碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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毎日新聞で、「リバイバル女優」について解説

2018年12月10日 | メディアでのコメント・論評


特集ワイド
「リバイバル女優」花盛り 
今も昔も変わらぬ存在感

近ごろ、長期の“休業”を経て復帰した女優が目立つ。多くは1980年代後半から90年代前半のトレンディードラマで名をはせた主演女優である。似たようなタイミングで、なぜ「リバイバル(復活)」しているのだろう。【小松やしほ】

今年7~9月にTBS系で放送された連続ドラマ「この世界の片隅に」は、ちょっとした驚きだった。なぜなら仙道敦子(のぶこ)さん(49)が、実に23年ぶりのドラマ出演を果たしたからだ。

仙道さんは90年代に連続ドラマ「卒業」「クリスマス・イヴ」(いずれもTBS系)で主演として活躍。93年に俳優の緒形直人さんと結婚したのち、95年の単発ドラマ「テキ屋の信ちゃん5」(同)以来、芸能活動から遠ざかっていた。

仙道さんは雑誌「婦人公論」(8月28日号)のインタビューで、復帰の感想をこう述べている。

<ドラマの衣装合わせの時、スタッフから「お帰りなさい」と声を掛けられ、「ただいま」と返して。この世界に帰ってきたんだと、思わず胸がジンとしました>

仙道さんだけではない。現在放送中のドラマ「SUITS/スーツ」(フジテレビ系)では、鈴木保奈美さん(52)が「東京ラブストーリー」(同)以来27年ぶりの織田裕二さんとの共演で話題になっている。

鈴木さんは、98年に芸人の石橋貴明さんとの再婚を機に芸能界を一度引退。約10年ほどの休業を経て、2008年ごろから復帰。今年10~11月に放送された「主婦カツ!」(NHK)では主演を務めた。

同じく「黄昏(たそがれ)流星群」(フジテレビ系)に出演している中山美穂さん(48)も、02年に小説家の辻仁成さんと結婚して、フランス・パリに移住。日本での芸能界活動を一時期休止していた。

映画界でも、フランス人F1レーサーと結婚し、女優業を引退していた後藤久美子さん(44)が、来年12月に公開予定の「男はつらいよ50 おかえり、寅さん」(仮題、山田洋次監督)で、23年ぶりに復帰することがニュースとなった。

まさに「リバイバル女優」花盛りといった趣だ。子育てが一段落したり、離婚してシングルになったり、個々の事情は当然あるだろうが、軌を一にするかのように次々復活しているのには理由があるのだろうか。

「50歳前後になって、10年も20年も女優として出演していなかった人が復帰して、午後7時から10時のゴールデン・プライムタイムのドラマに出るなんて、20年、30年前だったら考えられないですよね」と驚くのは、コラムニストでアイドル評論家の中森明夫さんだ。「ここ最近、ドラマの作りが、若者ではなく50歳前後の大人向けになっています。当然、主役にも若い子ではなく、同年代の女優を起用する。それが、彼女たちが復帰しやすい土壌をつくっているのでしょう」

NHK放送文化研究所が16~69歳の男女を対象に今年行った調査によると、テレビを毎日のように利用する人は、20代男性では32%、同女性では48%なのに対し、50代の男性は64%、女性は70%、60代では男女とも70%以上となっている。スマートフォンの普及とともに、テレビの主要視聴者は若者から中高年層へと変わってきているのだ。

中森さんは「社会の自由度の変化も復帰を後押しした要素の一つ」と、得意分野のアイドルを例に解説してくれた。

「21歳で引退して、表舞台に全く出てこない山口百恵さんが象徴的ですが、30年ほど前は企業でも寿退社や腰掛け就職があったし、結婚して子どもを産んだ後、アイドルに復帰する人はいなかった。松田聖子さん以降は引退しないのが当たり前。ベビー用品のCMに出たり、子ども服をプロデュースしたりと仕事の幅も広がるし、人気も落ちない。鈴木さんは再婚だし、中山さんも離婚を経験しているが、今の世の中では珍しいことではなく、非難されることもない。ましてや彼女たちは、50歳前後の人たちにとって憧れの存在だった。復帰するための時代の下地は整っていたのです」

 ◇同年代の視聴者、人生重ね共感

コラムニストの山田美保子さんも同じような見方だ。

「ゴールデン・プライム帯のドラマを見ているのは、元祖トレンディードラマのファンです。すなわち、それは“リバイバル女優”さんたちと同年代の女性たち。リアルタイムでテレビを見ない人が多い中、アラフォー、アラフィフ、アラ還の人たちはリアルタイムでドラマを見てくれる、テレビ局にとっては大事なお客様なんです。その人たちにとって、見ていてしっくりくる女優さんとなると、彼女たちなのかなという感じがします」

共感しやすいというのもポイントだ。「相手は女優ではあるけれど、自分と同じように年齢を重ねてきて、プライベートもある程度、報道などで知っているので、結婚して子育てが落ち着いてとか、夫を支えたり離婚したり苦労したのねとか、シンパシーを感じやすい。『いい女優になったわね』って、成長を楽しむみたいなところもあると思います」

今の若手人気主演女優といえば、綾瀬はるかさん、新垣結衣さん、石原さとみさん、戸田恵梨香さんらの顔が浮かぶが、山田さんは「演技も上手だし、視聴率も取れるが、ヘビーローテーション過ぎて『またこの人』感は否めない。次回はこんな役ですと言ったところで、同じように見えてしまう。その点、リバイバルの人たちは、長年出ていなかったわけだから、ベテランながらある意味、新鮮。仙道さんなんて、よくぞ出てきてくださいましたって感じですよ」と話す。

元テレビプロデューサーの碓井広義・上智大教授は「往年の主演女優をありがたがっているのは視聴者より作り手側」だと指摘する。

「彼女たちは主演女優として一時代を築いた。当時、キャスティングしていた人たちは偉くなっているか、リタイアしていて、遠巻きに見上げていたAD(アシスタントディレクター)やAP(アシスタントプロデューサー)が今、女優を起用する側にいる。彼らにとって彼女たちは今もすてきな存在なんです。他の女優でも構わない役であっても、彼女たちを据えることで物語に厚みが出る。やはり主役を張った人たちですから、画面に出てきた時の存在感が違うんです。ドラマにとってのカンフル剤とまではいかなくても、トッピングとして非常にいいものになっている」

一方で、碓井さんは「昔のイメージを壊すようなオファー(依頼)には乗らなければいいのだから、“リバイバル女優”側にとっても悪い話ではない」とも話す。

ドラマの大事な支持層である中高年視聴者、作り手、起用される女優――。三方にメリットがあるというわけだ。

「鈴木さんたちの成功が、我々が忘れていた人がひょっこり出てくる呼び水になるんじゃないですか。今、必死で探していると思いますよ。あの人は今?っていうのを」と碓井さん。


これからも、テレビに返り咲く女優は増えるかもしれない。

(毎日新聞 2018.12.05 東京夕刊)