内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

ルイス・フロイス『ヨーロッパ文化と日本文化』(岩波文庫)、あるいは訳書の愉しみ

2018-11-13 10:00:00 | 読游摘録

 本書は、もと、『大航海時代叢書XI』に『日欧文化比較』というタイトルでアビラ・ヒロン『日本王国記』とともに収録され、岩波書店から1965年に刊行された。
 フロイスの本文そのものがきわめて興味深いのは言うまでもないが、それらはすべて簡潔な箇条書きからなっていて、それらの観察の根拠であるはずの長年の経験・見聞や基になっている史料はそこには言及されていない。もちろん、フロイスの数多くの書簡や膨大な『日本史』を併せ読むことで、それらの観察がフロイスの長期日本滞在経験の集約であることがわかる。
 この岡田訳を特に貴重なものにしているのは、本文の数倍の量の訳注が付され、さらに少なからぬ図版も挿入されていることである。1991年に岩波文庫に収録されるにあたって、高瀬弘一郎氏が、訳文の細部にわたり、若干修正を加え、そしてそれに伴って必要が生じた範囲内で、注記についても少しばかり加筆されている。
 仏訳 Européens & Japonais. Traité sur les contradictions & différences de mœurs, ecrit par le R. P. Luís Fróis au Japon, l’an 1585, Chandeigne, 3e édition revue, 2012 (1998) には、申し訳程度の脚注が付けられているだけ。
 レヴィ=ストロースが同訳に序文を寄せている。この序文は、のちに L’autre face de la lune (Seuil, 2011) に « Apprivoiser l’étrangeté » というタイトルで収録されている。同書の邦訳『月の裏側』(川田順造訳、中央公論新社、2014年)では、タイトルは「異様を手なずける」と訳されている。この訳書の面白いところは、川田先生が訳注の中でレヴィ=ストロースによる日本の慣習に関する不当に一般化された判断を容赦せずに批判しているところである。レヴィ=ストロースが間違っている場合など、「ここに著者が記していることは、まったく誤っている」と手厳しい。これもまた訳者が果たすべき役割であろう。