言葉を口にした。お前、如何してここまで来たのだとか、父さん、これは祖父の事だが、に何か頼まれたのか?、など聞いて来る。しかも語り口が悠長だ。私は気が遠く成りそうになった。
父のこの様子では、この先何時トイレに達する事が出来るのか分からない。時は金なり、そんな父の日頃の口癖なども頭に浮かんで来る。「時間を無駄にするな。」、そうだ!、今この一瞬たりとも私は無駄には出来ない!。事はひっ迫しているのだ。私は思った。
私の身上げる父の顔は、如何にも普段通りで平然としている。否、少々あっけらかんとし過ぎた風情で、何思う所のない凡庸な顔付だった。すると、突如として私の内には、先程の祖父が私に対して行った仕打ちに対する怒りが怒涛の様に湧いて来た。私は目を怒らせると、まだ何か言いたそうに口を間誤付かせている父に向かって叫んだ。
「智ちゃんトイレなの!。」
おしっこ、何でも言って声を掛けないで。漏らせばいいと思ってるの!。そう畳みつける様に父に言うと、
「お父さんの馬鹿!。」
如何にも極め付きの様に、吹き出した怒りに任せて私は思いっ切り馬鹿!と父を怒鳴りつけた。
お陰で私の父は良い面の皮となった。江戸の仇を…ならぬ、階段の祖父の仇を台所の父で、である。彼は私からの八つ当たりを真面に受けた見本のような状態となった。彼は私の最後に発した罵声の連打という物凄い攻撃に、うわっとばかりに肩を窄めると、首を縮めて、「申し訳ありません。」と、反射的に弱弱しい声を発すると物の見事に項垂れた。
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