碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

16年ぶりの「ドラゴン桜」 原作と「別物」、期待と戸惑い

2021年05月02日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

16年ぶりの「ドラゴン桜」 

原作と「別物」、期待と戸惑い

 

日曜劇場「ドラゴン桜」(TBS系、日曜午後9時)が始まった。「半沢直樹」の7年を超える、16年ぶりの続編だ。しかも主人公は同じだが、雰囲気は「別物」と言っていいほど異なっている。それは一体なぜなのか。

前作の舞台は経営難の龍山高校だ。弁護士の桜木建二(阿部寛)は債権者代理として乗り込み、再建案を提示する。それが東大合格者を出して入学希望者を増やすというものだった。原作は三田紀房の同名漫画。その後「ドラゴン桜2」も描かれたので、今回もそれがベースになると思っていた。

しかし、始まってみると原作を大幅に変えている。まず現場は原作の龍山高校ではなく、私立龍海学園だ。理事長の龍野久美子(江口のりこ)は、学力よりも「自由な校風」を重視することで超低偏差値校にしてしまった。彼女の父親で前理事長の恭二郎(木場勝己)はそれをよしとせず、桜木に賭けたいと考えている。

思えば、前作には経営を巡る対立やドロドロした人間関係などほとんど登場しなかった。一方、新作は主導権をめぐって火花を散らす理事会といい、アップを多用した構図や怒鳴り合いといい、まるで「半沢直樹」を見るようだ。なぜここまで変えてきたのか。

最大の要因は、前作が金曜午後10時の「金曜ドラマ」枠だったのに対し、今回は「日曜劇場」枠での放送だからだ。枠を移すと同時に脚本家も制作陣も丸ごと入れ替わった。中心に据えられたのは「半沢」の福沢克雄ディレクターだ。

あくまでも生徒と教師の関係が軸であり、ユーモアも漂わせて牧歌的だった金曜ドラマ時代。そこに企業経営や権力争いなど、「半沢」的要素を導入したのが新作である。同時に重さや暗さも加わった。いかにも日曜劇場らしいが、「ドラゴン桜」らしくない。

また強い違和感を持ったのが、桜木が2人の不良生徒を追いかけるシーンだ。バイクで逃走する彼らを自分もバイクで追跡する。公道だけでなく校舎の中にまで乗り入れる爆走を、何と4分半もの長さで見せたのだ。確かに桜木は元暴走族の設定だが、こんな「アクション」は必要だったのか。「半沢」の剣道とは意味が違う。

もしかしたら、制作陣が試みようとしているのは「ドラゴン桜」の続編ではなく、桜木建二という「キャラクター」を使った新たな物語の構築ではないか。「シン・ゴジラ」ならぬ「シン・ドラゴン桜」だ。その挑戦には期待するが、これを「シン・半沢直樹」にはしてほしくない。かつての「ドラゴン桜」と桜木を応援してきた、たくさんの人たちのためにも。

(毎日新聞 2021.05.01夕刊)


今夜、山本伍朗先生のドキュメンタリーが・・・

2021年05月02日 | テレビ・ラジオ・メディア

 

 

今夜、

松本深志高校時代に

教えを受けた、

山本伍朗先生のドキュメンタリーが

全国放送されるそうです。

 

「ホームルーム~伍朗ちゃんがいる教室~」

長野県の松本深志高校を1976年に卒業した3年8組だけは、

卒業から40年以上たっても、年に1度母校に集うホームルームを開く。

教壇には、伍朗ちゃんと呼ばれるかつての担任、

小さな机につくのは社長や官僚、教師などになった大人たち。

毎回、伍朗ちゃんから哲学の話を聞き、人生を語り合う。

いくつになっても戻りたい、まさに“ホーム”な空間だ。

この教室から、戦後日本に導入されたホームルームの本質が見えてくる。

(番組サイトより)

 

5月2日(日)

24時55分からの30分です。

 

長野県内では昨年、

放送されたと思いますが、

今夜は

「NNNドキュメント21」の枠なので、

制作したテレビ信州はもちろん、

全国で視聴できます。

 

ちなみに

この作品は、

先日発表された

第58回「ギャラクシー賞」の

奨励賞を受賞しました。

 


春の「情報番組」改編  温故知新で可能性探れ

2021年05月02日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

碓井広義の放送時評>

春の「情報番組」改編 

温故知新で可能性探れ

 

この春、朝の情報番組が様変わりした。立川志らく司会の「グッとラック!」(TBS-HBC)が、お笑いコンビ「麒麟(きりん)」の川島明で「ラヴィット!」に。時事ネタがなくなり、コンビニスイーツや生鮮食品といった、チラシ広告的な情報が中心となった。スタジオはお笑いタレントでにぎやかだが、朝から見るべき内容かどうかは疑問だ。

一方、小倉智昭が長年司会を務めた「とくダネ!」(フジテレビ-UHB)は、俳優の谷原章介を起用した「めざまし8」に変わった。こちらは基本路線を継承しており、政治や経済からエンタメ情報までが並ぶ。谷原の司会は危なげないし、視聴者の高齢化対策という意味では成功と言っていい。

今や、「情報番組」全体が、衣食住に遊びを加えた情報を軸とする番組と思われているようだ。しかし元々は、もっと幅広い対象にさまざまな角度から迫れるジャンルだった。それは先日出版された、太田英昭著「フジテレビプロデューサー血風録 楽しいだけでもテレビじゃない」を読むとよく分かる。

千歳市出身の太田はフジテレビのプロデューサーを経て情報制作局長となり、フジ・メディア・ホールディングス社長や産経新聞会長を歴任した人物だ。フジテレビが「楽しくなければテレビじゃない」を標榜(ひょうぼう)していた1980年代後半、情報番組の新機軸として逸見政孝を司会に「なんてったって好奇心」を立ち上げる。その後もニュースを深掘りする「ニュースバスターズ」、現在も続くドキュメンタリー枠「ザ・ノンフィクション」などを手掛けた。

中でも「好奇心」は太田というリーダーと同じく、異様な熱気の情報番組だった。ドキュメンタリーを自任するほど肩に力が入っておらず、親しみやすさの中に知りたいことへの執念を秘めていた。ドキュメンタリーと情報番組の境目を行くのが特色で、「全部見せます!プロ野球中継の裏側」といった企画から、「世界初公開!これがソ連監獄・酷寒の女囚達はいま」などの潜入物まで、硬軟両方の素材に挑んでいった。そして何かトラブルが起きれば、プロデューサーの太田自身が修羅場に乗り込んだ。

とはいえ今、「好奇心」をそのまま復活させるのは困難だ。予算や人員などできない理由も挙がるだろう。しかしそれ以前に、作り手側の「知りたい」「伝えたい」という意欲こそが重要だ。それがあるなら、先が見通しづらい社会にアプローチする「手法」として、情報番組はもっと生かされていい。

(北海道新聞  2021.05.01)


【気まぐれ写真館】 紅(くれない)のひこうき雲

2021年05月02日 | 気まぐれ写真館