碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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NHK朝ドラ「ひよっこ」は、市井に生きる私たちの物語

2017年07月30日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。

今回は、NHK朝ドラ「ひよっこ」について書きました。


【週刊テレビ評】
NHK「ひよっこ」 
市井に生きる私たちの物語

後半戦に入ったNHK連続テレビ小説「ひよっこ」が猛暑に負けないほど熱を帯びている。茨城から集団就職で上京した主人公、谷田部みね子(有村架純)。勤めていたラジオ工場が閉鎖され、現在は赤坂にある洋食店のホール係だ。

舞台が赤坂に移ってから登場人物の厚みがぐっと増した。みね子が働く「すずふり亭」の女主人(宮本信子)やシェフ(佐々木蔵之介)たちが、地に足をつけて生きる大人の世界を見せてくれる。また、みね子が住むアパート「あかね荘」では、謎の会社員(シシド・カフカ)や漫画家志望の男たちなど多彩な青春像が描かれている。

しかも、みね子はこの町で恋をした。相手は同じアパートの住人で、慶応大学の学生である島谷純一郎(竹内涼真)。地方で会社を経営する名家の後継ぎ息子だ。しばらくは幸せな2人だったが、純一郎の実家が傾き、父親から政略結婚の話がくる。純一郎は親と縁を切ってでも、みね子と一緒にいることを選ぼうとする。

24日放送の第97回。純一郎は、みね子に事の経緯を説明し、たとえ貧乏になっても自分らしく生きたいのだと言い出す。

そんな純一郎に対し、今度はみね子が決意を込めた表情で語り始める。それはこのドラマの本質に迫る一人語りであり、2分を超える長ゼリフだった。流れては消えてしまうドラマの言葉を、あえて以下に再現してみたい。

「そんな簡単なことじゃないです。貧しくても構わないなんて、そんな言葉、知らないから言えるんです。貧しい、お金がないということがどういうことなのか、わからないから言えるんです。いいことなんて一つもありません。悲しかったり、悔しかったり、さみしかったり、そんなことばっかしです。お金がない人で、貧しくても構わないなんて思ってる人はいないと思います。それでも明るくしてんのは、そうやって生きていくしかないからです。(中略)私は貧しくて構わないなんて思いません。それなのに島谷さんは持ってるもの捨てるんですか? みんなが欲しいと思っているものを自分で捨てるんですか? 島谷さん、私、私、親不孝な人は嫌いです」

近年の朝ドラで、これだけ真実味のあるセリフを聞いたことがない。 ドラマというフィクションだからこそ伝えられる人生のリアルであり、生きることの重みだ。

脚本は「ちゅらさん」などを手がけた岡田恵和。みね子は「とと姉ちゃん」や「べっぴんさん」のように、功成り名遂げた実在の人物がモデルではない。市井に生きる、私たちの物語なのである。

(毎日新聞 2017年7月28日夕刊)