内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

自分の論文を演習の課題テキストにする

2023-06-21 11:07:46 | 講義の余白から

 来年度で十年連続担当することになる修士一年前期(九月から一月)の二つの演習は、一つの共通の最終目的のために組み合わせて行われている。その目的は、二月に行われる日仏合同演習における日仏混合チームによる日本語での最終発表である。この合同演習については、毎年二月上旬それが終わった直後にこのブログで総括的感想を述べてきた。
 この合同演習の準備に約五ヶ月かける。その準備期間には、ZOOMを使った四回の日仏合同遠隔授業、チーム内の学生間のZOOM・LINEを使った話し合い・準備作業も含まれている。この演習方式は、この九年間、いわば手塩にかけて育ててきただけに、思い入れも一入である。
 以前話題にしたことだが、この合同演習のために日仏の学生たちに読ませる共通課題図書は私が毎年選定してきた。来年度の課題図書も三月末に選定し、いくつかの代替案とともに、四月初めに日本側の責任者の先生に選定私案をお送りした。
 ところがちょっと意外な展開となった。先方に迷惑がかからないように詳細を省くが、その先生から課題図書変更依頼がその理由説明とともに届いたのである。それを読むと、ちょっと呆れてしまうような内部事情なのだが、先方の苦衷はよくわかるので、選定し直すことにした。
 選定私案には四つの代替案も添付してあったのだが、実はそれらにはそれぞれ難点があった。高すぎること、難しすぎること、長すぎるすぎることなどである。そこで再考した。
 一日思案の上、思い切った提案をした。私自身の二つの日本語の論考を共通課題テキストとして提案したのである。いずれも『現代思想』に掲載された、「他性の沈黙の声を聴く 植物哲学序説」(二〇二一年一月号)と「食べられるものたちから世界の見方を学び直す 個体主義的世界観から多元的コスモロジーへ」(二〇二二年六月号)である。この二つの論考は、それぞれ植物哲学と動物哲学の欧米における最新の動向を主題としている。
 もしかしたら、先とは別の理由で拒否されるかも知れないと危惧したのだが、幸い快諾してもらえた。
 フランス人学生に私の日本語の論文を読ませるのはちょっと酷な話なのだが、参照している文献のほとんどはフランス語なので、その点彼らに「地の利」があるし、なにしろ執筆者自身が演習を担当するのであるから、彼らも心置きなく疑問点・不明点を質問できるわけである。これは日本人学生についても同じだ。
 それに植物・動物、菜食・肉食といった誰にとっても身近なテーマであるから、学生たちに関心を持ってもらいやすく、議論も活発化しやすいだろうという予想も、この大胆な提案の理由の一つである。
 ところで、今朝方、日本のある有名な出版社から、上記の論文「他性の沈黙の声を聴く」が今年の現代国語の試験問題として某私立大学で使われ、その入試問題を同社のサイトに掲載したく、その許可をいただきたいとのメールが届いた。断る理由もないので、すぐに承諾書を送信した。二年連続で同じテキストが大学入試に使われたことになる。いずれも関西の大学であるのは単なる偶然であろうか。