漫画原作ドラマ 女優たちの戦い
夏ドラマもヒートアップしてきた。今期で目立つのが、原作が漫画で女性が主人公のドラマだ。つまり女優たちの戦いである。
まず、上野樹里が久しぶりの主演を務める「監察医 朝顔」(フジテレビ―UHB)。万木朝顔(まき・あさがお、上野)は興雲大学の法医学者だ。そして彼女の父親(時任三郎)は大学と同じエリアにある所轄署の刑事。仕事上、現場で会うこともある2人は、自宅で同居生活を送っている。刑事として事件の真相を探る父。解剖医として死因を究明する娘。そんな基本設定は原作漫画と同じだが、大事な部分で大胆かつ繊細な脚色をしているのが特徴だ。
たとえば原作での朝顔は解剖を始める際、遺体のかたわらに立ち、「教えてください、お願いします」と声をかける。ドラマでは、わざわざ遺体の耳元に顔を寄せ、同じ言葉をささやくように伝えるのだ。謙虚なその“振る舞い”が彼女の人物像を象徴している。
また朝顔の母親(石田ひかり)の死も原作とは異なる。漫画では旅行先の神戸で阪神淡路大震災に巻き込まれたことになっていた。ドラマでは2001年3月11日に三陸の実家を訪れて、東日本大震災に遭遇してしまう。しかも遺体はまだ見つかっておらず、父親は今も探し続けている。
原作のアレンジを超え、原作をベースにした“オリジナル”とも言える脚本(「相棒」シリーズなどの根本ノンジ)のおかげで、このドラマは奥行と厚みのある法医学ドラマとなっているのだ。
もう1本、杏主演「偽装不倫」(日本テレビ―STV)も漫画を原作にしている。独身なのに人妻のフリをするアラサー女子の恋愛物語だ。派遣で働く鐘子(杏)は、契約切れをきっかけに福岡への一人旅に出る。機内で
カメラマンの伴野丈(宮沢氷魚)と出会うが、たまたま姉(仲間由紀恵)の結婚指輪を持っていたため、「人妻」だと勘違いされてしまう。婚活で成果が得られなかったことや、伴野が人妻に執着していることなどから、鐘子は誤解を放置する。偽装不倫の始まりだ。あり得ない設定かもしれないが、そこはドラマ。大人のラブコメとして楽しめばいい。
ただし偽装不倫の相手が、原作では日本語のできる韓国人カメラマンだったのに対し、ドラマでは外国暮らしが長かった日本人カメラマンに変更されたのはなぜだろう。昨今の日韓関係に配慮、いや面倒を避けようとしたのかもしれないが、原作では物語を駆動する大事な要素だっただけに残念だ。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」 2019年08月03日)