フランスにいながら日本で公開されている邦画をリアルタイムで観ることは必ずしも可能ではないのですが、公開から何年か遅れでもネット上で観ることができるようになるのは本当にありがたいことです。もちろん著作権を蔑ろにした違法なアップのケースが圧倒的に多いわけですから、喜んでばかりもいられないのですけれど、海外在住者にとってはそれでもやはり嬉しいものです。
そんな「非合法な」仕方で去年観た日本映画の中で特に印象に残った映画の一つが『舟を編む』でした。三浦しをんの原作は読んだことがありませんでしたが、ネットで映画版の評判をちょっと読んで、気になっていました。普段から様々な辞書のお世話になっている身として、辞書作りの現場を主題とした映画がどのようにして可能なのだろうかという興味があったのです。
映画版がどれほど原作に忠実かどうかは私にはわかりませんけれど、端的に面白く観ました(主役の松田龍平も、脇を固める小林薫、オダギリジョーも皆大好きな俳優さんたちだったということもあったかもしれません。ただ、女性陣はちょっと物足りなかったかなぁ。黒木華はさすがの演技だったけれど、出番が後半だけで残念。ついでですが、昨年度の私個人の「輝けテレビドラマ大賞」は、黒木華主演『重版出来!』でした)。年末年始の帰国中に、NETFLIXで同映画を再度観ました(ついでですが、NETFLIXには去年の秋からフランスで加入しているのですが、国によって配信されている映画にかなり違いがあるんですね。フランスでは見られない邦画が日本では沢山見られることがわかりました。悔しい。なんとかなりませんか、これ)。
年明けにこちらに戻って来てから、アマゾンが配信している映画の中に『舟を編む』のアニメ版(昨年十月から十二月にかけて十一話放映)を見つけて数日前から観ています。絵柄は気に入らない(特に、林香具矢がひどい、と私は思う。もっと彼女は丁寧に描くべきではなかったでしょうか。岸辺みどりのほうがよっぽどましに描かれている)のですが、映画にはないエピソードやディーテールが盛りだくさんで、とても楽しんで観ています。
今日、第九回を観ていて、印象に残ったシーンが一つありました。辞書編集部に最近配属された若い女性社員の岸辺みどりが主人公の馬締光也に向かって「辞書って何ですか」って聞いたのに対して、馬締が「人が人と理解し合うための助けとなるものです」と答えているシーンです。ちょっとはっとしたんですね。そんな風に辞書を捉えたことはなかったかも知れないなぁと思って。
でも、今までいろんな辞書のお世話になってきて、フランス語の辞書の中でこの辞書はコミュニケーションのために本当に役に立つなと思っていた辞書の一つをつい最近こちらで買い戻すことができました。日本では、しばらく読んでいると目が痛くなるほど小さい活字で組まれた駿河台出版社版『ラルース現代仏仏辞典』(1976年発行、原版の Dictionnaire du français contemporain は1971年刊行)を愛用していたのですが、その図版増補版(1980年)を日本円にしたら千円程度で入手できたのです(図書館の廃棄本ってやつで、あんまり使われていなかったらしい良本)。以来、折にふれて同辞書を引いているのですが、絶妙なんですよ、定義と用例が。毎朝起床してすぐの二十分ほど、この辞書の中を「散歩」することを最近の日課としています。
そんなわけで今日の記事の写真は、アニメ版『舟を編む』を背景とした同辞書の写真です。