碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【気まぐれ写真館】 戦後74年8月6日 合掌

2019年08月06日 | 気まぐれ写真館


素で生きるという冒険「凪のお暇」

2019年08月06日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 「凪のお暇」

素で生きるという冒険

 

今期のドラマで目立つのは、漫画を原作とする作品が多いことだ。上野樹里主演「監察医 朝顔」(フジテレビ系)、石原さとみ主演「Heaven?」(TBS系)、杏主演「偽装不倫」(日本テレビ系)、そして黒木華主演「凪のお暇(なぎのおいとま)」(TBS系)などである。

ヒロインたちは30歳前後、いわゆるアラサー女子であることも共通している。上野が演じているのはもちろん医師だ。石原はレストラン経営者。杏は派遣社員。それぞれ仕事を持っている。しかし、「凪のお暇」の主人公、大島凪(黒木)だけは違う。28歳の無職なのだ。

凪が会社を辞めたのには理由がある。一つは周囲に自分を合わせる、つり「空気を読む」ことに疲れたのだ。同僚から仕事上のミスの責任を押し付けられても文句が言えない。またランチでも、その場にいるメンバーの顔色をうかがいながら話のネタを探す。そんな毎日に疲れ切っていた。

さらに恋人だと思っていた、同じ会社の営業マン・我聞慎二(高橋一生)が、凪のことを後輩たちに笑いながら話すのを立ち聞きしてしまった。「アッチ(セックス)がイイから会ってるだけ」「節約系女子? 俺そういうケチくさい女、生理的に無理」って、これはひどいではないか。結局、凪は会社を辞め、我聞とも連絡を絶つ。会社からも恋人からも、「お暇」を頂戴したわけだ。

物語は、ここから本格的に始まる。郊外のオンボロアパートの6畳1間に引っ越した凪。仕事なし、家財道具なし、恋人なし。貯金もないが、自由と時間だけはある。

それに、環境が変われば新たな出会いもある。隣の部屋に住むゴン(中村倫也)は正体不明の感はあるものの、我聞のように凪の内面に土足で侵入したりしない。話していると、ふわっと心が軽くなるようだ。見ている側は、今も凪に執着してアパートに押しかけたりる、我聞との奇妙な三角関係の行方が気になる。

このドラマ、大きな事件などは起きない。文字通り、凪のような無風の日常が続いていく。とはいえ元々生きること自体が冒険なのだ。黒木、高橋、中村という芸達者たちの演技を楽しむと共に、素のままの自分で生きようとする「28歳、無職」の冒険から目が離せない。

(しんぶん赤旗「波動」2019.08.05)