碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本:木俣 冬 『みんなの朝ドラ』ほか

2017年07月21日 | 書評した本たち


「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

木俣 冬 『みんなの朝ドラ』
講談社現代新書 907円

NHK連続テレビ小説、通称「朝ドラ」の傑作『あまちゃん』が放送されたのは2013年度前期だ。平均視聴率は20・6%。放送当時、それまでの10年間では堀北真希主演『梅ちゃん先生』の20・7%に次ぐ高い数字となった。

しかも反響はそれだけではない。新聞や雑誌で何度も特集が組まれ、ネットでも連日話題となった。関連CDがヒットし、DVDの予約は通常の10倍。また、『あまちゃん』の放送終了後、寂しさで落ち込む人が続出すると言われ、「あまロス症候群」なる言葉まで生まれた。

では、なぜ『あまちゃん』は一種の社会現象ともいえる広がりをみせたのか。木俣冬『みんなの朝ドラ』によれば、それは「総合力」の成果だ。宮藤官九郎によるポップな脚本。ヒロインの能年玲奈を囲むように配された、小泉今日子や薬師丸ひろ子など80年代アイドルの起用。さらに「影武者」という異色の設定にも丁寧な分析が為される。

本書では、ほかに『ごちそうさん』『花子とアン』『あさが来た』『とと姉ちゃん』などが語られるが、圧巻は著者が「朝ドラを超えた朝ドラ」と絶賛する『カーネーション』だろう。何より「健全な朝ドラの世界に背徳感をもたらした」こと。またヒロインの夢物語ではなく、「現実」を描いた点も評価している。

朝ドラが女性だけのものから、まさに「みんなの朝ドラ」となっていくプロセスを明かしながら、その魅力を解読したのが本書だ。


勢古浩爾 『ひとりぼっちの辞典』
清流出版 1620円

ビアス「悪魔の辞典」ならぬ、警句に満ちた「老後の辞典」。いや、辞典形式の老後エッセイだ。たとえば【公園】の項には、「話し相手ができそうになったら、別の場所を探す」とある。“ひとり者のプロ”が到達した心境と美学と密かな快楽が綴られていく。


小路幸也 『風とにわか雨と花』
キノブックス 1620円

ある一家の物語だ。両親と12歳の娘と9歳の息子という一見普通の家族だった。ところが父が突然、家を出て専業作家になると宣言する。離婚を機に母は仕事に復帰。家庭崩壊、一家離散かと思いきや、4人それぞれの視点から親子や夫婦の新たな関係が見えてくる。


クリスティン・ヤノ:著、久美薫:訳
『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか?』

作品社 3888円

著者は「大衆文化における民族文化」を探る、日系人のハワイ大学教授だ。かつて「スヌーピーは犬だが、キティちゃんは猫ではない」ことを公表して、世界に衝撃を与えた。本書はキティ研究の集大成。「ジャパニーズ・キュート=クール」の謎が解明される。

(週刊新潮 2017年7月13日号)

【気まぐれ写真館】 本日も猛暑 2017.07.20

2017年07月21日 | 気まぐれ写真館

錦戸亮&松岡茉優「ウチの夫は仕事ができない」の挑戦

2017年07月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、ドラマ「ウチの夫は仕事ができない」について書きました。


日本テレビ系「ウチの夫は仕事ができない」
プチ「ラ・ラ・ランド」仕様に
拒否反応を示す視聴者もいるだろうが

日本テレビの土曜夜10時は、かつて「土曜グランド劇場」と呼ばれていた伝統のドラマ枠だ。水谷豊主演「熱中時代」シリーズや西田敏行の「池中玄太80キロ」といったヒット作も多い。「ウチの夫は仕事ができない」は、往年の土曜グランドを思わせる“お仕事ホームドラマ”だ。

人物像や設定に特色があり、結構笑わせて、ちょっと泣かせてくれる。イベント会社勤務の夫・小林司(錦戸亮)、妊娠中の妻・沙也加(松岡茉優)。司は真面目で人柄もいいのだが、バリバリ仕事! というタイプではない。むしろ上司や同僚から「お荷物」扱いされる崖っぷち社員だ。

そんな司のことを「仕事もできる理想の夫」だと思っていた沙也加は、夫の会社での評価を最近知ったばかり。何とか夫の役に立とうと、仕事のハウツーを即席で学び、アドバイスしていく。

錦戸が演じる司は、いわば“無垢なる魂”の持ち主だ。手柄を後輩に横取りされても黙ってほほ笑んでいる。そんな男が妻子を抱え、厳しい競争社会をどう生き抜いていくのか。そこが見どころとなる。

第2のポイントは驚きのミュージカル場面だ。「♪ない、未来がない」などと歌って踊るシーンが挿入される、プチ「ラ・ラ・ランド」仕様に拒否反応を示す視聴者もいるだろう。しかし、ここは制作側のチャレンジ精神を支持したい。

(日刊ゲンダイ 2017.07.19)

「メディアと文化(表象文化論)」春学期終了!

2017年07月20日 | 大学








「文化交渉学特講」春学期終了!

2017年07月19日 | 大学
実相寺昭雄研究会のメンバーも参加してくださいました



最終回のゲスト講師は撮影監督の中堀正夫さん




「視聴覚教育」春学期終了!

2017年07月19日 | 大学

「テレビ制作Ⅰ」春学期終了!

2017年07月19日 | 大学

脚本家・野島伸司が手掛ける「新作ドラマ」とくれば、見逃せない!?

2017年07月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



脚本家・野島伸司が手掛ける「新作ドラマ」

「パパ活」という言葉、ご存知でしょうか。恥ずかしながら、私は最近まで知りませんでした。パパ活とは、「デートをするだけで金銭的援助をしてくれる男性との交際」で、「カラダの関係なし」なのだそうです。

とはいえ、「そんなオイシイ話、あるわけないだろう」というのが普通の反応かもしれません。それに、どことなく「女子中高生売春」を「援助交際」と言い換えるのと同じようなネガティブイメージがあります。

ですから、この言葉を、そのままタイトルにしたドラマ『パパ活』(dTV)が始まったと聞いても、当初は興味がわきませんでした。

しかし、これが脚本家・野島伸司さんの“新作”だということになれば、話は違ってきます。『パパ活』を見ようと、dTVにアクセスしました。現在、全8話のうち第4話までが公開・配信されています。


それは「パパ活」から始まった

主人公は成泉学院大学(渋谷にあるという設定です)に通う、20歳の女子大生・赤間杏里(飯豊まりえさん)。

父親は離婚して家を出ており、今度は母親に若い恋人ができたために家を追い出されます。女友達の部屋には泊めてもらえず、彼氏との関係もこじれて、ちょっとしたホームレス状態に。ネットカフェで寝泊まりしては授業に出ています。

ある日、友人が教えてくれた効率のいいバイトが「パパ活」でした。その友人が勝手に登録したパパ活サイトを通じて出会ったのが、45歳の大学教授・栗山航(渡部篤郎さん)です。自身が所有する隠れ家的な部屋に泊めてくれた栗山ですが、なんと杏里が所属する仏文科の先生でした。

そういえば仏文学者である栗山が、ドラマの中でフランス語の原書を読んでいます。表紙を見ると、作者名が「Laclos」で、書名は「Les Liaisons dangereuses」。これって、18世紀後半にフランスの作家コデルロス・ド・ラクロが書いた小説で、邦題は『危険な関係』です。

杏里は、栗山の部屋で暮すようになります。もちろん同居ではありません。部屋貸しというか、居場所を提供することが“支援”だという、「パパ」と「ムスメ」の危うい関係がスタートします。

栗山には妻・菜摘(霧島れいかさん)がいますが、2人の間には、10年前に10歳で事故死した娘をめぐって精神的な葛藤があります。また菜摘は夫を愛していながらも、栗山と共通の友人であり、彼女が勤める会社の社長でもある入江(橋本さとしさん)と肉体関係があります。

入江は、栗山と菜摘の両方を支える存在であり、そのことを栗山も菜摘もよくわかっているのです。このオトナたちの微妙なトライアングルは、さすが野島伸司さん!と言えるでしょう。

亡くなった娘が生きていたら同じ年齢で、同じ誕生日である杏里に、娘を投影している栗山。そのことを知った上で、少しずつ栗山に魅かれていく杏里。

パパ活をきっかけにした出会いは、2人が思ってもいなかった“歳の差恋愛”という方向へと、ゆっくり動き始めています。そう、このドラマは、パパ活というやや軽佻浮薄なタイトルとは裏腹に、結構ガチな恋愛ドラマなのです。


「飯豊まりえ」という逸材

そして、まず特筆すべきは、飯豊まりえさんの好演です。

現在、地上波の『マジで航海してます。』(毎日放送制作、TBS系)では、船を操縦する「航海士」を目指す女子学生をコミカルに演じている飯豊さんですが、『パパ活』の杏里のほうがより素に近いというか、自然体で演じているように感じます。

飯豊さんの魅力、それはフツーっぽさ(笑)。そして、(ご本人やファンには叱られそうですが)一種の「野暮ったさ」であり、(いい意味で)東京というより関東圏出身が似合う「素朴さ」です。「渋谷にあるおしゃれな大学の女子学生」というイメージに合わせて、自分が何者かを演じているような空虚感も知っている杏里が、ふとした瞬間、飯豊さんと重なって見えたりします。

栗山(渡部さん、適役)もまた、失った娘の“代役”探しを続けることのむなしさにも、妻が抱える深い闇にも気づいています。そんな2人だからこそ、今後の展開から目が離せないのです。

そうそう、このドラマはdTVとフジテレビの共同制作なのですが、エンドロールに、フジテレビの三竿玲子プロデューサーの名前を見つけました。三竿Pといえば、上戸彩主演のヒットドラマ『昼顔』です。「脚本家・野島伸司」と「昼顔プロデューサー」が組んだのがこのドラマだったと分かり、後半戦への期待がより高まりました。

そして、最後にもう一点。このドラマでは、美しいタイトルバックだけでなく、物語の随所に東京タワーが登場します。

東京スカイツリーではなく、東京タワーであることが、「パパ活」などという現代の社会現象を取り込んでいるにもかかわらず、どこか懐かしさを感じさせるこのドラマの恋愛模様を象徴しているような気がします。


ヤフー!ニュース「碓井広義のわからないことだらけ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/

週刊朝日で、朝ドラ「ひよっこ」 視聴率上昇について解説

2017年07月16日 | メディアでのコメント・論評



有村架純のNHK朝ドラ「ひよっこ」
視聴率上昇のワケ

NHK連続テレビ小説「ひよっこ」が、好調だ。

集団就職で上京した有村架純演じる谷田部みね子の成長物語。4月の第1話の視聴率は19.5%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で20%を割ってのスタート。6月に入ってじわじわ上昇し、6月26日からの第13週は6話すべてが20%を突破した。

朝ドラに造詣(ぞうけい)の深い上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、「ようやく正当に評価されるようになってきた」という。

「舞台が赤坂に移り、登場人物の厚みがぐっと増した。みね子が働く洋食店『すずふり亭』では、宮本信子さんや佐々木蔵之介さんら、右肩上がりの世の中で地に足をつけて生きる大人の世界を見せてくれる。一方でアパートの『あかね荘』では、シシド・カフカさんや漫画家を目指す若者ら、多彩な青春像が描かれる」

近年の朝ドラで多かった実在の人物の一代記ではないことも、特徴の一つ。

「実在の人物をモチーフにした作品は、物語の着地点をある程度把握した状態で見てしまう。今回は全く先が見えない」


朝ドラウォッチャーで、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』の著者、田幸和歌子さんは、岡田惠和さんの脚本に注目する。

「みね子の日常の積み重ねを丁寧に描いています。視聴者の多くが知っている時代ならではのディテールに細やかさがある。一方で、登場人物どうしのやりとりが意外と今風だったりする。当時風に再現すると退屈なやりとりになってしまいそうなところを、そうさせないうまさも感じます」

第13週のサブタイトルは、「ビートルズがやって来る」だった。

「ビートルズ見たさに上京した峯田和伸演じる『宗男おじさん』の存在感が大きい。ロックミュージシャンの彼だからこそ出せる説得力に加え、周りとの関わり方もよかった」(田幸さん)

碓井教授も、

「わからないままだったお父さんの消息の一端が知らされた。ビートルズ来日という社会的なテーマと、個人的なテーマの両方が並んだことも大きかった」

という。


ビートルズは去り、物語は後半戦に突入した。気になる今後の展開だが、

「成長をゆっくり描いているので、70年の大阪万博あたりで終わってしまうかも(笑)。または、みね子は2017年時点で71歳という計算なので、たぶんご健在なはず。一気に時間が進んで現代につながる可能性もあります」(碓井教授)

先の読めない展開で、好調は持続しそうだ。

(週刊朝日 2017年7月21日号)


拝啓、倉本聰様。10日の『やすらぎの郷』、びっくりです。

2017年07月14日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


拝啓、倉本聰様。
10日の『やすらぎの郷』、びっくりです。


テレビの現場を支えてきた無名の人たち

10日に放送された『やすらぎの郷』第71回を見て、驚きました。

最初のびっくりは、冒頭での菊村(石坂浩二さん)のモノローグです。

(菊村の声)「私は少し反省している。自分の親しかった友人たちの話を語るあまり、名のある者たちに話が偏(かたよ)った。ここにいる住人は、決して高名な人たちだけではない。それこそ長年、テレビの現場を裏から支え続けてきた無名の人たちも、やすらぎの郷にはいっぱい住んでいる。今日は少しばかり、そういう人たちの話をしよう」

確かに、「やすらぎの郷」は往年の有名俳優や大女優だけでなく、テレビに貢献した作り手たちも入所しているという設定でした。

私自身も、まさに制作現場出身なので、倉本さんが、いえ菊村が「無名の人たち」を気にかけてくれていたことが、嬉しい驚きだったのです。

散歩中の菊村は、ドラマの美術を手がけていた茅野大三郎と、50年ぶりに再会します。

茅野は、それまでドラマで使われていた、細かく切った紙や発泡スチロールの「雪」を、革命的に変えた人物として紹介されます。なんと「降って溶ける雪」を開発したのでした。

(菊村の声)「ビデオもCGもなかった時代、僕らはあの頃、創意と工夫で あくまでアナログで不可能に挑戦した」

知識と金で、前例にならってつくるのが「作る」。 金がなくても、智恵でゼロから前例にないものを生み出すのが「創る」。

それが倉本さんの持論です。


創意と工夫のテレビ創成期

テラスのテーブルで、お茶を飲む2人。

ここで、2度目のびっくりが登場します。

茅野「面白かったねえ、あの頃 テレビは」
菊村「ああ、吉川(きっかわ)とか、碓井とか、先鋭的なディレクターもいたしさ」
茅野「ああ、あれ。大失敗した碓井ちゃんが始末書、取られたやつ」
菊村「そう、あの事件だよ(笑)」

(菊村の声)「その事件とは、こういうものだった」


ここから回想シーンです。4人の男が、壁で四方を囲まれた部屋で、四角いテーブルを囲んで会議をする、という場面です。

4人の顔を、それぞれ正面からアップで撮りたいのですが、このままでは互いのカメラが見切れて(画面に入って)しまいます。

(菊村の声)「そこで吉川の考案した方法がこうだ」

会議室のセットの中、大勢のスタッフが準備をしている。そこに入ってきた若いディレクターが、プロデューサーに呼び止められる。

吉川「碓井ちゃん、碓井ちゃん。(壁に)穴開けてカメラ仕込むから」
碓井「それ、いいっすねえ。あ、そうか。向こうも全部(穴を)開けるんでしょ」


4面の壁に、それぞれ四角の穴を空け、ドアのように開閉可能にします。そこからカメラで人物のアップを撮ろうというのです。扉が閉じている時は、そこに絵画の額縁が掛けられているという仕掛けでした。

(菊村の声)「リハーサルではうまくいった」

リハーサルを何度も重ねて、いざ本番。当時はドラマも生放送です。途中までは順調だったのですが、ADのくしゃみをきっかけに段取りが崩れてしまいます。つまり、扉の開閉やカメラが映ってしまったのです。

サブ(副調整室)で怒鳴る碓井D。その後ろで頭を抱えんばかりの吉川P。

この回想シーンの中の碓井Dが、なぜか私の若い頃の風貌によく似ている(怒鳴ったりはしませんでしたが)というオマケ付きでした(笑)。

(菊村の声)「碓井ディレクターは始末書を取られ、全責任は俺が取ると豪語したプロデューサーの吉川は、ほどなく営業に飛ばされた」

菊村「いい時代だったねえ」
茅野「ねえ」

(菊村の声)「少なくともあの頃、テレビの創成期、我々は創意に輝いていたのだ」


もちろん私は、まだこの時代にはテレビ界に足を踏み入れていません(笑)。名前だけの出演は、倉本さんの”遊び”です。


スペシャルドラマ『波の盆』

私同様、名前が使われている吉川も、実在の吉川正澄(きっかわ まさずみ)さんから来ています。麻布、東大と倉本さんと同期で、昭和34年(1957)にTBSに入社し、昭和45年(1970)にテレビマンユニオンを仲間と共に創立した人物です。

あの回想のエピソードが、吉川さん当人のものなのか。それとも、リアルな逸話の一つを借りて、同じ時代を生きた盟友の名をこのドラマに刻もうとしたのか。それは分かりません。

昭和58年(1983)に放送されたスペシャルドラマ『波の盆』は、倉本さんと吉川さんが初めてがっちりと組んだ作品でした。ハワイ・マウイ島を舞台にした、日系移民一世が主人公の物語です。

脚本:倉本 聰。主演:笠 智衆。監督:実相寺昭雄。音楽:武満 徹。プロデューサー:吉川正澄、山口 剛。製作:テレビマンユニオン、日本テレビ。

実相寺監督と吉川さんは、TBSでの同期です。吉川さんが倉本さんと実相寺監督をつなぐ形で、このゴールデントライアングルが成立しました。そして、この年の「芸術祭大賞」「ATP大賞」などを総なめにします。

ちなみに、当時の私はテレビマンユニオンに参加して3年目のディレクター。このドラマでは、アシスタント・プロデューサーを務めていました。

倉本聰、実相寺昭雄、吉川正澄という3人の「師匠」に出会ったのが、この『波の盆』になります。(もう一人、テレビマンユニオン創立メンバーである萩元晴彦さんを加えて、この業界での4人の師匠ということになります)

1983年から師事して、今年で34年。実相寺監督、吉川さん、そして萩元さんの3人が「あちらの世界」の住人となった今、私にとっての「生きた師匠」は、倉本さんだけになってしまいました。


君は『やすらぎの郷』を見たか!?

倉本さん本人から直接、『やすらぎの郷』の企画の話をうかがったのは一昨年のことです。タイトルや舞台の設定は少し違っていましたが、狙いと基本構造は変わっていません。念のため、師匠は末端の弟子の反応を試してみたのです。

即座に「ぜひ、実現してください!」と身を乗り出してお願いしたことを、よく覚えています。何より、私自身が「倉本聰の連ドラ」を見たかったからです。

毎日、あらためて「上手いなあ」と感心しながら楽しんで、気がつけば、もう後半戦に突入しています。

「やすらぎの郷」に暮らす人たちの“これから”は、どんな展開になるのか。ドラマ全体としての“決着”、もしくは“着地点”はどの辺りになるのか。楽しみです。

また、倉本さんにとっての「言いたいこと」「言うべきこと」「言い遺したいこと」は全部、このドラマに投入して欲しいと思っています。乱暴な言い方になりますが、とことんこのドラマを“私物化”してください(笑)。

かつて、『君は海を見たか』というタイトルの倉本作品がありました。それにならえば、君は『やすらぎの郷』を見たか、ですね。空前絶後、前代未聞のドラマとして、見た人の記憶に残る作品であることは、不肖の弟子が保証します。


ヤフー!ニュース「碓井広義のわからないことだらけ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/

飯豊まりえのコメディエンヌぶりが光る『マジで航海してます。』

2017年07月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、飯豊まりえ主演「マジで航海してます。」について書きました。


毎日放送「マジで航海してます。」
飯豊まりえのコメディエンヌぶりに注目

毎日放送(MBS)が制作する、深夜ドラマ枠「ドラマイズム」のチャレンジが続いている。

女子高校生(浜辺美波)が活躍する麻雀ドラマ「咲―Saki―」。料理好きな大学生(上白石萌音)の食ドラマ「ホクサイと飯さえあれば」。そして特撮番組を愛する若者(本郷奏多)たちの70年代青春ドラマ「怪獣倶楽部~空想特撮青春記~」など、深夜ならではの狭くてディープなテーマと、これからが期待される新鋭の起用が毎回熱い。

先週始まった「マジで航海してます。」も、船を操縦する「航海士」を目指す女子学生たちが主人公だ。坂本真鈴(飯豊まりえ)は子供の頃からの船好きだが、石川燕(武田玲奈)は目的意識もなく海洋大学に入学。温度差の違う2人が、1カ月間の乗船実習に参加する。

ドラマ全体はコメディーなので気楽に楽しめる。特に、アホかと思えるほど前向きで、船への愛情過多な真鈴を演じる、飯豊まりえのコメディエンヌぶりに注目だ。

一時下船の際にも、急病の老人を救って集合時間に遅れるなど、真鈴らしさ全開。鬼教官からは「片手はおのが(自分の)ため、片手は船のため」の精神を評価されて許される。だが、今後の航海ではチームのメンバーとのトラブルは必至だ。

舞台は全編ほぼ船の上。夏場の深夜ということで納涼効果にも期待したい。

(日刊ゲンダイ 2017.07.12)

『あすなろ白書』から四半世紀、なるみや松岡くんは今、どうしているのか!?

2017年07月12日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



ドラマ『あすなろ白書』が放送されたのは、1993年の秋クールでした。

原作は柴門ふみさんの漫画で、主人公は青教学院大学の女子学生「園田なるみ」です。「あすなろ会」と呼ばれる仲間たちとの交友と恋愛が描かれていました。

プロデューサーは、後にフジテレビ社長にまでなる亀山千広さん(先日、退任)。平均視聴率は27%で、最高視聴率が31.9%。現在のフジテレビにとっては、まさに”夢の時代”ですね。

なるみ役は石田ひかりさんです。なるみと惹かれあう「掛居保」は筒井道隆さん(最近はBSのドラマでよく見かけます)。いつもなるみを見守っていた「取手治」が木村拓哉さん(主役じゃないキムタク、悪くなかったなあ)。

掛居に片想いしていた「東山星香」は鈴木杏樹さん(昨年まで「ミュージックフェア」の司会を20年)。そして財閥の御曹司「松岡純一郎」を演じていたのが西島秀俊さんでした。

放送から、ほぼ四半世紀。あの「なるみ」や「松岡くん」は今、どうしているのか!?


「なるみ」は、なんとドロドロの不倫妻に!

フジテレビ側の“お家の事情”により、平日昼間から週末深夜(土曜23時40分)へと異動させられた、東海テレビ制作のドロドロ系ドラマ。深夜に置かれたことで、逆に本領発揮の感があります。

『屋根裏の恋人』の主演は石田ひかりさん。下町・両国に暮らす相撲好きなヒロインを演じた、NHK朝ドラ『ひらり』の放送から、ちょうど25年になります。

同じ朝ドラ『あまちゃん』の名プロデューサー・訓覇(くるべ)圭氏と結婚し、いまや中学生の娘さんが2人もいるというから驚きです。最近は未婚の姉・石田ゆり子さんが、『逃げ恥』をはじめ何かと話題となっていますが、妹も久々の連ドラ主演復活というわけです。

ヒロインである衣香(きぬか/石田さん)は、証券マンの夫(勝村政信さん)、高校生の娘、中学生の息子と4人家族の専業主婦です。18年前に突然姿を消した恋人・瀬野(今井翼さん)と再会します。自分の父親を自殺へと追いやった人物への復讐を果たそうとしている瀬野ですが、何と衣香の家の屋根裏部屋に、強引に棲みついてしまうのです。

瀬野に傾斜する衣香。彼女の親友(三浦恵理子さん)と不倫関係にある夫。ミュージシャンに貢ごうとキャバ嬢のバイトをしていた娘。そして学校でイジメを受けていた息子。家族それぞれが問題を抱えていたことがわかってきます。しかも姑(高畑淳子さん)が、いくつかの秘密に気づいています。

このドラマ、「いくら屋根裏でも棲み続けるのは無理」とか、「屋根裏でバイオリンなんか弾いたらバレるだろう」とか、リアリティーうんぬんの指摘は野暮というもの(笑)。

実生活とのギャップからか、不倫妻の役柄はどこか無理をしているように見える石田ひかりさん。逃亡者や復讐者というイメージからは距離がある、中年らしいモッサリ感が漂う今井翼さん。また、ややオーバー気味の顔面芝居を眺めていると、つい実の息子の顔がちらついてしまう高畑淳子さんの怪演などを、広~いココロで楽しめばいいのです。


「松岡くん」は、7匹の猫と暮す家具職人に!

世の中には犬派と猫派がいるそうですが、最近のNHKはかなり猫派寄りです。BSプレミアムで『岩合光昭の世界ネコ歩き』が放送され、Eテレ『2355』では毎週火曜が「猫入りチューズデー」という猫特集となっています。

そして新たな“猫物件”が、現在放送中のドラマ10『ブランケット・キャッツ』(金曜22時)です。主人公は、交通事故で亡くなった妻(酒井美紀さん)が残した7匹の猫と暮らす、家具職人の椎名秀亮(西島秀俊さん)。一応独身ではありますが、秀亮とは幼馴染の獣医師・美咲(吉瀬美智子さん)の”面倒見の良さ”が気になります。

秀亮は飼い主を探していて、適性を判断する面談と3日間のお試し期間を設けています。たとえば第1回では、認知症で施設に入る祖母(佐々木すみ江さん)のために、以前の飼い猫と似た猫を探すヒロミ(蓮佛美沙子さん)がやってきました。

しかも秀亮は、やはり祖母を喜ばせたいヒロミの依頼で、彼女の婚約者の「代役」まで引き受けてしまいます。結局、祖母は孫娘の“優しい嘘”に気づいており、ヒロミは本当のことを告げるのでした。

この一家に限らず、お試し家庭が抱える「悩み」や「心配事」は特殊なものではなく、視聴者が自分たちに引き寄せて共感できるものばかりです。これは重松清さんの原作小説の味を生かした、江頭美智留さんの脚本の力でしょう。

また西島さんと猫たちが、まるで本物の家族のように見えることに驚きます。この見事な「なつき方」、天才子役ならぬ天才猫軍団です。

個人的には、『和風総本家』(テレビ東京系)の柴犬「豆助」を応援する犬派ですが、このドラマを見ていると、ふと「猫も悪くないか」と思えてきます。


・・・というわけで、「なるみ」も、「松岡くん」も、それぞれマジメに、なかなか刺激的な40代を生きているのでした。

2017年夏、注目CMの主役はやっぱり彼女たち!?

2017年07月11日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


ファイブミニ「恋よりセンイ。」篇

是枝裕和監督の『海街diary』が公開されたのは、今から3年前のことです。当時15歳の広瀬すずさんが演じた、綾瀬はるかさんや長澤まさみさんの“腹違いの妹”が鮮烈でした。

今年の春に高校を卒業したすずさんをヒロインにして、是枝監督が撮ったのがファイブミニの新作CMです。

故郷である静岡の友達と携帯電話で話しながら、自分の部屋に入ってきたすずさん。どうやら仕事が忙しくて、卒業式にも出られなかったようです。

ふと鏡の中の自分を見る。そこに映っているのは「素の広瀬すず」か、それとも「女優の広瀬すず」か。是枝監督ならではと言っていい、ドキュメンタリータッチの演出が際立ちます。

すずさんが部屋からベランダに出ます。見えているのは東京スカイツリーではなく、東京タワーです。

飲みかけのボトルをかざし、東京タワーと並べてみます。遠近法で、同じくらいの高さに見えたりして。

ちょっと似た色のボトルとタワー。見つめるすずさんの横顔が美しい。何かしら覚悟を決めた女性の表情です。え、もしかしたら恋より仕事? いえ、恋よりセンイだそうです。 


はるやま「アイシャツ アイ」篇

乃木坂46の白石麻衣さんがスマホを見つめています。その画面には、「完全なアイ。」の文字。

他のメンバーにも、「まっすぐなアイ。」という謎のメッセージが届きます。どうやら、西野七瀬さんが失踪、もしくは行方不明になっているらしいのです。

西野さんの行方を求め、走り回るメンバーたち。そして、探しあぐねた白石さん、「アイって何?」と大声で叫びます。

すると最後に西野さんが現われ、ノーアイロンで楽なワイシャツ「アイシャツ」のCMだとわかるのでした。

デビュー曲『ぐるぐるカーテン』が発売されたのが2012年2月。センターは生駒里奈さんでしたが、19歳の白石さんも、とび抜けた美しさで見る人の目を引いていました。

あれから5年。白石さんは24歳となり、“オトナっぽい美少女”から“オトナの美女”へと進化しました。結構大胆なショットが入った写真集『パスポート』も、累計21万部と大好評です。

近年、「親しみやすさ」がアイドルの条件の一つになっているようです。しかし白石さんの人気はむしろ、そのクールビューティーぶりからくる「近寄り難さ」にあるのかもしれません。

これはアイドル文化論における、興味深い研究テーマであると思っています。

書評した本: 小林信彦 『わがクラシック・スターたち』ほか

2017年07月10日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。


小林信彦 
『わがクラシック・スターたち―本音を申せば』

文藝春秋 1620円

中吊り広告問題は遺憾だが、寄稿者に罪はない。「週刊文春」連載の名物エッセイ、昨年分だ。映画、ラジオ、本などについての評価はもちろん、「こんなひどい時代が二度とくるとは思わなかった」と嘆きながらの社会時評が鋭い。「みにくい時代」の灯台である。


原田ひ香 『ラジオ・ガガガ』
双葉社 1512円

ラジオは不思議なメディアだ。不特定多数を対象としながらパーソナルな性質をもつ。この短編集に登場するのは、それぞれラジオに助けられ、励まされている人たちだ。しかも、「伊集院光 深夜の馬鹿力」など実在の番組が物語に組み込まれ、効果を発揮している。


末井 昭 『結婚』
平凡社 1512円

著者は『写真時代』やパチンコ雑誌などで知られる伝説の編集者、また作家でもある。自身の恋愛、結婚、不倫、離婚、再婚の体験を文字通り赤裸々に綴ったのが本書だ。その破天荒な行いを露悪的ではなく淡々と告白。いっそ突き抜けたような清々しさを感じさせる。


松村雄策 『僕を作った66枚のレコード』
小学館 2160円

雑誌『ロッキング・オン』に連載の「レコード棚いっぱいの名盤から」をまとめた一冊。66枚のうちビートルズ7枚、ドアーズ5枚、ローリング・ストーンズ3枚と聞けば、著者の好みが想像できるだろう。60~70年代のロックを浴びた世代にとって価値観の源泉だ。

(週刊新潮 2017年7月6日号)



追記:

「週刊文春」の小林信彦さんの連載コラムが、この何ヶ月か、休載となっています。

毎週、真っ先に開くページなので、ずっと寂しいです。

事情はまったく知りません。

もしも体調などであれば、一日も早いご回復をお祈りいたします。



【気まぐれ写真館】 高校野球 神奈川大会 開会式(横浜スタジアム) 2017.07.08

2017年07月09日 | 気まぐれ写真館