内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

想像力をフル稼働させて黙示録を読む

2021-11-04 12:45:37 | 読游摘録

 昨日話題にしたヨハネの黙示録の仏訳の訳者による序論と黙示録本文の注釈はとても示唆的で興味尽きないが、黙示録のより基礎的な理解のためにまず小河陽訳『ヨハネの黙示録』(講談社学術文庫 2018年 原本初版 岩波書店 1996年)を読みながら摘録していきたい。本書には、キリスト教図像学の専門家である石原綱成の編集による黙示録に基づいた図版集が添えられていて、ヨハネの黙示録がどれほど西洋精神史に深い影響を及ぼしたかが豊富な図版とその解説によってよくわかるようになっている(ただ、この文庫版では図版がすべてモノクロなのが惜しまれる)。
 以下は、小河氏の「はしがき」からの摘録である。

 この書はヨハネと呼ばれる人物が世界の終末についての自分の幻視を物語った書である。彼はそれを預言者として語っている。しかし、それらは神が将来に備えた出来事、すなわち現在は天上において隠され、近い将来に人間世界に介入してくる未来の出来事を語っているだけではない。他方では、著者はすでに実現された世界の終末を、つまり、キリストの支配、サタンの敗北、信徒の救いについての、目に見えない神秘ではあるが、すでに現実となっている事柄を幻として見ているのである。そこに、彼の幻が持つ力強さの理由がある。
 著者ヨハネは、幻視を旧約聖書やいわゆるユダヤ教黙示という伝統世界で知られた表象や象徴を縦横無尽に利用して語る。彼はそれに依拠するのではなくて利用するのである。それは彼の言葉を理解しようとする者にも、彼と同じように表象や象徴の世界を自由自在に駆け回るだけの想像力を要求する。西洋諸国の教会伽藍の種々様々なステンドグラスや壁画は、あるいは黙示録注解書にちりばめられた挿し絵は、歴史において人々が馳せ巡らせたそのような想像力の記録の一部である。本書はそのうちのごく一部を黙示録本文と共に収めたものである。それは黙示録の世界の豊かさを証言する一つの試みではあるが、もしそのことが読者の想像力を一定のイメージに固定させてしまうとすれば、黙示録が持つ無限の世界に一つの限界を定めることになってしまう。読者諸子は、過去の読者が働かせた想像力の記録である図版をてこに、さらなる想像力を働かせて、本文が持つ創造力の豊かさを体験していただきたいと願う。