内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

歴史人口学、スペイン風邪、「ありてかひなき命」― 採点作業の合間の読書記録(2)

2021-06-06 20:30:31 | 読游摘録

 早朝、小雨降る中、ウォーキングとジョギングを交互に繰返し、一時間二十分で総計一万二千歩。これで十五日間連続。体組成計の数値、全般的に良好。BMI : 21、体脂肪率 : 16%。採点作業は、残っていた課題レポート七本の評価はすべて終え、試験答案も四枚採点する。これで残るは答案二十一枚。これらの作業を昼前には終える。昼食後、ネットフリックスで一本テレビドラマを観る。その後、自由読書。
 「メディア・リテラシー」の最後の授業で取上げたエマニュエル・トッドの『パンデミック以後』に、日本の歴史人口学の大家、故・速水融とその弟子たちによる近世日本の人口動態と家族形態についての研究への言及がある。以前から歴史人口学的観点を「近代日本の歴史と社会」の授業に取り入れたいと思っているのだが、ここ三年そこまで手が回らず持ち越している。『パンデミック以後』では、現在の日本の人口動態危機が話題となっている箇所で言及されているのだが、残念ながら時間切れで授業では取上げられなかった。来年度の授業では歴史人口学の知見を是非導入したい。
 その速水融の『歴史人口学で見た日本』(文春新書 2001年)のまえがき、第一章「歴史人口学との出会い」、第六章「歴史人口学の「今」と「これから」」を読む。残りの四章は明日読む。『歴史人口学の世界』(岩波現代文庫 2012年)も読みたいのだが、現在版元品切れ。速水氏のお弟子さんの磯田道史氏の『感染症の日本史』(文春新書 2020年)の第九章「歴史人口学は「命」の学問――わが師・速水融のことども」も大変興味深く読む。
 同書第八章「文学者たちのスペイン風邪」に永井荷風のことが出てくる。『断腸亭日乗』の記述によると、荷風はどうやら大正七年十一月と大正九年一月の二回、スペイン風邪に罹患したらしい。二回目は症状が重かったことが『日乗』の記述からわかる。
 一月十二日、「夕餉の後忽然悪寒を覚え寝につく。目下流行の感冒に染みしなるべし」と記す。翌日、体温四十度に昇る。十四日、なじみの女性の姉が看病に来る。十五日、大石という医師が朝夕二度診察に来る。十六日、「熱去らず。昏々として眠を貪る。」十九日、「病床万一の事を慮りて遺書をしたたむ」と記す。こんなときにも荷風は日記を書き続け、書物を読み続けようとしているが、この十日ほどは一日一行程度。それだけ重症だったのだ。ようやく快方に向かうのは二十一日。その翌日、荷風はこう記す。

悪熱次第に去る。目下流行の風邪に罹るもの多く死する由。余は不思議にもありてかひなき命を取り留めたり。

 この最後の一言が胸に染みた。