碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

ドラマ「コウノドリ」~「チーム医療」の現場力

2017年12月21日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評



しんぶん赤旗のリレーコラム「波動」。

今回は、ドラマ「コウノドリ」(TBS系)について書きました。


「チーム医療」の現場力

今期ドラマには、米倉涼子主演「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日系)と綾野剛主演「コウノドリ」(TBS系)という2本の「医療ドラマ」が並ぶ。

後者の主人公・鴻鳥サクラ(綾野)は、妊婦の気持ちに寄り添いながら出産をサポートしていく産科医。「妊娠は病気じゃない。でもお産に絶対はない」が信条だ。

確かに妊娠・出産は病気ではない。しかし、さまざまなリスクを伴うことも事実で、産科には日常的に生と死のドラマが共存している。たとえば第5話では、IUFD(子宮内胎児死亡)のつらいエピソードが描かれた。

初めての赤ちゃんを失った夫婦に対し、鴻鳥は原因がわからなかったこと、また事態を予測できなかったことを謝罪する。サクラの同僚である四宮春樹医師(星野源)によれば、「死産の4分の1は原因不明」なのだ。

また第6話では、切迫早産で入院していた若い妊婦(福田麻由子)が、甲状腺クリーゼのために命を落としてしまった。直前に彼女と接していた下屋加江医師(松岡茉優)は、「もっと自分に力があったら」と悔やむ。その後、下屋は「母子の両方を救える産科医になりたい」と決意し、「救命科」へと転科した。

実際、専門医であってもわからないことはあるし、出来ないことも多い。それは当然のことかもしれない。しかし鴻鳥は「当然」にひるんだりせず、むしろ真摯に受けとめ、自分たちに何が出来るかを徹底的に考えていく。

この「自分たち」という点が大事で、このドラマの鴻鳥はいわゆるヒーローではない。産婦人科や新生児科の仲間たち、つまり「チーム」としての取り組みこそが見所だ。大門未知子という一人のスーパー外科医が大活躍する、「ドクターX」との大きな違いでもある。

特に、助産師の小松留美子(吉田羊)の存在が大きい。異なる職種のメディカルスタッフが、お互いに対等の立場で連携して治療やケアと向き合う。このドラマを通じて、視聴者は「チーム医療」の現場を垣間見ることができるのだ。登場人物それぞれに目配りが利いた脚本。リアリティーを大切にした細心の演出。そして役者たちの気合いの入った演技が、この秀作ドラマを支えている。

(しんぶん赤旗 2017.12.18)


今年もまた、アナザーウェイとオリジナリティを押し進めた「テレビ東京」

2017年12月20日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


先日、週刊誌から「テレビ東京の人気」に関する取材を受けました。今年6月、テレビ東京は「週間平均視聴率(5月29日~6月4日)」でテレビ朝日やフジテレビを抜き去り、民放3位となりました。1964年の開局以来、初の快挙です。それに最近は、ドキュメントバラエティー「池の水ぜんぶ抜く」が話題になったりしました。週刊誌には、お話した一部が掲載されていましたが、あらためて、そこに至る背景を探ってみます。

それは「TVチャンピオン」から始まった!?

かつて、テレビ東京のイメージといえば、良くも悪くも「経済のテレ東」でした。日本経済新聞との関係もあり、「ワールドビジネスサテライト」に代表される、経済情報に特化した番組がウリの局だったんですね。というか、それしかなかったと言っていい。

変化が起きたのは、92年に始まった「TVチャンピオン」(2006年9月終了)のヒットからです。さまざまなジャンルで、“素人のすごい人”を競わせるバラエティ番組でした。

他局と比べて、予算にも人員にも限りがあり、大物タレントの起用や豪華番組の制作はままならないのがテレビ東京です。他局と似たような企画を打ち出しても、結果的には貧弱な“縮小コピー”になってしまいます。

「それならば」という苦肉の策から生まれた、素人参加番組が注目を集めたわけです。「TVチャンピオン」の成功によって、他局とは違う別の道、“アナザーウェイ”を行くことを決意したのだと思います。

バラエティの「オリジナル商品」開発

制作費でいえば、テレ東は他局の半分にも満たない低予算である場合が多い。たとえば、番組司会に2人置こうと考えたとき、他局だったら人気MCと話題の女性タレントを用意できるのに対して、テレ東は局のアナウンサーとあまり名前の知られていない若手芸人しか呼べないということです。

そこでテレ東は、他局のマネではない、バラエティの“オリジナル商品”を開発し、世に送り出していくことになります。1994年「開運!なんでも鑑定団」、95年「出没!アド街ック天国」などです。今や局の看板となった両番組ですが、「よそでは見られない番組」を作ろうとする挑戦は、その後も続いています。

2007年からの「モヤモヤさまぁ~ず」(現在はタイトルに2が付いています)はもちろん、近年だと太川陽介さんや蛭子能収さんによる「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」。来日した外国人に密着する「YOUは何しに日本へ?」。さらに海外で活躍する日本人を紹介する「世界ナゼそこに?日本人」等々。これらに共通するのは、独特の“ユルさ”であり、気楽に見られる“人間ドキュメント”になっていることでしょう。

経済情報番組の新機軸、そしてアニメ

こうしたバラエティの流れに加えて、2000年代に入ると、新機軸の経済情報番組も投入してきました。02年「ガイアの夜明け」、そして06年の「カンブリア宮殿」などです。両番組の新しさと価値は、それまで主にビジネスマンが対象だった経済情報番組を、人間を軸とした視点と見せ方の工夫によって、家族で楽しめる“教養エンターテインメント”に仕立て上げたことです。

さらにバラエティ系でも、07年から「和風総本家」(テレビ大阪の制作)を開始。「日本の職人」「匠の技」という“鉱脈”を発見し、大事に育てながら現在に至っています。

そして、テレビ東京の独壇場といえばアニメですよね。他局のアニメ枠が減少する中、テレ東には、「妖怪ウォッチ」、「ポケットモンスター サン&ムーン」、「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ 20thリマスター」、「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」など、アニメファンが嬉しいタイトルが並んでいます。そこにいるファンに応えようとする姿勢も、テレビ東京の特色の一つです。

“アナザーウェイ”と“オリジナリティ”のドラマ

アニメだけでなく、温泉地やちょっとした観光地を訪ねる旅番組も根強い人気がありますが、注目したいのはドラマです。実はここでも、“アナザーウェイ”と“オリジナリティ”が武器になっています。その象徴が、「深夜ドラマ」というジャンル全体を牽引する、「ドラマ24」という枠です。

これまで、05年の第1作「嬢王」に始まり、「湯けむりスナイパー」「モテキ」「勇者ヨシヒコと魔王の城」「まほろ駅前番外地」「みんな!エスパーだよ!」といった話題作を次から次へと生み出してきました。深夜の別枠でヒットした「孤独のグルメ」も15年秋からこの枠に編入されたこともあり、ブランド価値がさらに高まっているのです。

キモはゴールデンタイムのドラマのように、子どもから大人まで広範囲の視聴者を狙っていないこと。一般向けとはいえないマニアックな内容、冒険的なキャスティング、とんがった演出などにチャレンジしており、これがドラマ愛好者にはたまりません。

「湯けむりスナイパー」の遠藤憲一、「孤独のグルメ」の松重豊、「モテキ」の森山未來など、それ以前には“主役”として起用されることがあまりなかった俳優たちが、ここで堂々の座長芝居を見せてきました。

ドラマの中身と役者が完全にマッチしているのが特徴ですが、これは他局のゴールデンタイムのドラマが、内容より先に有名俳優・タレントの主演が決まっているような作られ方をするのと対極にあると言っていいでしょう。

また、「モテキ」の大根仁、「冷たい熱帯魚」の園子温、「変体仮面」の福田雄一など、一癖も二癖もある監督たちの起用も実に魅力的でした。

さらに近年のテレビ東京のドラマが、視聴者としての「中高年層」を大切にしていることにも注目です。

「金曜8時のドラマ」という枠を設け、「三匹のおっさん」「僕らプレイボーイズ 熟年探偵社」「釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~」など、中高年向けの作品を連打してきました。ベテラン俳優という貴重な資源を活用した試みとして実に面白い。今期の沢村一樹主演「ユニバーサル広告社」も、なかなかの秀作でした。

報道もまた「テレビ東京流」

1991年の湾岸戦争時に、他局がそろって報道番組を流す中、テレ東がアニメ「楽しいムーミン一家」、「三つ目がとおる」を放送し、18%近い高視聴率を叩き出したことは、今や伝説です。何が起こっても通常の番組を続ける頑固さ(笑)。いつもの番組を楽しみに待っている視聴者を裏切らないのがテレ東の考え方なのです。

そんな報道のジャンルでも、近年のテレビ東京は独自色を打ち出しています。その最たるものが、池上彰さんを起用しての選挙特番でしょう。

若者を中心に、日常的には普通の人たちの政治への関心はあまり高くありません。だからこそ選挙にはある種のお祭りとしての役割があり、政治に関心を持ってもらえるチャンスです。特に投票率が低い若者層にアピールしたいなら、選挙報道にはそれができる可能性がある。しかし、過去の選挙報道は基本的に「横並び」「金太郎あめ」といった印象がぬぐえませんでした。

選挙特番での池上さんは、客観的に情報を把握し、それを分かりやすく伝えてくれます。また、相手が大物政治家でも臆することなく、国民が本当に知りたいと思うことを引き出してくれる。池上さんの登場によって、いい意味で選挙報道が面白くなり、またテレビ東京の選挙特番は存在感を持ちました。今後は報道番組全体の強化を望みたいです。

「テレビ的」なるものへの期待感

現在のテレビ東京は、全国的ネットワークの弱さや、他局のような大きな予算を投入できないことは以前と変わりありませんが、かつて「番外地」とまで呼ばれたような寂寥感は過去のものとなりました。

むしろ、テレビというメディアがある種の閉塞感に包まれている現在において、何か新しいもの、何かワクワクするもの、つまり“テレビ的”なるものを出現させてくれそうな期待感が、この局にはあるのです。

苦肉の策から生まれたゲリラ的、挑戦的な“アナザーウェイ”と“オリジナリティ”が、この25年間で鍛えられ、大きく進化して、今日のテレビ東京の原動力となっているのだと思います。

今年、出会った「ひと」~庵野秀明監督と映画『シン・ゴジラ』素人の見方

2017年12月19日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



初めてお会いした、庵野秀明監督

2017年も、あと2週間となりました。年々、時の流れが早くなっているように感じるのですが、このあたりで、ちょっと今年を振り返ってみようと思います。

今年、(初めて)出会った人の中で、印象深い人物の一人が庵野秀明監督です。師である実相寺昭雄監督の著作『闇への憧れ』が、40年ぶりに“復刊”されることになり、「実相寺昭雄研究会」のメンバーと共に、少しだけですが協力させていただきました。

その一つが巻末に収められた、庵野秀明監督への「実相寺監督に関するオリジナルインタビュー」です。発案者は、実相寺夫人である、女優の原知佐子さん。「ぜひ庵野くんの話が聞いてみたいわねえ」のひと言でした。庵野監督は「原さんに指名されたんじゃ、断れませんね」と快く応じてくださった、という次第です。

インタビュアーをお願いしたのは、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さん。豊富な知識を踏まえての的確な問いかけで、庵野監督から貴重な証言を引き出していました。「自分にとって、岡本喜八監督もそうですが、実相寺さんの作品を子供のころから観ていなかったら、『シン・ゴジラ』はありませんでした」というシメの言葉に、同席した研究会のメンバーと拍手でした。

途中、私がどうしても聞いてみたかったことを庵野監督に質問してみました。「『シン・ゴジラ』の中で、背負われながら踏切を渡る老婆を原知佐子さんにしたのは、やはり実相寺監督へのオマージュでしょうか」。すると庵野監督、真顔で、こう答えました。「ああ、あれは僕じゃなくて、樋口くん(樋口真嗣監督)ですね」と。いいなあ、このあっさりした感じ(笑)。

庵野監督は、まったくエラソーなところのない人でした。そして率直に、正直に、実相寺監督について語ってくださいました。このロングインタビューは、ぜひ『実相寺昭雄叢書I  闇への憧れ [新編]』(復刊ドットコム)で読んでみてください。



映画『シン・ゴジラ』 素人の見方

それで、昨年公開された映画『シン・ゴジラ』です。私はこの欄に並んでいらっしゃるような映画評論家の皆さんと違って、映画については、ただのファンであり、素人です。この『シン・ゴジラ』についても、あくまで「素人の見方」ということで、お許しください。

『シン・ゴジラ』は映画館で2度、観ました。いえ、続けてじゃなくて、別の日にまた観に行ったのです。で、いきなりの結論で恐縮ですが、「これは、ゴジラ映画の傑作だ!」と確信しました。

子供時代の1960年代から50年間、ゴジラ映画をほぼ全部、映画館で、リアルタイムで観てきたことを踏まえ、自信をもって言えます。たとえば、平成版のいくつか、それにアメリカ版には、困ったもんなあ。『シン・ゴジラ』は、ゴジラ映画史上の事件ともいうべき傑作です。

まず感心したのは、やはり映像ですね。何より、チャチくないし、ダサくない。迫力と、リアルと、美しさの三位一体。武蔵小杉にも、品川駅にも、確かにゴジラがいました(笑)。こうした作品で、「庵野秀明×樋口真嗣」は、現在における最強コンビですが、その期待を裏切らない出来になっていました。

次に、この作品が、ゴジラという怪獣に関して、”まっさら”なところから物語っていること。庵野監督の脚本のお手柄ですね。過去のゴジラ映画とのつながりとか、かつて日本にやってきたことがあるとか、そういう設定は一切なし。あえて断絶させています。「今、この国に、こういう生物が現れたらどうなるのか」という一点に集中して、物語が展開されている。あれこれ描こうと思えばできる中で、「日本政府VSゴジラ」に絞り込んでいる。まさに、「現実VS虚構」です。

誰もがゴジラを初めて見る。初めて街が破壊される。初めて国民の命が脅かされる。その時、日本政府の、誰が、何に、どう対応していくのか。その間も、ゴジラは破壊を続けている。その両方を、観客は見つめていく。

長谷川博己さんは、好きな役者さんの一人ですが、観る前は「センが細いんじゃないかなあ」と心配していました。でも、結果的には、なかなかの適役でした。石原さとみさんは、英語スクールのCMに出ているのも伊達じゃないぞ、という語学力を発揮して熱演しています。長谷川、石原と並ぶと、ちょっと『進撃の巨人』感が強かったけれど、まあ、それはご愛嬌ということで(笑)。

この作品のキモとなるのが、「ゴジラ」とは何か、です。庵野監督が、この映画のゴジラに何を象徴させているのか。そのことによって、『シン・ゴジラ』は、ゴジラ映画の傑作であるだけでなく、ゴジラ映画というジャンルを超えた傑作となっているのです。

まだまだ言いたいことはありますが、映画館に足を運んで損はなかったというか、映画館で観るべき1本でした。(もちろん、その後、ブルーレイも入手しましたが)

映画館から戻って、すぐ手にとったのが、'''長山靖生『ゴジラとエヴァンゲリオン』(新潮新書)'''です。著者によれば、「(この2本は)非実在の怪物でありながら、観る者たちのアイデンティティーを揺り動かす」ことで共通しているという。

『シン・ゴジラ』を手がけた庵野監督の「『怪獣』は概念で作られているものですからね。ミサイルが当っても死なないし。血も流さない。大砲の弾をはね返す生物というのは、アメリカとかでは信じられないでしょうね。(中略)生物を超えた概念の産物であって、いわゆる生き物ではないんですよ」という解釈も紹介されています。

さらに、『ゴジラ』と『エヴァ』に関する、「戦い」と「現実逃避」の考察も興味深い。ただし、『シン・ゴジラ』を観てから読んだほうがいいであろう1冊です。

また興味のある方は、以下のような本も、ご覧になってみるといいかもしれません。

藤田直哉『シン・ゴジラ論』(作品社)

この国はなぜ、「ゴジラという名の神」を必要とするのか。気鋭の批評家が、タブーと化した東日本大震災の「スペクタクル」の快にも触れながら考察する、虚構と現実。フィクションであるはずの映画の中から、3・11、天皇、科学、宗教などのリアルが浮彫りになります。

森下 達『怪獣から読む戦後ポピュラー・カルチャー~特撮映画・SFジャンル形成史』(青弓社)

『君の名は。』と並んで2016年の映画界を席巻した『シン・ゴジラ』。62年前の『ゴジラ』公開から現在まで、「特撮映画」とその解釈はいかに変遷してきたのか。特撮映画、SFジャンルの形成過程を研究する著者は、「SFという文化」と交差させながら、「非政治性」をキーワードに解読していきます。

週刊朝日で、ドラマ「民衆の敵」についてコメント

2017年12月18日 | メディアでのコメント・論評


篠原涼子のドラマ「民衆の敵」低迷中 
小池都知事のせい?

フジテレビ系のドラマ「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~」(月曜午後9時〜)が低迷中だ。

視聴率は第1話9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で、その後は6~7%台。12月4日の第7話は5.8%で、月9枠ワースト2位に。月9といえば、「東京ラブストーリー」「HERO」など高視聴率のトレンディードラマの象徴だった。

「民衆の敵」は、篠原涼子演じる子育て中の女性がヒロイン。市議会議員の高額報酬を知り、生活費のために立候補を決断する。とんとん拍子に成功を重ね、今や市長へとのぼりつめた。

ドラマ評論家の吉田潮さんは「漢字も資料も読めなくて大丈夫?と思っていたら、あっという間に市長。篠原さんはいい女優ですが、いつもがさつな役。がさつなヒロインはもう古い。中途半端に母親層を取り込もうという薄っぺらさも透け、共感の要素が感じられません」と話す。

女性と政治をからめた設定は、小池百合子・東京都知事の活躍を当て込んでいたとうかがえる。10月の衆院選で小池氏率いる希望の党は惨敗、小池氏への関心も急低下した。

上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は「小池さんあやかり商法、見事に読み違えました」と指摘し、こう続ける。

「企画段階では小池さんの勢いがあったはず。衆院選での『排除』発言がなければ、小池さんも出馬して国会議員となり、やがて小池首相という雰囲気で放送できたかもしれません。何とも空虚な状況になりました」


吉田さんもこう語る。

「小池さんを思わせる女性の登場など、意図はわかります。ただ、政治をちゃかしたり、揶揄(やゆ)したりするならば、ガンガンやらないと。うっすらとなぞるだけでは視聴率は取れません」

小池人気低落でも、魅力的なドラマならば視聴者もついてくる。碓井教授はこの点の安直さも指摘する。

「一主婦が市議、市長になる展開は、女性視聴者に対して、代わりに夢を叶えましょう、こんな世界好きでしょう、というちょっと上から目線が透けて見えます」


ドラマは残り数話。最終回に向け、視聴率急上昇は見込みにくい。「森友・加計問題など、現実政治のほうが登場人物も動向もはるかにおもしろい」とテレビ関係者。確かにそうかも。【本誌・松岡かすみ】

(週刊朝日 2017年12月22日号)

2017年に、映画館で観た映画

2017年12月17日 | 映画・ビデオ・映像



2017年に、映画館で観た映画は以下の通りです。

今年もまた、何を観たのか、忘れてしまいそうなので(笑)、ここに記録しておきます。


<1月>
ドクター・ストレンジ

ザ・コンサルタント

マグニフィセント・セブン

本能寺ホテル


<2月>
ラ・ラ・ランド

マリアンヌ

ナイスガイズ!


<3月>
キングコング

パッセンジャー

チア☆ダン


<4月>
ゴースト・イン・ザ・シェル

暗黒女子

グレートウオール


<5月>
メッセージ


<6月>
ハクソー・リッジ


<7月>
ライフ


<8月>
トランスフォーマー最後の騎士


<9月>
ダンケルク

三度目の殺人

ドリーム


<10月>
猿の惑星 聖戦記


<11月>
ローガン・ラッキー


<12月>
オリエント急行殺人事件

スター・ウオーズ 最後のジェダイ

書評した本: ビートたけし 『バカ論』ほか

2017年12月16日 | 書評した本たち


「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

ビートたけし 『バカ論』
新潮新書 778円

木の葉が沈んで石が浮くような、道理の通らないことだらけの平成ニッポン。芸能レポーターの無意味な質問から、オウンゴールで衰退するテレビ局まで、ビートたけしが「バカ」をキーワードに斬りまくる。これだけの“見識”を披露できるのも活字のチカラだ。


大沢在昌 『覆面作家』
講談社 1512円

推理作家の「私」が主人公の連作集。小説とはいえ、著者とイメージが重なるところがミソだ。自分の体験を小説にして欲しいと言う男。キャバクラ嬢たちを自宅に送るドライバーの秘密。噂の覆面作家をめぐって甦る旧友との過去。虚実の境目を存分に楽しめる。

(週刊新潮 2017年12月7日号)






【気まぐれ写真館】 冬の夕暮れ 今年もあと半月

2017年12月15日 | 気まぐれ写真館
2017.12.14

内山理名「マチ工場のオンナ」 女社長を“体育会系”で好演

2017年12月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



NHKドラマ10「マチ工場のオンナ」
内憂外患の主婦社長を内山理名が好演


3年前に出版された諏訪貴子「町工場の娘」は、経営者だった父が急逝し、普通の主婦から突然社長になった著者の回想記だ。

この本が原作の「マチ工場のオンナ」では、物語の舞台を東京の大田区から名古屋へと移している。主演はNHK連ドラ初主演となる内山理名(36)だ。

有元光(内山)は父・泰造(舘ひろし)に可愛がられて育った。しかし成長するにつれ、亡くなった兄の代わりに会社を継がせようとする父に反発して、結婚後は距離を置いてきた。それが、まさかの社長就任である。

光は倒産を避けようとリストラを断行し、社内は一気に険悪ムードだ。また銀行からは素人経営者として雑に扱われる。さらに夫の海外赴任が決まるが、自分は同行することができず、幼い息子の気持ちも揺れ動く。

そんな内憂外患だらけの主婦社長を、内山が明るく演じている。悩んだりはするが、最後は自分の意思で決定し、結果も自分で引き受けていく。このドラマでは、内山が持つ“体育会系資質”がうまく生かされている。

すでに原作にもある、工場内の「整理・整頓」大作戦や、若手社員の意見を聞く「悪口会議」なども実施。少しずつだが、会社も光自身も変わり始めた。ずっと父を支えてきた2人の古参社員(竹中直人、柳沢慎吾)の存在感が光る分、会社の経営も主演の内山も、後半戦からが本当の勝負だ。

(日刊ゲンダイ 2017.12.13)


2つの「ライバル物語」でよみがえる、昭和の音楽界

2017年12月13日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



2つの「ライバル物語」でよみがえる、
昭和の音楽界

「平成」という元号が役目を終える日も見えてきた昨今。「昭和」はますます遠くなるような気がします。しかし、“音楽の時代”としての昭和の相貌は、逆に鮮明になってきたように思えます。2冊の近刊で描かれた、2つの「ライバル物語」もその一つです。

ポピュラー音楽・・・阿久悠と松本隆

今年は、作詞家の阿久悠さんが亡くなってから、ちょうど10年にあたります。中川右介:著『阿久悠と松本隆』(朝日新書)はタイトル通り、不世出の作詞家2人の軌跡を描いています。

1971年、『スター誕生!』(日本テレビ系)が始まりました。企画から関わっていた阿久さんですが、森昌子さんや桜田淳子さんとは違って、山口百恵さんとの間には距離を置きました。彼女にはレコード会社CBSソニーの敏腕プロデューサー、酒井政利さんがついていたためです。やがて百恵さんは沢田研二さん、ピンク・レディーの2人など、阿久さんが手がける歌手たちにとって、最大のライバルとなっていきます。

一方の松本隆さんは、慶應の学生だった60年代末に、細野晴臣さんたちとバンドを組みました。これが後に、初めて日本語でロックを歌った伝説のバンド「はっぴいえんど」(メンバーは大瀧詠一、 細野晴臣、 松本隆、 鈴木茂)につながっていきます。

74年にアグネス・チャンさんの「ポケットいっぱいの秘密」の作詞で周囲を驚かせますが、松本さんが注目を集めたのは、やはり太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」でしょう。この曲の発売は、阿久さんが詞を書いた、都はるみさんの「北の宿から」と同じ75年です。「♪恋人よ 僕は旅立つ」で始まり4番まである、当時としては異例の長さ。しかも歌詞の中で、男女の視点が頻繁に入れ替わるという革新的な曲でした。

阿久悠さんと松本隆さん、それぞれの“取り組み”をカットバックさせながら、著者はアイドル全盛時代へと向かう音楽界と時代状況を活写していきますが、両者が一瞬交差するのが81年です。3月にピンク・レディーが解散し、阿久さんは「大人の歌」の作り手へと変化していきます。この年、松本さんは松田聖子さんに「白いパラソル」を提供し、寺尾聰さんの「ルビーの指環」でレコード大賞を獲得します。

歌謡曲という枠組みの中で改革を進めた阿久悠さん。異端者であるがゆえに、その枠組みからも自由だった松本隆さん。音楽と社会意識をリンクさせていく本書は、いわば“もう一つの現代史”です。

クラシック音楽・・・山本直純と小澤征爾

今年、没後15年を迎えたのが、作曲家で指揮者の山本直純(なおずみ)さんです。柴田克彦:著『山本直純と小澤征爾』(朝日新書)の序には、音楽番組『オーケストラがやって来た』(1972年~83年、TBS系)を手がけた、テレビマンユニオンの萩元晴彦プロデューサーの名言が記されています。いわく、「直純は音楽を大衆化し、小澤は大衆を音楽化した」。

山本直純さんと小澤征爾さんは、共に「サイトウ・キネン・オーケストラ」に名を残す、齋藤秀雄先生の門下生です。一見対照的な2人ですが、修業時代から深い友情で結ばれ、互いに尊敬し合っていました。著者は本書で、世界のオザワに「本当に直純さんには、かなわない」と言わせた音楽家、直純さんにスポットを当てていきます。

若い頃から指揮者として、また作曲家として活躍していた直純さんですが、顔と名前が広く知られるようになるのは1968年、チョコレートのCMがきっかけでした。森永製菓の「エールチョコレート」ですね。気球に乗り、真っ赤なジャケットで指揮をする姿には、「大きいことは、いいことだ!」というCMソング以上のインパクトがあったのです。

驚くべきは、直純さんが手がけた膨大な仕事量と質の高さです。指揮者の仕事と同時並行で、『男はつらいよ』などの映画音楽、『8時だヨ!全員集合』(1969年~85年、TBS系)をはじめとするテレビ番組のテーマ曲を作り、『オケ来た』の出演も続けました。しかし、その過剰なほど幅広い活動ゆえに、クラシック界ではどこか異端視されていたと著者は言います。当時は確かに、そうだったかもしれません。

直純さんが亡くなったのは、小澤さんとの出会いから約半世紀後、2002年6月のことでした。享年69。

遥か昭和の時代、若き日の直純さんが、小澤さんにこう言ったそうです。「オレはその(クラシック界の)底辺を広げる仕事をするから、お前はヨーロッパへ行って頂点を目指せ!」と。その後、2人の天才は、まさにこの言葉を実践しながら生きたのでした。

産経新聞で、「流行語大賞」について解説

2017年12月12日 | メディアでのコメント・論評


「流行語」を考えた 
言葉そのものも終焉か

「流行語」という言葉が終焉を迎えつつあるようだ。年末恒例の「新語・流行語大賞」も、このところは発表されるたびに「流行語」への賛否が語られ、今年は選考委員側も「そもそも流行語とは何か?」という根源的な疑義を呈した。また、インターネット、そしてスマートフォンの普及で、言葉の「世代間の差」や「使用するサービスによる差」が明確になりつつある。果たして今、「流行語」は、どのような場所に立っているのか。

 ■かつては「新人類」「バブル経済」

その年に話題となった言葉に贈られる「現代用語の基礎知識選 ユーキャン新語・流行語大賞2017」。1984年に始まった“老舗”の賞が12月1日に発表され、年間大賞に「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」の2語を選んだ。

自由国民社の「現代用語の基礎知識」に収録する30語を、同社と同社が委託した事務局が大賞候補としてノミネート。今年は5人の選考委員が、この中からトップテンと年間大賞を選んだ。

同賞は、「流行語」という概念を社会に定着させてきた。同賞が選んだ「新人類」(86年・流行語部門金賞)や「バブル経済」(90年・流行語部門銀賞)、「Jリーグ」(93年・年間大賞)などの流行語は、その年の世相を鮮やかに映し出し、大勢の人の口の端に上った。

しかし、近年はその選考に疑義を呈する声が相次いでいる。「トリプルスリー」(15年年間大賞)と「神ってる」(16年年間大賞)は当時、野球ファン以外にはあまりなじみがないと指摘された。また、「アベ政治を許さない」(15年トップテン)や「保育園落ちた日本死ね」(16年トップテン)など、いわゆる左派の人やマスコミが使ったキーワードが選ばれ、「偏向している」などと物議を醸した。

 ■そもそも流行語とは…

「そもそも流行語とか、新語というのは、一体なんだったかなぁ…ということを自分自身考えてしまうような、そんな1年間だったかなと思います」

東京都内のホテルで開かれた「新語・流行語大賞」発表会。選考委員の女優、室井滋さんは、率直な疑問を口にした。

「ネットから生まれ、そしてネットで消費されていく言葉というのも多いなと思いました」

同じく選考委員で歌人の俵万智さんは、インターネットの普及に伴い、以前と比べて言葉の“賞味期限”が短くなったと指摘。

ほかの選考委員も今年は「流行語の概念」を改めて問い直したことを明かすコメントを発表している。

 ■「紅白」と同じ道に?

このことは、大勢の人に共感をもって迎えられる言葉が出てくることの難しさを意味しているのかもしれない。

「最近の流行語には、『これぞ!』というものがありません」と指摘するのは、上智大の碓井広義教授(メディア文化論)だ。

「(選ばれるのは)めったに耳にしない言葉や、一部の人しか使っていない言葉のように思える年もあります。多くが流行語というより、いわば『今どき語』です」

今日的な言葉ではあるが、広く使われた言葉ではない、というのだ。

「そもそも、『流行語』の定義自体があいまいになっているのでは」

碓井教授によると、言葉を広める媒体はこれまで、テレビや新聞、雑誌などのマスメディアに限られていた。しかし、ネットの普及が状況を一変させた。とりわけスマホとSNS(会員制交流サービス)の普及は「流行」を分散化し、使う言葉の「世代間の差」を強めたという。

碓井教授は、そのことを「『流行語』は、NHK紅白歌合戦やレコード大賞がたどったのと同じ道を歩みつつある」と表現する。

「かつての紅白やレコ大は、見ればその1年間の音楽状況を振り返ることができましたよね。ただ、最近は人々の趣味嗜好(しこう)が分散してきて、『この1曲が今年の曲だ』といえなくなりました。良くも悪くも、時代の流れといえるのではないでしょうか」


 ■検索=みんなが選ぶ?

その一方で、対照的といえる光景が、12月6日に東京都内で開かれた「Yahoo!検索大賞2017」の発表会で見られた。

「スマートフォンを使った検索は、国民のみなさまの能動的な意思が表れている。特定の審査員がいて決めるのではなく、みんなが決めるアワード(賞)なのです」

同賞を主催するIT大手ヤフーの片岡裕・執行役員メディアカンパニー長は、自信たっぷりに語った。

同賞は特定の選考委員が決める「新語・流行語大賞」とは異なり、1月1日~11月1日の1日平均検索数を調査し、前年比で最も急上昇した人物や商品、言葉などを表彰。14年から始まった新しい賞だ。

同社の宮沢弦・上級執行役員メディアグループ長は「その年に最も検索された方というのは、その年を表すだけではなく、日本を代表する活躍をされた方と言うのにふさわしい」とあいさつ。この言葉を裏付けるように、会場には華やかなメンバーが集まった。

大賞に輝いたお笑いタレント、ブルゾンちえみさんに人気俳優の高橋一生さん。勢いのあるアイドルグループ「欅坂46」に、人気アニメ「けものフレンズ」の声優、尾崎由香さん。また、ノーベル文学賞に決まった英作家、カズオ・イシグロさんもビデオメッセージを寄せた。

一方、「新語・流行語大賞」は芸能人の欠席が相次いだ。授賞式に出席すると「一発屋」で終わるという、同賞にとって迷惑なジンクスまで広まり、賞そのものの定義づけが岐路に立たされている。

 ■忖度は「三冠王」

この点をみると、今年は「新語・流行語大賞」より「Yahoo!検索大賞」が注目を集めたといえるが、このことについて、碓井教授は「時代の変化を物語る、象徴的な出来事だ」と指摘する。

「大勢の人がネットで検索をしたということは、それが流行であるという客観的な数字の根拠があるということ。ある種の説得力があります」

ただ、碓井教授は「ネットの世論=現実の世論ではないことを忘れてはいけないと思います」とクギをさす。


この指摘は、新語・流行語大賞の選考委員である俵さんの、「ネットで充実するということと、現実の世界で充実するということが、どれくらい離れ、どれくらい重なっているのかも考えさせられました」という言葉にも重なる。

ところで、ヤフー検索大賞の「流行語部門賞」は、「新語・流行語大賞」と同じく「忖度」だった。三省堂が12月3日に発表した「辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2017』」の大賞も同じ結果だった。

有識者にネット世論、そして言葉のプロ。この3者の意見が一致したという意味で、「忖度」は確かに、今年を代表する言葉だったといえるのかもしれない。

 ■「マ?」「まじ卍」「ンゴ」

一方、ブログ、ライン、ツイッター、インスタグラム…。インターネット上のそれぞれのサービスごとに言葉は多様化している。これに伴い、独自に“進化”した言葉を表彰する「流行語大賞」自体も増えている。

例えば、07年に始まった「ネット流行語大賞」は、ネット上で話題となった流行語を投票形式で決める賞。これまで「※ただしイケメンに限る」(09年・金賞)や「ステマ」(12年・金賞)などが選ばれており、一部のネットユーザー以外は聞いたことがなさそうな言葉が並ぶ。今年の金賞は任天堂の人気ゲーム機「Nintendo Switch」だった。

また、女性向けエンタメ情報サイトが毎年発表する「ギャル流行語大賞」は、今年の1位に「マ?」を選出した。「マジ?」を簡略化した言葉だという。

さらに、女子中学生・女子高生の流行語を選ぶ「JC・JK流行語大賞」という賞も。かわいい、すごい、調子がいいなどを感覚的に表現する「まじ卍」や、語尾に付けることで語感が良くなるという「ンゴ」などが受賞した。このように、世代やグループに特化した賞も続々登場している。

碓井教授は「『活字離れ』と当たり前のように言われますが、逆にネットのおかげで文字に触れるケースが増えているのも事実。これまでとは違う意味で、言葉がとらえ直される時代が来ているのではないでしょうか」と話している。【文化部 本間英士】

(産経新聞 2017年12月11日)

女性自身で、アニメ「サザエさん」について解説

2017年12月11日 | メディアでのコメント・論評



コミュニケーション能力を高めるツールに
「サザエさん」の新しい楽しみ方

48年間にわたりCMを提供してきた東芝のスポンサー降板、現代社会とのギャップ……。'69年10月にスタートし、日曜夜の顔として半世紀近く愛されているアニメ『サザエさん』(フジテレビ系)が苦境に立たされている。

そんな“磯野家の危機”を救うため、本誌では、『サザエさん」のイマドキの楽しみ方を集めてみた。

■コミュニケーション能力を高めるビジネスツールに

「『サザエさん』を見ているだけで、コミュニケーション能力が身につくのです」

こう話すのは、コラムニストのペリー荻野さん。

「今は人付き合いを苦手にする若者が増えたり、ひと言も言葉を交わさずに買い物ができたりする時代。職場では、コミュニケーション能力の高さが求められています。『サザエさん』には、カツオと“裏のおじいさんやおばあさん”とのやり取り、マスオさんとアナゴさんとの交流、サザエさんと三河屋の三郎さんや隣に住む伊佐坂先生とのおしゃべりなど、多くの会話が出てきます。そこには近所の人や目上の人とどう接すればいいか、さらには会社での人付き合いなど、コミュニケーション能力を向上させてくれるヒントが満載なのです」

ペリーさんは「『サザエさん』に秘められた“コミュニケーション向上テク”は、ほかにもある」と続ける。

「あれだけの国民的アニメを一度も見ないで育ったという人は皆無に近いでしょう。それは幅広い年齢層で共有できるということ。世代によって異なる価値観があるなか『サザエさん』というテーマならば、老若男女が分け隔てなく話すことができます。『サザエさん』には、各年代の年齢にあったキャラクターがあり、誰もが共感しやすい。職場における世代間の隙間を埋め、潤滑油になる、貴重な番組なのです」

■磯野家の日常を覗き見て自律神経を整える

第1回の放映から欠かさずに見ているという上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、『サザエさん』で毎週、癒されているという。

「初回の放映時に、中学生だった私は、カツオの目線で見ていましたが、やがてマスオさんに並び、気がついたら、波平さんの年齢を追い越してしまいました(笑)。しかし、自分や世の中が変化しようとも、変わらずにいてくれる。そんな『サザエさん』を見ていると、どこか遠い親戚に会っているような気持ちになるのです。とくにすごいスピードで進んでいく現代社会に追い立てられるように暮らしている私たちにとって、普遍的な『サザエさん』は、“心の故郷”。見るだけで、心の安らぎが得られるはずです」

テーマ曲を聴いただけで「あ~明日から仕事か……」と、月曜がくることを憂う“サザエさん症候群”と呼ばれるものもあるが……。

「私は、番組を見ることで頭がリフレッシュされ、自律神経が整い、月曜に向けて活力が湧いてくる『逆サザエさん症候群』です」と、碓井先生。

「磯野一家にはインターネットもなければ、スマホを使っている人もいません。そして時間に追い立てられることなく、幸せに過ごしているのです。人や社会とつながっていないことの不安から、私たちは、ネットやスマホが手放せません。しかし『サザエさん』は、“つながることは、そんなに大切なこと?”と問いかけてくるのです。夫婦や家族、近所との付き合いなど“ほどよいつながり”で人は幸せに暮らせることを日曜の夜に確認することで、肩の力を抜いて、月曜を迎えられるのです」


(女性自身 2017年12月10日)

書評した本: 水田増生 『ユニクロ潜入一年』ほか

2017年12月10日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

現場で目にした厳しい労働の実態
横田増生 『ユニクロ潜入一年』

文藝春秋 1620円

これまでに、横田増生が潜入取材の手法で書いたノンフィクションとしては、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)や『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)などがある。

そしてユニクロを扱った著書が『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫)だ。この本はユニクロ側が名誉毀損で訴えたため、最高裁まで争った(上告は棄却)。しかし横田は調査を続ける。その後、潜入取材を敢行した成果が『ユニクロ潜入一年』だ。

潜入前、すでにユニクロ側に名前が知られていたことから、横田は大胆な行動に出る。一旦妻と離婚した上で再婚し、名字を変えてアルバイトに応募したのだ。そうやって入り込んだ現場で目にしたのは、「働き方改革」などどこ吹く風という、厳しい労働の実態だった。

たとえば、ユニクロが導入した「地域正社員制度」。ブラック企業批判のやり玉にあがったのが店長のサービス残業であり、その集中的な業務負担を分散する策として出来たのがこの制度だ。ところが実際には、アルバイトから地域正社員への道は険しい。バイトやパートの人間は閑散期にはあまりシフトに入れられず、当日になってLINEで出勤を強く要請されるのだ。まるで日雇い労働者のようであり、しかも時給は安い。

ユニクロの労働供給源は主婦と大学生だ。ある女子学生がバイトを辞めたいと申し出た時、「いったんユニクロに入ったら、卒業するまで働くことになっている。途中で辞めるのは契約違反だ」と店長が圧力をかけてきたという。肝心の契約書には、元々契約終了の日付が記載されていなかったのにだ。

もっとも、本書が捉えたような労働実態は、じつは多かれ少なかれ、日本中のあちこちにある。そこに通底するのは、「働く人を大切にしない」というシンプルな事実。本書の内容を反面教師に、本物の「働き方改革」をあらためて考えたい。



鹿島 茂 『最強の女』

祥伝社 2052円

その時代の最高の男たちに愛されること。それが「最強の女」の条件だと著者は言う。天才ダリを魅了したガラ。マン・レイの恋人で愛人だったリー・ミラー。ニーチェとフロイトという二大巨人を虜にしたルー・ザロメ。5人の女神が秘めていた真の魅力とは?


石井光太 『世界で一番のクリスマス』
文藝春秋 1620円

ノンフィクションの俊英による、風俗業界に生きる男と女の物語5編。舞台は東京の上野界隈だ。高校の同級生と女性用デートクラブを介して再会する男。ずっと距離を置いてきたAV女優の姉の実像を知るシングルマザー。彼らを見つめる著者の目は切なくて優しい。


野地秩嘉 
『成功者が実践する「小さなコンセプト」』

光文社新書 886円

山下達郎は「相手に合わせる能力」を身につけている。秋元康は「提案のデメリット」を伝える。鈴木敏文は「未来は過去の延長ではない」と言い続ける。成功者たちが長期間守っている、自分との約束。本書は読者が自身のコンセプトを見つけるためのヒント集だ。


小林聡美 『ていだん』
中央公論新社 1728円

個性派女優の鼎談集。何よりテーマとゲストの人選が魅力的だ。柳家小三治とエッセイストの酒井順子で「芸は身を助けるか?」。江戸家子猫と南伸坊で「なぜ、まねるのか?」。軽妙な会話にも関わらず、思わぬ深みに達していたりする。著者ならではの18番勝負だ。


山田真由美:文、なかむらるみ:絵 
『おじさん酒場』

亜紀書房 1512円

おじさん酒場とは「そこにいるだけで店のおさまりがよくなる」おじさんたちが呑んでいる居酒屋のこと。著者の鋭い観察眼によって店の佇まいはもちろん、店主と客の雰囲気が伝わってくる。巻末に置かれた、居酒屋名人・太田和彦との鼎談も大吟醸の味わいだ。

(週刊新潮 2017年11月30日号)

『東大王』は、クイズ番組の「新たな王道」か!?

2017年12月09日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


いまテレビ各局で、クイズ番組が放送されています。ちょっとしたクイズ番組ブームみたいな状況です。

そんな中で、注目しているのが『東大王』(TBS系、日曜夜7時)です。「最強頭脳バトル」とは言い得て妙で、いろんなタイプのクイズがある中で、この番組は余計な仕掛けや演出をせず、「実力主義」に徹しています。それが特色であり、人気の秘密だと思います。

なぜ「東大」なのか、という疑問をもつ人もいるでしょうね。少子化によって、数字の上では、希望すれば受験生全員がどこかの大学に入れる「大学全入の時代」です。

そうなってみると、一種の二極化が進行し、片方の極の頂点にいる東大の価値が、逆に目立つようになってしまったのではないでしょうか。制作側が照れることなく、あえてタイトルに(学歴社会の象徴である)「東大」を入れているところが、むしろ「今どき」なのかもしれません。

教養エンターテインメントとしての『東大王』

『東大王』の出題は、まさに難問ばかりで、なかなか正答できない。問題のレベルが高いことで、いわば「教養エンターテインメント」になっています。

「知識は持たなくても、検索すればいいじゃん」という、なんでもスマホ任せの検索時代。ものを知らないことが恥ずかしくなくなった、アンチ教養の時代。そんな時代に、知識を競い合うなんて時代に逆行しているのかもしれません(笑)。

しかし、往年の人気クイズ番組『クイズ面白ゼミナール』(NHK)の司会をしていた鈴木健二アナウンサーは、番組の冒頭でいつも言っていました。「知るは楽しみなり」と。

そう、知識って、確かに人生を豊かにする側面があるんですよね。「雑草という名前の草はない」と言われますが、草の名前を知っていることで世界が広がることもある。

『東大王』の特徴

しかもこの番組、妙なひねりや引っ掛けなどはなく、基本は実にシンプルです。

「難問」に特化したことで、見ている側は自分が正解すると、結構嬉しい。「東大王」である東大生たちが間違えるのも、かなり嬉しい(笑)。

テレビらしく「映像」をうまく取り入れているのも、この番組の特徴です。たとえば、野菜の顕微鏡写真を見せて、正解は「ブロッコリー」。また「地図の形」から都道府県名を当てさせたり、「彫刻」のアップの映像を見せて、作品名を問う。正解はロダン「地獄の門」とか。

「世界遺産」がらみの出題が多いのも、ズバリ『世界遺産』という番組を放送している、この局ならではの資源活用です。何しろ、世界遺産の映像なら売るほどありますから。

映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のラストシーンで、ルーク・スカイウォーカーが立っていた島の名前が出題され、アイルランドの世界遺産「スケリッグ・マイケル島」であることを知った時など、「SW」ファンとして、ちょっとした喜びでした(笑)。

『東大王』の演出

それから、この番組では、回答者が正解に行き着いた過程を、自ら「解説」する点も面白い。それだけの知識を持っている証拠ですし、ナレーションによる解説よりも、聞きたくなります。

また、チーム形式とはいえ、「個」を大事にしていることも、上手な演出です。たとえば、ちょっと斜に構えた東大医学部の水上くんをはじめ、見ているうちに、それぞれのキャラクターを楽しめたりします。

そして、司会者がらみの余計な演出がなく、クイズに集中できるのもいいですね。MCのヒロミさん。サブの山里亮太さん。クイズ番組の司会者って、自分が正解を知っているからって、時々ヘンにエラソーじゃないですか(笑)。

でも、このコンビは偉そうにしていません。自分が知らなかったことを知って驚く。自分が知らなかったことを知っている人に感心する。いい意味での「視聴者目線」に好感がもてます。

日本人と「クイズ好きのDNA」

余談ですが、日本人とクイズについて、少しだけ・・・。

江戸時代のゲームに「判じ物」があります。絵や文字に意味を隠して、それをあてさせる、というゲームで、「地名」や「人の名前」が出題されることが多かったそうです。これって『東大王』と共通してますよね。

最新のクイズ番組が、実は江戸以来のクイズゲームの伝統を継承している・・・なんて、ちょっと面白いと思います。

「クイズ番組」ということになると、これは戦後の話です。マッカーサー率いるGHQが日本にやってきましたが、放送(当時はラジオ)を日本人の民主化に利用しようとしたんですね。

その指導のもと、NHKはアメリカの番組をモデルに、ラジオで『話の泉』『二十の扉』といった、娯楽と啓蒙のクイズ番組の放送を開始しました。その後、1953年からテレビ放送が始まると、もはやGHQとは無関係に、クイズ番組はますます盛んになっていきます。

テレビから「さて、ここで問題です!」と呼びかけられると、わたしたちは、つい反応してしまう(笑)。問われると、日本人は根がマジメだから、瞬間的に回答を考えてしまう。また勉強好きなので、正解を知ろうとしてしまう。「ここで問題です!」に対する反応は、わたしたち日本人の中に、何十年もかけて「クイズ好きのDNA」が浸透してきたことの成果なのです。

クイズ番組、3つの「楽しみ方」

クイズ番組には「問い」があって、「答え」がある。というか、クイズ番組のルールは、それだけなんですね。このシンプルなルールに合意するだけで、視聴者も「参加」できる。これが大きいです。

視聴者がクイズ番組を見るとき、3つの「楽しみ方」があります。まず、回答者と一緒に「問題を考えること」。次が「勝負を楽しむこと」。もう一つが、回答者の「頭脳に感心すること」。『東大王』は、これら3つの楽しみ方がすべて可能です。

さらに、この番組では、何より強い者、つまり知識が豊富な者が勝つ、という基本原理がいっそ気持ちいい(笑)。

わたしたちの中には、ジャンルを問わず「すごい人を見たい!」という願望があるような気がします。クイズ番組で言えば、かつて大橋巨泉さんが司会をしていた『クイズダービー』(TBS系)。漫画家の、はらたいらさんが凄かったですねえ。

『東大王』は、この「すごい人を見たい!願望」を満たしてくれる1本であり、他のクイズバラエティ番組に飽き足らない視聴者に応える1本になっているのだと思います。

『東大王』のこれから

さて、今後の『東大王』ですが・・・。

クイズ番組の命は「出題」です。これは、かつて『健康クイズ』(フジテレビ系)という番組のプロデューサーを務めていた経験からも言える真理です。

特に『東大王』の場合は、難易度の「さじ加減」が難しい。問題がやさしすぎても、また難しすぎても、視聴者は考える(参加する)意欲を削がれます。このバランスを探りながら維持することが何より重要なのです。

私が20年所属していた「テレビマンユニオン」は、以前『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)を制作していました。その『ウルトラ』のチームも、「作問」に大きなエネルギーを注いでいたものです。それは現在、テレビマンユニオンが制作している『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS系)でも同様です。

膨大な数の問題を作り、ふるいにかけ、シミュレーションを行い、さらに厳選していく。『東大王』の制作陣も、同じような努力を日々続けているはずです。

もう一つ。「東大王」である東大生たちの存在が、この番組の核となっています。彼らは確かにすばらしいのですが、ずっと依存したままではいられません。次の「東大王」、そして次の次の「東大王」を探し出し、育てていくことが必要です。

全体として、『東大王』はクイズ本来の面白さを再発見した、「新たな王道」ともいうべきクイズ番組ではないでしょうか。毎週、あるクオリティで作り続けることは本当に大変だと思いますが、楽しみにしている視聴者のためにも、ぜひ頑張ってほしいものです。

日曜劇場「陸王」 個性と力量光る福澤克雄の演出

2017年12月08日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、日曜劇場「陸王」について書きました。


個性と力量光る福澤克雄の演出

日曜劇場「陸王」(TBS―HBC)の舞台は、埼玉県行田市にある老舗足袋メーカー「こはぜ屋」。昔ながらの足袋作りだけでは会社の将来が危ういと考えた、4代目社長の宮沢(役所広司)が新製品の開発に乗り出す。それがランニングシューズ「陸王」だ。

当初、銀行は実績がないことを理由に融資を渋るどころか、20人しかいない社員のリストラを強要してきた。しかし宮沢は、「これ(陸王)は、こはぜ屋100年の歴史を支えてきた社員から託された“たすき”です!社員たち一人一人がこのたすきを繋ぐランナーなんです」と言ってそれをはねつける。

その後も難題が待ち構えていた。試作品が出来ても、大手メーカーに囲い込まれている一流のランナーは履いてくれない。見込んだ茂木選手(竹内涼真)をサポートできるようになるまでには多くの時間を費やした。素材の調達も大変で、シューズの底に最適な「シルクレイ」という新素材の特許を持つ飯山(寺尾聰)の協力を得るのに苦労した。さらに、ようやく手に入れた本体部分の繊維素材も大手に横取りされてしまう。

こうした「立ちはだかる壁」を次々と設定することで物語に起伏が生まれ、それを乗り越える姿に見る側の共感が広っていく。原作はドラマチックな展開に定評がある池井戸潤の小説。脚本の八津弘幸をはじめとする制作陣も、「半沢直樹」「下町ロケット」などの“池井戸ドラマ”をヒットさせてきた面々だ。

中でも福澤克雄ディレクターの存在が大きい。池井戸作品以外にも日曜劇場の「南極物語」や「華麗なる一族」などを手がけてきたが、“男のドラマ”の見せ方が実に巧みなのだ。物語の流れにおける緩急のつけ方。登場人物のキャラクターの際立たせ方。映像におけるアップと引きの効果的な使い方などに「福澤調」と呼びたくなる個性が光る。

かつてTBSのドラマ部門には、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」の久世光彦、「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」の大山勝美や鴨下信一といった看板ディレクターがいた。いつの頃からか「映画は監督のもの」で、「ドラマはプロデューサーのもの」という雰囲気が出来ている。

しかし、ドラマもまた演出家の個性と力量で、作品の出来が左右されるはずなのだ。画面を見ただけで福澤ディレクターの演出だとわかる作品は、「久世ドラマ」などと同様、「福澤ドラマ」と呼んでいい。そんな“署名性のあるドラマ”を見る楽しみが、この「陸王」にはある。

(北海道新聞 2017.12.05)

“実力主義”の「東大王」でクイズ番組の魅力を再発見

2017年12月07日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



TBS系「東大王」
クイズ番組の「3つ」の楽しみ方の
全てが詰まっている

クイズ番組「東大王」の魅力は、その実力主義にある。強い者が勝つというシンプルな構造が人気の秘密だ。話題の芸能や時事ネタを排した難問ばかりだが、簡単すぎても難しすぎても視聴者は考える気をなくしてしまう。

「東大王」の出題はこのバランスが絶妙なのだ。また正答した出場者が問題について自ら解説する趣向も効いている。

テレビ放送が始まって64年。その草創期から現在まで、クイズ番組がなかった時代はない。根がマジメで勉強好きな日本人にピッタリな娯楽であり、「ここで問題です!」と言われると、つい答えを考えてしまうのだ。

視聴者がクイズ番組を見るとき、3つの「楽しみ方」がある。まず、解答者と一緒に問題を考えること。次が勝負を楽しむこと。もう一つが、解答者の頭脳に感心することだ。この番組には、そんな3つの楽しみ方が全て詰まっている。

先日の「東大生VS高校生」は特に面白かった。年齢やキャリアとは関係なく、実力さえあれば同じ土俵で勝負できる“ガチバトル”であることが証明されたからだ。

全体として、クイズ本来の面白さを再発見した感のある「東大王」。正解を連発する東大生たちの存在が、この番組の核となっている。しかし、彼らに依存したままではいられない。次の「東大王」を探し出し、育てていくことが必要だろう。

(日刊ゲンダイ 2017年12月7日)