■■【経営コンサルタントのお勧め図書】 脱炭素の「真実」を知る
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『「脱炭素」は噓だらけ』(杉山 大志著 産経新聞出版)
(著者はIPCCの第6 次評価報告書の第三作業部会報告書第16章統括執筆責任者)
■ IPCCの現役統括執筆責任者が身を賭して語る『脱炭素の「真実」』(はじめに)
著者はIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)などの国連機関や、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などの日本政府審議会のメンバーを務める科学者です。
IPCCは1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織で、現在の参加国は195か国、事務局はスイス・ジュネーブにあります。各国の政府から推薦された科学者が参加し、地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、報告書にまとめています。
著者はIPCC第4、5、6次評価報告書の総括執筆責任者を務めています。第5次報告書は、2015年の「パリ協定」の採択に繋がりました。第6次報告書(第一作業部会報告書のみ)は、2021年10月末から始まる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)のベースとなります。著者が関与する第6次報告書(第三作業部会報告書)は2022年3月公表予定です。
ところで、IPCCの気候変動に対する立ち位置について、著者とスタンスを同じくする、温暖化懐疑論者の渡辺正東大名誉教授は次のように指摘します。『IPCCの設立趣意書から読み取れるIPCCのホンネは「温暖化脅威論」「温暖化懐疑論」のいずれが真実か否かは吟味せず「温暖化脅威論」を‟自明な事実”とみて、その‟リスク度”を評価する組織である』と。(藤井厳喜&渡辺正対談『「地球温暖化とカネ」環境利権が生まれたメカニズム〈ダイレクト出版〉』より)
しかし、この様なスタンスのIPCCの中であっても、著者は「IPCC はそもそも政策提言をしてはならないと規定されている」の原則に基づき、責任者として中立的・ファクトベースの情報発信をしています。
紹介本に於いても、自身の覚悟を次の言葉で表しています。「個人的な名誉とか私利私欲の点でいえば『CO2ゼロ』に水を差すことは愚かである。おとなしく同調しておけば、良い身分の御用学者として安穏として暮らすことが出来る。しかし私はそうしない。何故なら『2050年CO2ゼロ』などという極端な政策は、科学的にも、技術的にも、経済的にも、人道的にも間違っていると思うからだ」と。
この著者の、自身の利得を無視し、覚悟を以って、科学的・歴史的根拠を以って、発信する生き様に深く感銘を受けました。また、「脱炭素」について、「真実は何か」との視点で向き合う機会を与えてくれたのが紹介本です。「真実は何か」について次項で見てみたいと思います。
■ 「脱炭素」の「真実は何か」―温暖化と脱炭素を科学的知見から検証―
【問題だらけの「地球温暖化という『物語』」は修正されるべき】
著者は、IPCCの最初の報告書(1990)に基づき作られた「問題だらけの『物語』」は以来繰り返し語られ今に至っており、その主な内容は以下の通りと言います。
① 地球地球温暖化は起きている。
② 温暖化は危険である。
③ 温暖化は人間のCO2によるものである。
④ 待ったなしの大幅排出削減が必要である。
著者は、最初のIPCC報告書からの過去30年間の科学的知見に基づき、「問題だらけの『物語』」は「新しい正しい『物語』」として、次のように修正されるべきとします。(取消線は科学的知見により修正されるべき箇所。科学的知見については、紹介本や「地球温暖化のファクトシート第2版」〈杉山大志資料 下記URL〉を参照ください。)https://cigs.canon/uploads/2021/02/20201119_sugiyama_report2.pdf
① 地球温暖化は起きているゆっくりとしか起きていない。
② 温暖化は危険である過去、温暖化による被害はほとんど生じなかった。
③ 温暖化は人間のCO2によるものであるの理由の一部はCO2によるものであるが、その程度も温暖化の本当の理由も分かっていない。
④ 待ったなしの大幅排出削減が必要である。今後についても、さしたる危険は迫っていない。待ったなしを前提とした大変な費用をかける対策は大きな間違いである。温暖化対策としては、技術開発を軸として、排出削減は安価な範囲に留めることが適切だ。
RITE(地球環境技術研究機構;経産省系研究機関)の資料によれば、研究中の「CO2ゼロ」の技術が「仮に」利用可能になった場合、温室効果ガス(CO2と連動)を100%削減するには2050年で54~90兆円のコストがかかる。このコストは国家予算103兆円に匹敵する。この様な巨額を使うことは正当化できない(コストを掛けない他国との競争力の観点から)。
「新しい正しい『物語』」についての著者の次のコメントに注目です。
「科学者は時には、あのガリレオの様に、一身を賭して権威・権力と対決しなければならない。それが、人類の繁栄をもたらす」と。
「近代科学の父」ガリレオは、1610年頃、木星の衛星の発見を契機に「星界の報告」を発刊、コペルニクスの地動説に言及します。「ケプラーの法則」で有名なケプラーも「星界の報告者との対話」を発刊し、ガリレオを擁護します。
この状況を懸念した時の権力者ローマ教皇庁は、ガリレオに終身刑を言い渡し、軟禁します。ガリレオはその後自宅軟禁状態になり、両目の視力を失いますが、弟子たちの口頭筆記支援を得て執筆をつづけ死ぬまで地動説の情報発信を続けたのです。
■ 「脱炭素」について正しい判断と行動を!(むすび)
「温暖化」「脱炭素」に関しては、ファクトによる検証を基に、正しい判断をし、行動することが日本の強靭化のため、繁栄のために必要ではないでしょうか。
企業価値経営の観点から取り組むESGに於いても、「脱炭素」についての正しい認識を持って推進すべきではないでしょうか。適切なコスト、適切なスピード、適切な方法で推進することが大切です。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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