【経営コンサルタントのお勧め図書】 管理会計とドラッカー 財務3表一体理解法 2409
―財務3表とドラッカーの視点から「管理会計」を読み解く―
(国貞 克則著 朝日新書)
■ 国貞流「管理会計」を視る(はじめに)
管理会計と財務会計の違いは、準拠する会計基準の有無、会計期間の定めの有無、利用者の社内外の違い、金額以外の集計単位の有無などがあります。つまり管理会計には縛りがないのです。拠って、管理会計に対する向き合い方が大切になってきます。そこで、理系思考・実践的ドラッカー論者・経営コンサルタント経験などの強みを有する著者の管理会計に対する向き合い方を視てみましょう。
一つ目は、「デカルト以来の分析思考で臨むべし」と著者は言います。著者の言うデカルトの分析思考とは、①問題を出来るだけ細かく分解し、②分解した事象をMECE(もれなくダブりなく)に把握し、③それらの事象を分析して得られた普遍的原理から論理的・演繹的推論により一定の結論を導く方法論です(ex:三段論法)。因みに演繹法の提唱者は、「我思う、故に我あり」の名言で有名なデカルト(1596年-1650年)です。帰納法の提唱者は「知識は力なり」の名言で有名なフランシス・ベーコン(1561年-1626年)です。
著者は一つ目の例として顧問先A社の例を挙げます。A社は、親会社の製品を製品の販売会社に卸すBtoBビジネスの会社です。A社では全社の売上と利益を、製品別、顧客企業別、営業拠点別に整理し、それらの数字を営業担当者に紐付けています。A社ではこれらの製品毎、顧客企業毎、営業拠点毎、営業担当者毎のデータの比較分析と時系列分析を行っていました。この分析から色々なことが見えてきます。例えば、ある時点で、一人の営業担当者の売り上げと利益が急に増え、それから間もなくその営業担当者の属する営業拠点の売上と利益が大きく伸びたのです。これは一人の営業担当者が新しい販売手法を開発し、その手法を営業拠点全体で適用した結果であることが判りました。A社ではこの新たな販売手法を全営業拠点に適用し、売上と利益の拡大を図ることが出来ました。
この様に企業の会計数字を分解し分析することで、変化や違いが判り、その変化や違いから原因を突き止め、経営に生かすことが出来るのです。勿論、どの様な分解・分析をするかは企業により、目的により様々であり、管理会計の工夫の為所(しどころ)です。
二つ目は、管理会計の目指すべきところは、「未来に向かって手を打つこと」であると著者は言います。更には、ドラッカー流Management Accounting(管理会計)の考えから、管理会計はコントロールだけではなく、「事業において、人、物、金などの経営資源をうまく生かして、組織の目的、目標を達成していくことである」と加えます。
目的、目標に沿った方針や事業構想(含むイノベーション)を以って、事業を行う前に会計的シミュレーションをし、実行後に差異分析をし、それを踏まえ改善、改革、イノベーションを積み重ねて行くことが、管理会計の目指すところなのです。
以上、国貞流「管理会計」のポイントである「二つの向き合い方」を見てきましたが、「向き合い方⇒考え方⇒分解・分析の仕方」によって、“見えていなかったものが見えてくる”具体例を次項でご紹介します。
■ 見えていなかったものが見えてくる「ABC会計」
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【ABC会計はドラッカーの提唱!?】
著者は紹介本の中で、ABC会計(Activity Based Costing:活動基準原価計算)については、ドラッカーが著書「創造する経営者」(1964年)の中で、次の様に提唱していると紹介しています。「今日、総コストの極めて多くの部分が直接費ではない。特定の製品のコストを知るには、コストのうち膨大な部分が比例配分によって決定されるような数字は役に立たない。明確な焦点のない事業のコスト(ドラッカーは間接費を指している)は作業量による配分が最も現実に近い唯一の計算となる」と。
なお、実践的ABC会計の始まりは、ドラッカーの提唱から20年後、バランスト・スコアカード(BSC)の提唱者のロバート・S・キャプランが、ハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文の、“Yesterday’s Accounting Undermines Production;昨日の会計は生産性を低下させる”( 1984年。邦訳未訳)です。
このドラッカーの提唱を踏まえ、著者は、間接費の配賦について次の様にコメントしています。「今から100年前の産業、例えばT型フォードのような1車種が大量生産される時代には、間接費の配布はシンプルなもので良かったでしょう。しかし、現代は多品種少量生産が当たり前になり、製造工程での組み替えも頻繁になり、加えて、生産活動以外の活動がどんどん増えています。これらの膨大な間接費を、各製品の製造時間といった一つの配賦基準で配賦するのではなく、各活動に応じて集計して、各製品に適切に配賦していくのがABC会計なのです。正確な原価を把握するにはABC会計です」と。
ABC会計の導入は、欧米では標準となっていますが、日本では、導入・運用に手間とコストが掛かることから導入が進んでおらず、10%程度と推測されます。最近は、ERPの導入が進み、販売管理や生産管理、在庫管理、会計などの基幹システムと連携したABC会計による原価管理が採用されるケースが増えています。
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【伝統的会計で隠れていた赤字が、ABC会計で詳らかになる】
これからのIOTの時代に目指すべきABC会計について、伝統的会計との比較をしながら、見てみましょう。伝統的会計で隠されていた赤字が、ABC会計で詳らかになります。
ABC会計は、製造間接費を製品別に配賦する基準を、従来の直接作業時間基準などの代わりに、製造をサポートする活動毎の活動基準(活動時間、活動回数など)により配賦する会計手法です。
ABC会計には、財務会計・原価計算基準に沿った「財務会計的ABC会計」と、間接費の範囲を一般管理販売費や研究開発費まで広げた製品原価の分析や、製品別に加え顧客別の原価の分析などの「管理会計的ABC会計」がありますが、本稿では「財務会計的ABC会計」で赤字が詳らかになる事例を見てみましょう。
ABC会計のイメージと財務会計的ABC会計により赤字が詳らかになる事例、及び、ABC会計を経営の改善・改革に活かすABM(Activity Based Management:活動基準管理)とABB(Activity Based Budgeting:活動基準予算管理)についての簡単な説明を下記URLの【ABC会計図解】に示しました。参照下さい。
URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20240924-kanrikaikei.pdf
■ 「管理会計」により、企業の目的、目標を実現しよう(むすび)
管理会計は数値を通して定性的に経営を“診る”ことですので、“考え方”次第で経営への見方が変わってくるのです。管理会計は財務会計のように基準や法律に従うのではなく、経営の“考え方”に従うことになるのです。(中略)管理会計は、全社一丸となるための仕組みであり経営思想なのです。(『あたたかい管理のための「管理会計の教科書」』今井信行著 秀和システム より引用)
企業の目的、目標を踏まえて、全体最適に、管理会計を運用し、企業経営をスパイラル・アップしていきましょう。