2015年にGallimard 社の « Bibliothèque de philosophie » 叢書の一冊として、Ludwig Wittgenstein, Correspondance philosophique が出版された。九百頁を超える浩瀚な同書には、ウィトゲンシュタインがラッセルのもとで哲学研究を始めた当時のラッセルとの往復書簡から、友人たちとの晩年のやりとりまで、現在までに知られているすべての書簡が宛先人ごとにまとめて収められている。量から言えば、ラッセルとの往復書簡が百頁を超えていて飛び抜けて多いが、ムーア、ケインズ、ラムジー、スラッファ、ラッシュ・リースなどとも往復書簡の形で収録されている。もっとも、いずれの場合もウィトゲンシュタインからの手紙のほうが圧倒的に多けれども。
各宛先人の略伝が各往復書簡の冒頭に置かれ、書簡によってはそれが書かれた前後の経緯なども編訳者の Élisabeth Rigal によって丁寧に説明されており、巻末には、あとがきに代えて、Brian McGuinness の Wittgenstein in Cambridge, Letters and Documents, 1911-1951, Oxford, Wiley-Blackwell, 2012 (2e édition revue et corrigée) の序論の主要部分の訳が付されているなど、行き届いた編集になっている。
収録されている書簡の中には、過去に出版されている書簡集や伝記によってすでに知られている書簡ももちろん多数含まれているが、こうしてすべての書簡が一書に収められていると、ある特定の相手とのやり取りをまとめて読むことができるだけでなく、同時期に他の相手とどんなやり取りをしていたのかすぐに読み比べることができ、それがまたウィトゲンシュタインの人と哲学について新たな興味を掻き立ててくれる。