碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

木俣冬:著『みんなの朝ドラ』は、「朝ドラ」ファン必読の一冊

2017年07月08日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


日々、怒涛の勢いでドラマ『やすらぎの郷』の連続レビューを書き続けている木俣冬さん。『やすらぎの郷』を見逃した日でさえ、木俣さんのレビューを読んで、「なるほど、そういう展開になったのか」と確認しています。そんな木俣さんの新著、『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が出版されました。


半世紀を超えた「朝ドラ」

「朝ドラ」とは、もちろんNHK「連続テレビ小説」の通称です。現在は月曜から土曜の朝8時(再放送は昼12時45分)から、15分の長さで放送されている連続ドラマ。元々モデルとされたのが新聞の連載小説であり、長大な物語を1日ずつ、細かく読者(視聴者)に提供していくスタイルを踏襲しています。

「朝ドラ」が開始されたのは1961年で、すでに56年という長い歴史をもっています。第1作は獅子文六の小説を原作とする『娘と私』でした。

66年に樫山文枝さんが主演した『おはなはん』で平均視聴率が45%を超え、視聴者の間に完全に定着します。当初、ひとつのドラマを1年間流す通年放送でしたが、74年の『鳩子の海』以降は、渋谷のNHK東京放送局と大阪放送局が半年交代で制作を担当しています。


社会現象となった『あまちゃん』

我が個人的ベストともいうべき、第88作『あまちゃん』が放送されたのは、2013年4月から9月まで。半年間の平均視聴率は20・6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で、放送当時、それまでの10年間では『梅ちゃん先生』の20・7%に次ぐ高い数字でした。

しかし反響はそれだけではありません。新聞や雑誌で何度も特集が組まれ、ネットでも連日話題となりました。また関連CDがヒットし、DVDの予約も通常の10倍に達しました。

さらに、『あまちゃん』の放送が終了した時、その寂しさや欠落感で落ち込んでしまう人が続出するのではないかと言われ、「あまロス症候群」なる言葉まで生まれたのです。

では、なぜ『あまちゃん』は一種の社会現象ともいえる広がりをみせたのか。それまでの朝ドラと何が違っていたのか。

木俣さんの『みんなの朝ドラ』によれば、それは「総合力」の成果でした。宮藤官九郎さんによるポップな脚本。ヒロインである能年玲奈さんを囲むように配された、小泉今日子さんや薬師丸ひろ子さんなど80年代アイドルの起用。さらに「影武者」という異色の設定などを指摘し、納得のいく分析が行われています。


朝ドラを超えた朝ドラ『カーネーション』

他にも本書では、『ごちそうさん』『花子とアン』『あさが来た』『とと姉ちゃん』などが語られていますが、やはり圧巻は、著者が「朝ドラを超えた朝ドラ」と絶賛する『カーネーション』(2011年下期)でしょう。

木俣さんはまず、「健全な朝ドラの世界に背徳感をもたらした」ことを挙げます。確かに、尾野真千子さんが演じた小原糸子(モデルはコシノ3姉妹の母・小篠綾子さん)と、綾野剛さんが演じた周防龍一の間に漂うエロスは、“清く正しく美しく”的な朝ドラの一線を超える、画期的なものだったと思います。

またヒロインの夢物語ではなく「現実」を描いた点も、木俣さんはきちんと評価しています。現実には当然“苦さ”もあるのですが、『カーネーション』ではその”ドラマ的配分”が絶妙でした。

というわけで、解読力と分析力が光る『みんなの朝ドラ』は、「朝ドラ」が今や主婦層など女性だけのものではなく、まさに「みんなの朝ドラ」であることを実感させてくれる、パワフルな1冊となっています。

小林麻央さん追悼番組 背景に闘病つづったブログの存在

2017年07月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、小林麻央さんとブログについて書きました。


小林麻央さん 破格の追悼番組
背景に闘病つづったブログの存在

歌舞伎俳優・市川海老 蔵さんの妻でフリーアナウンサーの小林麻央さんが亡くなったのは6月22日のことだ。その4日後、「小林麻央さん追悼番組~優しく強く生きた34年~」(日本テレビ―STV)が放送された。テレビに出演していた頃、結婚、出産、そして2年8カ月の闘病生活などが紹介されていたが、破格の扱いともいうべき「緊急特番」が組まれた背景には、麻央さんが書き続けたブログの存在がある。

麻央さんは自身のブログでがんを告白し、闘病の過程を亡くなる2日前まで発信していた。ブログに登録する読者は250万人以上に達し、その内容が報道されることで社会的な関心も高まった。しかし当初は、「病気をネタに世間の注目を集めたいのか」といった見方をする人も少なくなかった。

ところがブログが継続されていくにつれ、同じ病いをもつ人やその家族の間に共感が広がっていく。「なぜ私が・・」と思い悩んでいた人たちが、決して孤独ではないことを確かめられる「場」になっていったのだ。いわば一種のコミュニティ(共同体)が成立し、ゆるやかな繋がりが生まれたのである。

麻央さん自身も、書くことによって「今日やるべきことをやった」「明日もやるべきことがある」という実感をもつことができた。それは生きていることの証であり、自分の病気にも何かしら意味があると思える証だったのではないだろうか。

加えて、ブログが麻央さんの精神的な支えになり得たのには別の理由もある。芸能人が病気になったとき、マスコミが憶測で病状を伝えることが多い。これは闘病中の本人にとって多大なストレスとなる。芸能人の病気にまつわる報道はこうしたことの繰り返しだったが、麻央さんはこの状況を変えたのだ。

なぜなら、ブログを書くことで第一次情報を芸能人自身が発信していることになる。毎日、本人が記者会見をしているようなものだ。これによってマスコミは無責任な報道をしくなり、麻央さんは心を乱されることなく闘病生活を続けることができた。メディア側と取材される側の関係性という意味で、多くの示唆に富む事例となった。

緊急特番へと至るまでに麻央さんのブログが果たした役割は、闘病という「プロセス」の共有である。読者はブログを読むことで、彼女がどのように生と死に向き合っているかを共有できたのだ。さらにブログが残され、アーカイブ(記録保管所)化することで、未来の読者にも彼女の体験が手渡されていく。

(北海道新聞 2017.07.04)

石田ひかり主演ドロドロドラマ「屋根裏の恋人」の楽しみ方

2017年07月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、石田ひかり主演「屋根裏の恋人」について書きました。


東海テレビ制作「屋根裏の恋人」
野暮は抜き
広いココロで楽しめばいい

昼間から深夜へと異動させられた、東海テレビお得意のドロドロ系ドラマ枠。「屋根裏の恋人」の主演は石田ひかり(45)だ。

下町・両国に住む相撲好きなヒロインを演じた、NHK朝ドラ「ひらり」の放送から25年。最近は姉の石田ゆり子が「逃げ恥」などで好評だったが、妹も満を持しての連ドラ主演復活である。

西條衣香(石田)は証券マンの夫(勝村政信)、高校生の娘、中学生の息子と暮らす専業主婦だ。18年前に姿を消した恋人・瀬野(今井翼)が突然目の前に現れる。父親を自殺に追い込んだ人物への復讐を果たそうとしている瀬野は、衣香の家の屋根裏部屋に、強引に住みついてしまう。

瀬野に傾斜する衣香。彼女の親友(三浦理恵子)と不倫関係にある夫。ミュージシャンに貢ごうとキャバ嬢のバイトをしていた娘。そして学校でイジメを受けていた息子。家族それぞれが問題を抱えていたことがわかってくる。しかも姑(高畑淳子)が、いくつかの秘密に気づいているのだ。

このドラマ、「いくら屋根裏でも住み続けるのは無理」とか、「バイオリンなんか弾いたらバレるだろう」とか、リアリティーうんぬんは野暮な話だ。石田のどこか無理をしている不倫妻、今井の逃亡者には見えないモッサリ感、どうしても実の息子の顔がちらつく高畑の怪演などを、広いココロで楽しめばいい。

(日刊ゲンダイ 2017.07.05)

【気まぐれ写真館】 晴天、数時間後には大雨 2017.07.05

2017年07月06日 | 気まぐれ写真館

書評した本:武井 崇『岸田森~夭逝の天才俳優・全記録』ほか

2017年07月05日 | 書評した本たち


「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

武井 崇 『岸田森~夭逝の天才俳優・全記録』
洋泉社 4,104円

『怪奇大作戦』『傷だらけの天使』などと共に語り継がれる岸田森。1982年に43歳で他界した怪優の軌跡を、20年にもわたって追い続けてきた労作だ。レンズの画角や構図に合わせた変幻自在の演技。出会ってきた女性や仲間たち。岸田の魅力が伝わってくる。


宮沢章夫ほか
『NHK ニッポン戦後サブカルチャー史』
 

NHK出版 1,944円

前著『NHK ニッポン戦後サブカルチャー史』は宮沢章夫のワンマン講義だった。続編の本書は複数の講師による“輪講”形式だ。大森望のSF、泉麻人の深夜テレビ、都築響一の「ヘタうま」など贅沢なキャスティングの論考が並ぶ。刺激的な番組の単行本化だ。


有栖川有栖 『ミステリ国の人々』
日本経済新聞出版社 1,620円

古今東西のミステリに登場する人物をめぐるエッセイ集だ。名探偵のポアロやクイーン。松本清張『点と線』の三原や、鮎川哲也『黒いトランク』の鬼貫などの刑事。さらにアイリッシュ『消えた花嫁』のアリス、明智小五郎の妻・文代といった女性像も鮮やかだ。


小長谷有紀 『ウメサオタダオが語る、梅棹忠夫』
ミネルヴァ書房 3,024円

“知の巨星”梅棹忠夫が残した資料は大阪の国立民族学博物館にある。論文などの著作物はもちろん、写真、フィールドノート、ハガキや手紙、『知的生産の技術』で紹介された京大型カードなど数万点に及ぶ。「梅棹アーカイブズ」が映し出す、人間と文明への視野。


加藤直樹 
『謀叛の児~宮崎滔天の「世界革命」』

河出書房新社 3,024円

アジア主義者、辛亥革命の支援者、そして孫文の友人。宮崎滔天に関する一般的なイメージだ。しかし天皇崇拝や国家主義などと無縁な滔天は、「いかなる意味でも右翼ではない」と著者は言う。ならば何者か。その思想と生涯を検証し、新たな“滔天像”を創出する。

(週刊新潮 2017年6月29日号)

小林麻央さんの「ブログ」とは何だったのか!?

2017年07月03日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



歌舞伎俳優・市川海老蔵さんの妻で、フリーアナウンサーの小林麻央さんが亡くなったのは6月22日のことでした。その4日後、「小林麻央さん追悼番組~優しく強く生きた34年~」(日本テレビ系)が放送されました。

テレビに出演していた頃の姿、結婚、出産、そして2年8カ月におよんだ闘病生活などが紹介されていましたが、破格の扱いともいうべきこの「緊急特番」が組まれた背景には、麻央さんが書き続けたブログの存在があります。


書き続けられた「ブログ」

麻央さんは自身のブログでがんを告白し、その闘病の過程を綴り続け、亡くなる2日前まで発信していました。ブログに登録する読者は250万人以上に達し、その内容が報道されることで社会的な関心も高まりました。

ブログやSNSで自分の生活を発信する芸能人は大勢います。麻央さんのブログも当初は、「世間から忘れられるのが怖いのか」「病気をネタにしてまで世間の注目を集めたいのか」といった見方をする人が少なくなかったのです。

ところがブログが継続されていくにつれ、ギリギリの状況のなかで発信を続けていることが伝わってきました。文章だけではなく写真も多用し、体調が良いときも悪いときも、包み隠さずにリアルな生活の様子を伝えていました。


「コミュニティ(共同体)」の成立

やがて、同じ病をもつ人やその家族の間に共感が広がっていきました。「なぜ私が・・」と思い悩んでいた人たちが、決して孤独ではないことを確かめられる「場」になっていったのです。

いわば一種のコミュニティ(共同体)が成立し、ゆるやかな”つながり”が生まれたと言えるでしょう。読者の麻央さんに対する認識も、「かわいそうな人」から「頑張っている人」「闘っている人」へと変化していったのです。

また麻央さん自身も、発信を続けることで力を得ていきます。書くことによって、「今日やれることをやった」「明日もやりたいことがある」という実感をもつことができた。それは生きていることの証(あかし)であり、自分の病気にも何かしら意味があると思える証だったのではないでしょうか。

数百万人という途方もない数の人が「読んでいてくれる」「見ていてくれる」ことは、書き手にとっては「応援していてくれる」という感覚に近い。しかも海老蔵さんが6月23日の会見でも語っていたように、ブログは本人だけでなく、海老蔵さんを始め家族への励ましにもなっていました。


本人が発信した「第一次情報」

さらに、ブログが麻央さんの精神的な支えになり得たのには、別の理由もあります。

芸能人が病気になったとき、マスコミが追いかけ、憶測で病状を伝えることが多い。これは世間から隔絶した状態で闘病する人にとって、多大なストレスとなります。芸能人の病気にまつわる報道は、こうしたことの繰り返しでしたが、麻央さんはこの状況を変えていったのです。

なぜならブログを書くことは、麻央さん自身が「第一次情報」を発信していることでもあります。毎日、本人が記者会見をしているようなものです。

これによってマスコミは無責任な報道をしなくなり(できなくなり)、麻央さんは心を乱されることなく闘病生活を続けることができたのだと思います。メディア側と取材される側の関係性という意味でも、多くの示唆に富む事例となりました。


闘病という「プロセス」の共有

緊急特番へと至るまでに麻央さんのブログが果たした役割は、闘病という「プロセス」の共有でした。

普通は、病気をした、克服した、あるいは亡くなったといった「結果」だけが、マスコミを通じて報じられることが多いのですが、読者は麻央さんのブログを読むことで、彼女が日々、どのように「生と死」に向き合っていたかを共有できたのです。

最後に、ぜひ今後もブログが残され、アーカイブ(記録保管所)化することで、今はまだ読んでいない「未来の読者」の皆さんにも、彼女の体験が手渡されていくことを願います。

麻央さん、本当にお疲れさまでした。

合掌。



追記:

3日のスポニチに、麻央さんのブログについて、以下のような記事が掲載されました。よかったです。

「Ameba」を運営するサイバーエージェントは3日、6月22日に乳がんのため亡くなった小林麻央さんを「MVB(Most Valuable Blogger)」に認定し、ブログ「KOKORO.」を継続公開することを発表した。(スポニチ 2017.07.03)


ヤフー!ニュース「碓井広義のわからないことだらけ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/

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