週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
一流の語り芸で「芸人の作法」を説く1冊
ビートたけし『芸人と影』
小学館新書 880円
昨年の芸能界で最も大きな出来事だったのが、いわゆる「闇営業」問題だ。芸人と反社会的勢力との関係性が問われたが、いつの間にか吉本興業の旧態依然たる企業体質へと論点が移っていってしまった。
ビートたけし『芸人と影』は、この問題も含め、芸能界と芸人の「深層」を語った一冊だ。そのスタンスは明快で、元々芸能界はカタギの社会で生きられない人間たちの集まりであると言い切り、「世間一般の道徳を芸人に押しつけるから話がおかしくなる」。
また、この国の芸能界は歴史的にヤクザと共にあったわけで、「その責任を、ここ数年で出てきたような若手芸人におっかぶせること自体に無理がある」。確かに世間の過剰反応も度を越していたが、それを煽ることで利益を上げていたのがマスコミだった。
一方、著者は芸人に対しても釘を刺す。お笑いに唯一求められているのは「客を笑わせること」であり、「そのためには何をするべきか、すべきではないか」を考えて行動する。それが「芸人の作法」につながると言うのだ。自分が芸人という名のヤクザ者であり半端者であるからこその作法。そんな意識が渦中の芸人たちにあったら、事態は変わっていたかもしれない。
著者は「所詮はたかがお笑いの男の戯れ言だから」と韜晦するが、そんなことはない。業界における位置を考えると、本書での発言は貴重だ。主観と客観のバランスが絶妙で、何より一流の語り芸になっている。
(週刊新潮 2020年1月23日号)