内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

日本人の死生観についての学生たちの発表を聴く(上)

2023-12-14 09:41:35 | 講義の余白から

 「日本の文明と文化」の授業の今学期最後の二回は学生発表に当てられている。日本人の死生観に関して学生たちが自分たちで選んだテーマについて日本語で発表する。昨日水曜日はその一回目だった。発表の条件として、単独発表は不可、二人ないし三人で発表することとした。発表時間は、デュオは十分、トリオは十五分を上限とした。昨日は、デュオが三組、トリオがやはり三組、計十五名が発表した。
 デュオの一組は、「仏教と神道の死と生の思想」というテーマで、テーマ自体は悪くないものの、中身はちょっと救いようがなく、発表後の私のごく簡単な質問にもまともに答えられなかった。
 その他はなかなかに聴かせる内容だった。テーマはそれぞれ「命の価値」「他界観」「桜に見る死生観」「日本文学における死生観」「東京裁判における死刑判決」であった。
 「命の価値」のデュオは、自分たち自身の死生観を語るという内容で、発表にはちょっと演劇性も含まれていて、聴いている学生たちの受けは悪くなかった。
 「他界観」のトリオは、発表の一ヶ月前から参考文献をよく調べ、日本人の他界観について多数の図版や写真を使って、内容の濃い発表だった。
 「桜に見る死生観」のトリオは、桜が古代から現代まで日本文化のさまざまな分野で生と死の象徴としていかに機能してきたかを、例を多数挙げてわかりやすく説明していた。発表後、発表した学生の一人から「散り際」という言葉のニュアンスについて私が逆に質問を受けた。いくつか用例を示しながら説明したが、この言葉に注目するところにも彼のセンスのよさが感じられた。
 「東京裁判」のデュオは、鶴見俊輔の A Cultural History of Postwar Japan 1945-1980 に依拠して、東京裁判で死刑判決を受けた当事者たちの死生観と東京裁判に対する日本国民の反応の中に見られる死生観とを上手にまとめてあった。
 昨日の発表で私が最も高く評価したのが「日本文学における死生観」のトリオである。日本文学といっても漫画もその中に含まれていたのだが、その『私たちの幸せな時間』(新潮社)という漫画についての発表が特に優れていた。発表した女子学生は、この漫画を三年ほど前に読んでおり、この漫画から今回の発表のために特に死生観を引き出したのだが、それがとても的確な日本語で見事に説明されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿