Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダンスは愉し 8

2019-01-30 09:07:14 | 日記

 「桃子ちゃん、バレエ習ってたの?」

目を見開いて、半信半疑で問いかけて来る自分の従妹に、桃子さんはええそうよと事も事も無げにすまして答えました。

「すずちゃん、知らなかったの?」

言ってなかったっけ?と、彼女は普段の声音で従妹と喋り始めましたが、内心は満面の笑みでいました。

「もう、2年程習っているのよ。」

そう答えた彼女は、年下の従妹に大きく水を開けた気分でいました。何しろ、従妹と時を同じくして習ったピアノで、彼女は年下の鈴舞さんにきっちりと差を付けられた経験が有ったからでした。

『年が下といっても、うかうかと同じ習い事を一緒に初める物じゃないわね。』

その時彼女は肝に銘じたのでした。

   それで桃子さんは、次にバレエを習うという時になると、従妹にはこっそりと内緒にして習い始めたのでした。『2年程差を付けて置けば大丈夫。もう追いつかれることも無いだろう。』本来のお姉さんの様に従妹に大きな顔が出来るというものだ。彼女や、彼女の親である両親もそう考えていたのでした。

 が、事は桃子さんの考えたようには運びませんでした。鈴舞さんがこの彼女の考えを読み取ったのかどうかは分かりませんが、鈴舞さんは彼女に一向にバレエを習いたいと言って来ないのでした。

   確かに、鈴舞さんも初めて従姉がバレエの練習をしているのを見た日には、帰宅してすぐ母に習いたいとせがんだものです。が、母に、あんな高い習い事、と、姉さんから衣装や発表会等の諸経費が高くつくとあれこれ聞いている。と言われると、彼女はこれは無理だなと早々に悟り、それ以降は全くバレエに興味が湧いてこないのでした。

   又、お祭りの艶やかな晴れ着や、西洋人形のように豪華なドレスとは違う、バレエで使うチュチュの衣装にも一向に気持が向かないのでした。従姉の思惑は全く外れてしまいました。

   それでも彼女は年上らしく、優しくにこやかな笑顔を従妹に向けると、「習いたいならお母さんに言ってあげようか?」と水を向けてみたのですが、「ううん、いいの。バレエには興味が無いから。」そうあっさり鈴舞さんに答えられると、

「えっ!すずちゃん、バレエに興味が無いの⁉」

と、思わず呆気に取られて絶句してしまうのでした。

   姉妹のように連れ添って、従妹と仲良くバレエを習う。ひとりっ子だった桃子さんは、ここで夢に迄みていたお姉さん役を逃す事になり、ガックリと気落ちすると酷く落胆してしまいました。そんな桃子さんを見ていた周りの人間には、彼女の心中あまりあるものがあるくらいの落胆ぶりでした。


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