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風立ちぬ

2013年08月27日 | Weblog
夏休み終盤、ようやく「風立ちぬ」を観てきました。(ネタバレあり)

「ポニョ」以来の宮崎駿作品と言うことで、公開前からかなり話題になっており、様々な特集番組も組まれていました。自分は普段あまり前情報を得ずに観にいくことが多いのですが、今回は堀越次郎やゼロ戦のことも少なからず調べ、効果音に「人の声」が使われていることや、「タバコ」の表現が多いこと、主役の声が庵野(笑)であること、公開した瞬間から韓国が目くじらを立てていることなど、特集の中からいくつかのキーワードとなる情報を入手していました。正直言って少々知り過ぎた感があり、大事な場面で「人の声」や「庵野の声」に注意を引かれ過ぎてしまいましたが、作品全体としての完成度、充実感は滅茶苦茶高く、流石ジブリの重鎮の作品であったと思いました。また、「タバコの記事の時は「海賊と呼ばれた男」をイメージし、この作品を“伝記モノ”だと捉えていましたけど、そうではなく、実在の人物をモデルにしながらも、やはり歴代作品と同じく宮崎駿の最も得意する、夢のあるファンタジー作品であったと思いました。

震災・戦争と言う重いテーマの中で、ひたすら「夢」に向かって生きる堀越次郎。設計上の問題に当たったとき、「爆弾を積まなければちゃんと飛ぶ」というような本末転倒な発言をしてしまうところに、彼の性格が全て表れているなあと思いました。ちなみにこの作品の中では、寝るときに見る「夢」と、将来の「夢」との境界がほとんどなく、さらにどこからが夢でどこからが現実なのかもはっきりさせないような作りになっていました。そのため、というか、例えば場面が変わり明らかに数年が経っていても「何年後」「昭和○年」などという表現は全く存在せず、主人公が今その場所にいる必然もつかみにくくなっています。登場人物の台詞の中で何となく分かるような時間・場所の移り変わりの曖昧さや、主人公と彼の憧れるイタリア人航空技師カプローニとの夢がつながったり、避暑地でベジタリアンのドイツ人が唐突に現れて歌ったりタバコを交わしたりすることなども、「夢」の中の出来事であったと捉えると納得できますね。「美しい飛行機が作りたい」という「夢」を、簡単にはそうさせてくれない「時代」の中で、精一杯表現しようとした男の10年間のドラマでした。

そうなると、ちょっと菜穂子さんの存在が蛇足的になってしまうのですが・・・それはある意味当然で、病気で苦しむ妻との葛藤の部分は、ゼロ戦の設計者、堀越次郎の物語ではなく、小説「風立ちぬ」の作者、堀辰雄の物語だからです。2つの人生と、さらに宮崎駿自身をも架空の一人の男に持たせた設定が、この映画の堀越次郎というキャラクターであるわけですね。本来混ざらないものも彼にかかればひとつの作品に纏め上げられてしまうと。また、主題歌である「ひこうき雲」も、実は40年前にリリースされた曲なのですが、飛行機に夢を注いだ彼を追いかけ、軌跡を残しつつ消えていくイメージが不思議とこの作品にぴったりで、そういう統合感覚にすばらしいセンスを感じました。

70歳を超えてなお盛んになる宮崎駿監督。ぜひ今後の作品も楽しみにしたいと思います。