60年に雄鶏社を退社した向田は、筆一本で生きていく道を選ぶ。そんな彼女にまず活躍の場を提供したのがTBSだった。
メディア文化評論家・碓井広義氏は言う。
「従来のホームドラマが母親中心だったのに対し、『寺内貫太郎一家』は父親を軸に家族を描いた。それは画期的な事でした。向田作品の魅力は、欠点だらけの男たちにあります。橋田寿賀子ドラマなら『ああいう男ってよくいるよなぁ』と他人事で済ませられるのに、向田さんが描く人物像には、いつもぎくりとさせられた。認めたくはないが、自分の中にもどこか思い当たる節があり、それが男性に向田ファンが多い理由でもあるのでしょう」
78年、向田は、妹と共に小料理店「ままや」を赤坂に出店する。そこは向田が男の世界で切り結ぶための礎(いしずえ)だったのだろう。
(週刊現代 2021.05.22・29号)