Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(55)

2018-04-25 09:04:05 | 日記

 この言葉に、彼の方は泣いている従姉妹に向かって歩い行くと二言三言小声で何か言っていましたが、それ以上誰に何言うという事も無く、争う気配も全く無く、何事も無かったように私達の側から身を引くと、先程の連れの男の子達が去った方向では無く、私達が来た門の方向に向かって無表情で歩き出しました。

 「女相手に真面に喧嘩する程やわじゃ無いよ。」

「僕は男なんだからな。」と、捨て台詞とも取れる様な言葉をびしっと残すと、彼は堂々とした足取りで去っていきます。彼は石碑の側を通る時、傍にいてきょとんとして立っていた年下の男の子を行こうと誘い、その子を従えて共に広場から出て行く気配です。

 「…ちゃん、一寸待っててね。私あの子達に聞きたい事があるから。」

従姉妹は不意に私にそう言うと手で涙を拭いました。「付いて来ないでね、此処で待っていてね。」と、また指示するように念押しすると、彼女は振り向いて彼等の傍まで早足で駆けて行きました。

 『何の話があるのだろう?』喧嘩しているのにと、私は不思議に思いましたが、自分より年上の従姉妹がそう言うので、そのままそこで静かに佇み彼女を見守りながら待っていました。彼等とは5、6メートル程しか離れてい無かったので、私にも彼らの話声が時折聞こえて来ました。

 「さっきの態度の話だけど、私の。」従姉妹の声が聞こえます。誰がそう言い出したの?、あなたなの?、誰が最初にそう言ったのかを聞いているのよ。畳みかける様に質問する彼女の声が聞こえてきます。「教えて頂戴。」と。


土筆(54)

2018-04-24 08:30:32 | 日記

 「…ちゃん、そんな物見てたんだ‥。」

従姉妹は放心したようにふんわりそう言うと、口に手を当てました。暫くして急にお腹を押さえた彼女は、「うくく…」と、腹痛に苦しみ出した様子です。彼女の前にいた私は振り返り、容体が急変した彼女の様子を見ると気が気では無くなりました。片方では同い年の男の子と対峙し、片方では従姉妹の容体にも気を回し、彼女に大丈夫かと体調を尋ねる事になりました。

 私の2、3回の問いかけに、気丈にも彼女は弱弱しい声でしたが、どうにか声を絞り出し「大丈夫だ。」と答えるのです。そこで私は遊び仲間の男の子の方に向かうと勢い込んで、弱っている彼女に一言謝ったらどうだ等、ポンポン言って詰め寄りました。私の勢いに飲まれたのでしょう、彼の方は口を開けてたじたじとするばかりです。口だけは「謝る必要はない。」「何で俺が謝るんだ」等、今日の地域の子供行事の為に整えていた余所行き言葉から、普段使いの言葉に戻って来ていましたが、粘り強く強情な事を言い張っていました。そこで遂に業を煮やした私は、

「謝らないならもう遊ばない!」

と遊び仲間間で行われる最終の決め台詞を彼に投げつけました。

 流石にこの言葉で彼も雷に打たれたようになりました。彼は表情を変えると、私の最後通告を受け入れてしょんぼりとうな垂れると、「何で俺が謝らなければならないんだよう‥」と呟きながらも、私の傍らを俯いて通り過ぎ、従姉妹の元へと歩み寄って行きました。

 実はこの時、従姉妹はせり上がって来る笑い声を必死に堪えていました。流石に堪え切れなくなり、忍び笑いを漏らしていましたが、そうこうする内にぐっと胃がせり上がって来て、みぞおち部分に確かな痛みを覚えていました。その為彼女は口や腹に手を当て遂にはしゃがみ込むという体制で目を閉じていました。閉じた目から大粒の涙が溢れ出て来ます。涙は止めようがありませんでした。大笑いを堪えるのに必死で身動きが取れません。年下の従姉妹に言った大丈夫だの言葉も漸く口から声に出していました。彼女の目からは止めど無く涙が溢れるばかりです。目を開けてみても視界はぼんやりと滲むばかりで視力が全く利きません。彼女は、これでは立って歩く事は儘ならないと感じていました。

 「…ちゃん、泣いてるの?」

年上の従姉妹の目に涙を認めた私は声をかけました。そんなに感動してくれるなんて。私の従姉妹に対する思いにそんなに感動してくれたなんて、こう感じ入ると私は自身を正義感溢れる勇者の様に思い、胸を張って彼女に快活に言葉を掛けました。

「敵は打ったからね。」


土筆(53)

2018-04-23 09:17:51 | 日記

 「…ちゃん、…ちゃんを泣かせちゃだめじゃないの。」

私は相手の男の子を名指しして、従姉妹を苛めて泣かせたのだと決め付けるとその顔を睨みつけました。

 それに対して、彼は呆気に取られて目を丸く見開くと、泣いている従姉妹と私の顔を黙って交互に見比べていましたが、「嘘泣きだよ嘘泣き。」と言うと、「誰が原因でこうなったと思っているんだ」と、小さな声でしたが聞こえよがしに、少し彼の顔をこちらから背けるようにすると彼の側面、下方向へと言葉を吐き出しました。

 それから彼は私達の方へ向き直ると真顔になり、誰に言うでも無く感嘆した声で言いました。

「白けるなぁ。」

へえぇ、何時もこんななんだ、何だかなぁと、ぽそぽそ上の空で呟くように零していましたが、従姉妹の方がそれに対して微笑し、同意するように会釈する物ですから、てっきり2人は喧嘩していると思っていた私には、この2人のやり取りが何だか不思議思な光景に映るのでした。

 私は事はどうやら事無きを得たのだと感じながら、それでも従姉妹の為に彼に念を押しておかなければと決意すると言いました。

「乱暴な事しちゃだ駄目!、男の子が女の子を泣かせるなんて、駄目じゃないの!。」

続けてこんな時の決め言葉、「女の子を男の子が泣かせるなんて、」「悪いんだぁ!」も当然付け加えました。続けてそれはとてもいけない事だと、私は近所の伯母の何時もの仕草を見よう見まねで、物事がよく理解出来ていない子だと、彼の顔を覗き込みながら噛んで含めるように言葉を掛けました。それは従姉妹が彼女の兄や出先で出会った悪戯小僧に泣かされた時、彼女の母である伯母がする仕草でした。今春、私はこのお手本を2、3日前に見聞したばかりでした。


土筆(52)

2018-04-22 09:07:39 | 日記

 『本当に喧嘩しているんだ!』と私はハッとしました。

 2人が離れて行き、楽しそうに遊具の側で話し始めた時、私は彼等のにこやかな様子に、当初感じた殺気立った雰囲気は私の全くの杞憂であり、単なる取り越し苦労だったのだとほっと安堵しました。そこで私は2人を傍観していたのですが、その後も心配していた仲違いの兆候が全く見られ無かったので、私の方はすっかり安心し切って、何時しか石碑の側で言う事を聞かない年下の子の世話をする事に没頭してしまいました。

 そこへ従姉妹の大きな怒鳴り声が響き、見ると彼等の何となく緊張した雰囲気が伝わって来たものですから、それと知った私は注意して2人を見守っていたのですが、とうとう彼女が泣き出した時には、彼等の間の仲が相当険悪な状態に迄陥ったのだと悟ったのでした。

 『何時も大層仲良しの遊び仲間同士なのに、その中の2人が喧嘩をするなんて…本当に有る事だろうか?』と、それ迄半信半疑で楽観的な観測をしていた私は、彼女の最初の怒鳴り声がした時2人の仲はかなり険悪な事態なのだと感じました。その時私は注意深く考えてみて、従姉妹と、私と同い年の子の喧嘩ならば…と、従姉妹にとっては年下が相手だから、それなら彼女1人で十分に喧嘩の相手は出来ると判断しました。また、もし私が直ぐにも従姉妹の加勢に加われば、それこそ普段から仲の良い遊び相手に対して不公平という物だとも考えました。その為私は従姉妹の怒鳴り声がしても暫くは2人の様子をその場で見守ったまま、じいっと身動きせずに待機していました。

 その後、2人の間で静かに話は続いていたようでした。ところが、突然、わーんとばかりに従姉妹が声を上げて泣き出したのですから、これには相当物に鈍感な私でもびっくり仰天したのでした。すわ、従姉妹の一大事!とばかりに一刻の猶予も持てないと、石碑の傍に年下の子を1人残したまま、急いで広場の隅の遊具が置いてある場所に駆けつけると、駄目よとばかりに2人の間に割って入りました。


土筆(51)

2018-04-20 09:31:58 | 日記

 彼は話の接ぎ穂を折られてまた言葉を失いました。今春が進んで来た明度の有る日差しの中で、遊具の側に立つ2人の影は共にうな垂れているように見えました。

 沈黙の時が過ぎました。もう彼女の表情に怒髪天を突くというような激しい感情は見られ無くなりました。代わりに酷く疲れたような、疲労困憊した色がその顔に浮かんでいました。彼の方も、彼女の表情の移り変わりを見る内に、反省と後悔の念が感じられるような沈痛の面持ちに変わっていました。好奇心旺盛な彼でしたが、彼女に対しては心底友情を感じていたのです。似た者同士というのでしょう、外見の整った形と同様、彼らは共に内面の思考、物に対しての嗜好も似ていました。この時、彼女の表情を読んでいた彼には、彼女の考えている事が殆ど理解出来ていました。

 『叔父さん、私だけが頼りだなんて言って置いて、ちゃっかり近所でも一番の資産家の御子息に従姉妹をくっ付けていたんだわ。』『この子の言う通り、叔父さんは油断出来ない人間だったんだ。今後気を付けるようにお母さんからお父さんに言ってもらおう。』この時彼女はそう考えていました。

 彼女は年下の従姉妹に将来の玉の輿の先陣を越された事が、腸が煮えくり返る程に悔しくまた腹立たしいのでした。そこには妬みともいえるような嫉妬心が含まれていました。彼女は大好きな叔父に裏切られたという感情で泣きたいくらいに悲しくなって来ました。

 「あの子の事はもう聞きたくないから。何で私がこれ以上あの子の話を聞かなくちゃいけないの。」そう力なく呟くように彼女は言いましたが、振るえる語尾が何時も冷静沈着で物に動じない普段の彼女とは違う、今の彼女の内面の沈痛な思いを表していました。

 「あの子だったら私の方がお似合いだわ。」

『そうなんだけど…』、我知らずの内にこの言葉を彼の前で口に出してしまい、彼女は赤面しました。彼女は酷く混乱し、取乱して、心情切なく思うのでした。

 実は話題に上った資産家の御曹司には、彼女も密かに恋心にも似た淡い思いを抱いていたのです。その事が目の前にいた友人にもばれてしまい、彼女の目には熱い物が込み上げて来ました。

 目の前で涙を流す親しい彼女の姿に、彼は何だか悪い事をしたような気がして来ました。聞かれたので有のまま、起こったままの事を彼女に話したのですが、それでは何だか彼女に悪い事をしたような結果になったと後悔しました。『もう少し考えて喋ればよかったかな。』と思いました。

 それにしても…。と彼は思いました。如何やら先程からの彼女の様子では、向こうの奴らの話していた「…ちゃん」は本当のあの子の事じゃ無いなと、ある事を推理をしました。そこで泣き出した彼女が落ち着いて来たら、その自分の考えた事が真実か如何か真相を確かめてみようと考えていました。