碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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細部見逃せない 集中力必須の「テセウスの船」

2020年01月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

竹内涼真「テセウスの船」

細部見逃せない集中力必須の1本

 

日曜劇場のタイムスリップ物といえば、大沢たかお主演「JIN―仁―」を思い出す。現代の脳外科医が江戸時代にワープする話だった。

今回の「テセウスの船」、主人公は「殺人犯の息子」として生きてきた田村心(竹内涼真)だ。警察官だった父親、佐野文吾(鈴木亮平)が毒物による無差別殺人を行ったという、31年前にタイムスリップしてしまう。場所は事件が起きた北海道の寒村だ。

心にとっての課題は2つある。まず、文吾は本当に殺人犯なのか。そうでないなら真犯人は誰なのか。次に、文吾が犯人であれば犯行を阻止したい。そうすれば、自分や家族に押された「負の烙印」も消えるからだ。

このドラマ、主演の竹内は健闘しているが、父親役の鈴木の迫力が凄まじい。いい意味で主客転倒しているのが特色だ。子煩悩で職務熱心な「善人」なのか。それとも狂気を秘めた「悪人」なのか。ふっと変わる鈴木の表情から目が離せない。

またサスペンスとしての緊張感も、よく保たれている。次々と起こる不審な出来事の真相は明かされず、見る側も心と同様、不安と疑心暗鬼を抱えたままの状態だ。しかも無差別殺人の日は確実に近づいている。

タイムスリップ物は、未来を知る者と知らない者とのギャップが物語を動かしていく。どんな細部も見落とせない、集中力必須の一本だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.01.29)