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海賊とよばれた男

2013年08月08日 | Weblog
2013年本屋大賞に選ばれた百田尚樹さんの『海賊とよばれた男』を読破しました(ネタバレあり)

自分は小説系をあまり読まないのですが、両親がしきりに薦めるので読んでみました。冒頭に「この物語に登場する男たちは実在した」と書かれていて、パラパラと数p読んだ所でその意味がわかりました。どうやらフィクションではなく、「出光興産」の店主をモチーフにした伝記物語のようなもののようです。実は自分、基本的にいつも出光でしかガソリンを入れていません。思い出してみると学生の頃に初めてガソリンを入れる時、父に出光を薦められ、「違うメーカーのガソリンを混ぜるのはよくないよ」といわれて以来、遠出先やガス欠で本当に困ったとき以外、常に出光を探して入れていました。「1円でも安ければいい」という風潮があるこの業界の中で、何か特別なものを感じていたような気がします。そして、この話を読むと、その感覚が間違いでなかったと確信できた、というより、この出光興産は単なる一石油会社でなく、とんでもない信念と先見性を胸に秘めた会社であったことがよくわかりました。結論だけ先に書くと、自分は今後も少しぐらい高くなろうが出光でガソリンを入れ続けることでしょう。

そんな出光興産の創業者である出光佐三さんの一生を、国岡鐵造(てつぞう)という人物として描いてありました。人間の一生を季節に例える「青春・朱夏・白秋・玄冬」という言葉で章立てしているのですが、面白いのがいきなり「青春」に当たる少年時代を後回しにして「朱夏」から始まっているところです。しかも終戦後、齢60というところからのスタート。昔の平均余命のような年から「夏」がスタートするわけは、読んでいけばわかるのですが、95歳で亡くなる最後まで本当にエネルギッシュで自分を曲げない人物だったようです。
定年なし。タイムカードなし。労働組合もなし。徹底した大家族主義を貫き、戦後の混乱期に全財産を無くしながらも、一人もクビにしなかったとか。その特異な経営方針は、時に同業者や政策からも孤立し、創業当時から一大企業になった頃まで、あからさまな嫌がらせも受けていたようです。しかしそんな中でただ一人、打算や欲などでなく、純粋に石油業界や日本の未来を見つめ、信念を貫いていくことで、結果的に会社をどんどん大きくしていく、痛快なストーリーでした。特に下巻にメインで書かれている「日章丸事件」は、自分は全く知りませんでしたが、当時の情勢を考えると本当に一企業が世界を動かした瞬間であったように思いました。
考えてみると、彼の人生は完全に「石油」と石油製品の発展になぞらえていたと思います。先の戦争も、「石油戦争」であったといわれれば、まさにその通りなわけです。もし彼がいなかったら、ひょっとしたら今の石油製品に支えられた日本はなかったかもしれません。青森の油田に目をつけた時点で、ここまで石油が発展していくとは流石に思わなかったでしょうが、業界に携わるものとしての嗅覚がずば抜けていたのは間違いありません。常に一歩先を見据え、それを正しいと信じぬき、周りを魅了し巻き込んでいく、このような人物が今の日本を立ち上げたということを、我々は忘れず、誇りに思わないといけないと思います。

上巻は4日ぐらいかかりましたが、下巻は一気に読んでしまいました。納得のお勧め本です。