<週刊テレビ評>
16年ぶりの「ドラゴン桜」
原作と「別物」、期待と戸惑い
日曜劇場「ドラゴン桜」(TBS系、日曜午後9時)が始まった。「半沢直樹」の7年を超える、16年ぶりの続編だ。しかも主人公は同じだが、雰囲気は「別物」と言っていいほど異なっている。それは一体なぜなのか。
前作の舞台は経営難の龍山高校だ。弁護士の桜木建二(阿部寛)は債権者代理として乗り込み、再建案を提示する。それが東大合格者を出して入学希望者を増やすというものだった。原作は三田紀房の同名漫画。その後「ドラゴン桜2」も描かれたので、今回もそれがベースになると思っていた。
しかし、始まってみると原作を大幅に変えている。まず現場は原作の龍山高校ではなく、私立龍海学園だ。理事長の龍野久美子(江口のりこ)は、学力よりも「自由な校風」を重視することで超低偏差値校にしてしまった。彼女の父親で前理事長の恭二郎(木場勝己)はそれをよしとせず、桜木に賭けたいと考えている。
思えば、前作には経営を巡る対立やドロドロした人間関係などほとんど登場しなかった。一方、新作は主導権をめぐって火花を散らす理事会といい、アップを多用した構図や怒鳴り合いといい、まるで「半沢直樹」を見るようだ。なぜここまで変えてきたのか。
最大の要因は、前作が金曜午後10時の「金曜ドラマ」枠だったのに対し、今回は「日曜劇場」枠での放送だからだ。枠を移すと同時に脚本家も制作陣も丸ごと入れ替わった。中心に据えられたのは「半沢」の福沢克雄ディレクターだ。
あくまでも生徒と教師の関係が軸であり、ユーモアも漂わせて牧歌的だった金曜ドラマ時代。そこに企業経営や権力争いなど、「半沢」的要素を導入したのが新作である。同時に重さや暗さも加わった。いかにも日曜劇場らしいが、「ドラゴン桜」らしくない。
また強い違和感を持ったのが、桜木が2人の不良生徒を追いかけるシーンだ。バイクで逃走する彼らを自分もバイクで追跡する。公道だけでなく校舎の中にまで乗り入れる爆走を、何と4分半もの長さで見せたのだ。確かに桜木は元暴走族の設定だが、こんな「アクション」は必要だったのか。「半沢」の剣道とは意味が違う。
もしかしたら、制作陣が試みようとしているのは「ドラゴン桜」の続編ではなく、桜木建二という「キャラクター」を使った新たな物語の構築ではないか。「シン・ゴジラ」ならぬ「シン・ドラゴン桜」だ。その挑戦には期待するが、これを「シン・半沢直樹」にはしてほしくない。かつての「ドラゴン桜」と桜木を応援してきた、たくさんの人たちのためにも。
(毎日新聞 2021.05.01夕刊)