内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

卒業小論文の口頭試問の準備

2021-06-15 23:59:59 | 講義の余白から

 来月17日の発表準備の目処は立ったので、すぐにも集中講義の準備に取り掛かりたいところだが、五人の学部生の卒業小論文の口頭試問を今週と来週しなくてはならないので、その準備を優先させなくてはならない。「論文」ではなく「小論文」としたのは、原語が mini-mémoire だからである。実際、仮に日本語に訳したとして、だいたい三十~五十頁程度の規模である。ときどき「大作」が出る。今回も一つ、日本語に訳せば、百枚は優に超える論文が一本ある(本人曰く「全身全霊を傾けた卒業にふさわしいものを書きたいと思った」)。
 論文提出に先立つ数ヶ月から数週間に及ぶ指導の過程で彼らの研究内容はよく把握しているし、単位取得を承認するかしないかだけで公式には成績として点数を付けなくてよいし(非公式には、私の評価のしるしとして点数を伝えるが)、提出を認めた時点で単位取得は保証されるから、それほど審査に神経を使わなくてもいいのだが、彼らがせっかく時間をかけて書き上げた卒業記念の「作品」であるから、こちらも真剣に読み、口頭試問ではちゃんと質疑応答もしたいと思うので、どうしても読むのに時間がかかるのである。
 それぞれテーマはまったく異なっている。明日審査するのは、現代日本社会における子殺しと親子心中の社会学的考察、明後日審査するのは、近代におけるニヒリズムの克服の試みとしての山本常朝の『葉隠』とニーチェの『悦ばしき知識』との比較研究。来週月曜日は、明治国家によるアイヌ人学校教育政策に見られる「同化」の論理と構造、水曜日は、神風特攻隊の倫理、そして金曜日は、現代日本におけるプラスチック過剰消費対策(上勝市の「ゴミゼロ運動」の事例研究)。
 学期のはじめに、「先生、こんなテーマで論文書きたいのですが」と学生たちが相談に来る。よほどのことがないかぎり、「いいよ」と即答する。その後、まず問題設定と仮のプランを提出させ、それに対して意見を述べ、ほとんどの場合、問題をより限定させ、かつ明確化させる。次に、仮の文献表を提出させる。あとは書けたところから提出させ、コメントを返す。完成論文の提出までこれを繰り返す。書きあぐねたり、難問に突き当ったりして、相談メールを送ってくる学生もいる。そのやりとりが十数回に及ぶこともある。
 この審査が終了すれば、全員晴れて卒業である。