『ヨハネの黙示録』(講談社学術文庫 2018年)の小河陽による解説の要点をまとめる。解説は六節に分かれており、それぞれ、著者、成立年代、成立場所、資料、執筆意図、文学的・思想的特徴について述べられている。今日の記事では最初の四節の要点を示す。
この黙示録の著者についてわかっていることは少ない。著者は自分を預言者と呼んではいないが、自分の著作を「預言」と呼び、幻を見せてくれた天使に、「私は……あなたの兄弟である預言者たちと……同じ、〔神に仕える〕僕仲間なのだ」と言わせていることから、預言者としての自意識を間接的に示唆しているようである。小アジアの七教会と親交があったことは、著者が個別教会を越えた、この地域の指導的人物であったことをうかがわせる。
本書の成立年代は、一世紀末のドミティアヌス治世とする説がもっとも説得力を持っている。
成立場所については、小アジア西岸地方のどこかで編纂されたものであるという点で諸家の意見は一致している。しかし、それ以上に特定しようとする場合、パトモスあるいはエフェソと見解が分かれる。本書は小アジア西部の七つの都市にあるキリスト教会に宛てられているが、それらの都市はいずれも紀元一世紀のローマ属州であったアシア州にあった。
本書は、全体にわたる一貫性のあるプランを有していない。種々の素材を利用して執筆された文書とみなすべきである。著者は旧約聖書に精通しており、本書の至る所でそれを引用ないし暗示する。著者は、旧約聖書を記憶から自由自在に利用し得るだけ熟知し、それを自分の黙示的な関心に沿って再解釈している。著者は黙示伝承にも精通していた。その他のキリスト教黙示文書との顕著な類似は、本書が初期キリスト教黙示文学を代表するものであることを示している。イエスの著名な教えがほとんど用いられておらず、またイエスの地上の生涯に対して完全に無関心であることは、本書が福音書を生み出した初期キリスト教思潮とはまったく別の潮流を代表するものであることを示している。