週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
知の巨人が築き上げた巨大な文化の体系
立花 隆『知の旅は終わらない』
文春新書 1045円
今年の5月に80歳となる立花隆。その新著『知の旅は終わらない』は語り下ろしの自叙伝だ。副題の「僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと」が示すように、立花隆はいかにして立花隆になったのかが明かされる。
本書の読み所は、優れたノンフィクション作品が生まれた背景と内幕だ。たとえば74年の「田中角栄研究―その金脈と人脈」では、現在の1000万円に相当する費用が投じられる。力のある書き手で取材班を編成し、入手可能な活字資料は全部集めた。
記事は大反響を呼んだが、国内の活字メディアは「前から知っていた」と冷ややかで、取材に来たのは毎日新聞と週刊新潮だけだったという。
76年に連載開始の「日本共産党の研究」は当然のように共産党から猛反発を受ける。リンチ共産党事件や戦前のコミンテルンとの関係など、党として触れられたくない部分が多かったからだ。しかも取材班の中に共産党が送り込んだスパイがいたという事実に驚く。
その後、旺盛な取材・執筆活動は科学分野へと幅を広げていった。『宇宙からの帰還』『サル学の現在』『脳死』などだ。いずれもそれまで誰も手掛けなかったジャンルであり、おかげで読者は「巨大な文化の体系」としての最先端科学に触れることが出来た。
現在、著者は複数の病気を抱えながら執筆を続けている。まさに「終わりなき知の旅」であり、その姿勢もまた、後に続く無数の旅人たちを強く励ます。
(週刊新潮 2020.02.20号)