碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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フジテレビ「月9ドラマ」対談 Part1

2024年10月11日 | メディアでのコメント・論評

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フジテレビ「月9ドラマ」対談 

Part1

 

――「月9」とは、フジテレビの月曜夜9時に放送される同局の看板ドラマ枠で、1987年から続く、日本のテレビ文化を象徴する存在です。この枠から、時代を代表する数々の名作が生まれ、特に平成以降は若者文化や恋愛模様を描いた作品が多くの視聴者に支持されてきました。

今回、「最強の月9」を決めるべく、元上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏とライターの田幸和歌子氏にお声がけさせていただきました。

碓井広義 とても壮大なテーマですね。月9といえば「トレンディドラマ」というイメージが強いかもしれません。初期の『君の瞳をタイホする』(1988年)『同・級・生』(89年)など、バブル経済期のほとんどのドラマが「美男美女」「カタカナ職業」「最新ファッション」という3つの要素で成り立っていました。「恋愛がすべて!」みたいな感じで、キラキラした都会の人間関係が描かれていました。

しかし、90年代に入ると社会の空気も変わってきて、トレンディドラマは「純愛」という方向にシフトしていった。バブル崩壊とともに、それまでの「華やかな恋愛」から一転、本気で相手を好きになる恋愛が描かれました。その代表的な作品が、『東京ラブストーリー』(91年)『101回目のプロポーズ』(91年)です。

「僕は死にましぇ〜ん!」

田幸和歌子 『東京ラブストーリー』は、キャッチコピーの「東京では誰もがラブストーリーの主人公になる」の通り、若者の等身大の恋愛が描かれました。織田裕二(56)が演じた永尾完治は、地方から上京したばかりの素朴な青年で、これまでのトレンディドラマの主人公とは全然違った。彼が恋する相手は、鈴木保奈美(58)が演じた同僚の赤名リカ。

彼女の名セリフ「カンチ、セックスしよう」ばかりが一人歩きしてしまいますが、あれはリカの真っ直ぐな愛情表現が描かれた重要な場面でした。カンチは発言も行動も大胆なリカに翻弄されながらも惹かれていき、二人は熱烈に愛し合ったものの……最終的にすれ違いで結ばれなかった。当時の月9にしては珍しくハッピーエンドにならなかったけど、だからこそ、いつまでも二人の姿が心に残り続けているのだと思います。

碓井 私は『101回目のプロポーズ』が大好きですね。本作には新しいタイプの男性主人公が登場しています。武田鉄矢(75)が演じた達郎は冴えない中年男。恋人を失うことへの恐怖を抱えていたヒロイン(浅野温子・63)に対して、達郎は車の前に飛び出して「僕は死にましぇん!」と叫ぶ。僕は命懸けであなたのことを愛するんだ。僕は決してあなたの前から消えてなくならない。キラキラとした恋愛ではないけど、本気で思いをぶつける。達郎は、人々の結婚や恋愛に対する価値観の変化を表していました。

――究極の純愛ですね。月9はその時代の空気を反映しているから面白い。

碓井 その通りです。95年の阪神大震災と地下鉄サリン事件が起こった翌年に放送された『ロングバケーション』(96年)も特徴的です。木村拓哉(51)が演じたピアニスト見習いの瀬名と、山口智子(59)が演じた売れないモデル・南が恋に落ちるけど、恋愛は主軸ではない。登場人物たちが将来が見えない苛立ちや、内面に抱えている葛藤が描かれています。

1人だと立ち止まってしまうかもしれないけど、2人ならなんとか前に進めるーー。彼らが互いに支え合いながら成長していく姿が魅力的でした。何より二人のキャラクターが生き生きとしていて、その掛け合いがとても見応えがありました。

キムタクが「俺じゃダメか」

――キムタクはこれまで、11本の月9で主演を務めています。主演作は常に視聴者からも圧倒的な支持を受け、高視聴率をマークしました。象徴的な存在ですね。

田幸 キムタクが月9スターとして一気に注目を浴びたのは実は主演作ではなく、2番手として出演した『あすなろ白書』(93年)です。ヒロイン(石田ひかり・52)に一途な思いを寄せ続ける役柄で、「俺じゃダメか」と彼女を後ろから抱きしめるシーンは「あすなろ抱き」と呼ばれ大きな話題となりました。キムタクのブレイクのきっかけとなった名シーンです。

最近、恋愛ドラマの代表枠となっているTBS火曜ドラマでは、『Eye Love You』(2024年)の中川大志(26)や、『西園寺さんは家事をしない』(24年)の津田健太郎(53)など、2番手の男性が注目される傾向が見られますが、その原点となったのは『あすなろ』のキムタクだと思います。

碓井 恋愛ドラマもいいですが、僕が月9でナンバーワンだと思う作品は『HERO』(10年、14年)です。キムタクが演じた検察官・久利生公平を中心に描かれる法廷ドラマですが、この久利生がとにかくクセモノ。高卒で検事になり、スーツを着ずにいつもダウンジャケット姿。そして、通販マニアで、職場で頻繁に商品をチェックしたり受け取ったりしている。

そんな彼が、型破りながらも次々と事件を解決していく姿は、まさにニュータイプのヒーローでした。このドラマは「職業コメディ」という新ジャンルを確立し、月9の幅を広げた作品です。また、変人キャラである主人公が物語を動かしていくという「キャラクタードラマ」としても最初の成功例だと思います。

田幸 キムタクの影響でダウンジャケットや通販が流行りましたね(笑)。変人の主人公で最も魅力的だったのは『のだめカンタービレ』(06年)で、上野樹里(38)が演じたのだめと、玉木宏(44)が演じた千秋だと思います。のだめは掃除や片付けが苦手で、部屋はゴミ屋敷状態。自由奔放な性格で、規則や常識にとらわれない。

その一方でクラシック音楽に対しては天才的な感覚を持っています。のだめが一目惚れした千秋は完璧主義の王子様キャラに見えますが、実は飛行機恐怖症だったり、のだめに振り回されたりと人間味がある。二人の関係性がユーモアたっぷりに描かれていて何度でも観たくなります。

ただ、私が一番このドラマが素晴らしいと思っている点は、キャラクターや音楽の魅力を最大限に引き出すために、映像や演出にこだわっていること。猫背になり楽譜を気ままにアレンジしてピアノを弾くシーンには、のだめ独特の世界観が表現されており、誰もがその才能に圧倒されました。

(FRIDAY 2024.10.11号)

 

・・・Part2に続く。

 


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